Merzbow Works
Hiyodori: 13 Japanese Birds Pt. 9 (2009:Important records)
Recorded and mixed in Tokyo, July 2009 at
Munemi House
Masami Akita - Music
月間メルツバウ日本の鳥シリーズ、第9弾はヒヨドリ。
共通テーマのドラムとノイズの融合は本盤でも続く。個別アプローチは、ドラムとシンセの共存か。くっきりと轟音ノイズの中でドラムを聴かせる手腕はそのままに、個々のノイズを膨大に詰め込みながら、どれも明瞭に響かせる。周波数の魔術師だ。
ドラムのアプローチも音像の一要素にしたり、バンド風に有機関係を持たせたりと、曲ごとに実験を施した。前半30分でまずはどっぷりとノイズの渦とコミカルなエレクトロ・パーカッションの奔流をみせつけ、おもむろに次の曲でアレンジの実験を試していく。
このシンセドラムっぽい音色も、本シリーズでは本作で改めて強調されたパターンだ。
<収録曲>
1. Hiyodori 30:20
つんざくハーシュ・ノイズ。ドラムは幻影だけ見えるが、はっきりしない。鋭い高音が貫き、改めて高速ドラムの連打が現れた。ビート感は無く勢いを込めて。吹きすさぶノイズに負けじと、いや追い越さんばかりにドラムが猛烈に叩かれる。蹴飛ばされたように、ノイズ群も音色を増やして、速度を上げた。
ドラムはすこし軽やかな響きに変えて、若干テンポを落した。ノイズがここぞと覆いかぶさり、塗りつぶす。しかしドラムも消し去られず、きれいに金物を響かせた。シンバルよりも金属の棒を叩くかのよう。ポリリズミックなノリをノイズとドラムで提示する。どちらも明確な小節感が無いのに。
ドラムよりも振動するノイズのほうが主役を張る。ノイズの奥深い霧の奥で、やたら明瞭に金属音が鳴る。いや、表面でコミカルに鳴るノイズがドラムの残骸か。音色をやせ細り削られたか。轟音ノイズの前で遊ぶように、シンセっぽいドラムが響く。空虚に、余裕たっぷりに。
8分半でいっきにノイズを吹き飛ばし、粘っこいアナログなゴムっぽいノイズが主役。影でメロディアスに鳴るエレクトリックなビートが味付け。その音色を波形加工し、弾むビートとくるくる混ぜた。隙間を多く、風通し良くして。
やけに吸い込まれる音像だ。目先のノイジーな音像は、ざらついた残像。奥で伸び伸びとドラムが鳴る。奇妙なほど軽やかに。
がぶがぶと電気の蟲が空気を食む。コロコロ弾むビートが丸餌のように。霧吹きの電子音が、やがて激しくシャワーとなった。ビートは無秩序に撒かれ、サイケな香りを漂わす。
正面で激しく、蟲たちが口を動かし咀嚼した。
いつしか世界はスペイシーに表情を変える。低音成分が薄い。重心軽くじわじわと底上げした地平を、高音の電子音がひっかき傷を無数につけた。
ドラムの音は周辺以外、肉抜きされた軽さだ。降り注ぐハーシュと、やたら軽い電子音に混ざってるが、確かにドラムがいる・・・気がする。怒涛の畳み掛けは、ドラムの連打ではないのか。シンバルのゆったりした打擲は、聴こえているはずだ。
奇妙にポップな風景。メロディもビートも和音も、何もないはずなのに。白く蒼く塗りつぶされた高音ノイズの中、目立て瑞々しく弾む電子音のノイズ音色だけを手がかり、いや耳がかりでポップさを追求する。現れた細長いシンセの音色も、その手助けだ。
テンポも拍子も無い。だが繰り返し落ちてくる打音にパターンを、耳は探す。そして無闇にせわしないビート感を感じてしまう。
長く伸びるフィルター・ノイズ。周辺で刺々しく捩る音。それらがビートを突き抜けて、大きく宙を突いた。
やがてうつろでスケールの大きな響きに変わる。ドラムはシンバルの残骸とエレクトリックな響き。ノイズは数本にまとまって、じっくりうねった。
じわじわとフェイドアウトするかのように、ノイズが身を潜めていく。隙をみせず暴れまわりながら。鋭く体から棘を幾本も点に向けた。余韻のように新たなノイズも現れる。 急速に音が途切れ、幕。
2. Across The Earth 16:18
強烈な起伏のある一曲。ノイズと静寂が同居した。意外と静寂を使わないメルツバウなため、新鮮な構成だ。
冒頭から唸りあるフレーズ・ループとドラムの対話。ロックのリフを聴いてるかのよう。乱打気味だがドラムはビートをくっきり提示し、4拍子で割り切れる構成。さらに歪んだノイズが降り注ぎ暴れるさまは、まさにディストーション効いたエレキギター・ソロ。
70年代の骨太ロックか、90年代のグランジを連想する。ハードロックだがヘビメタでは無い。強烈なワウっぽいノイズの響きは、ジミヘンのようだ。冒頭のリフが、一瞬だけスルリと入れ替わった。ソロとリフの対比が異様にカッコいい。たしかにノイジーだが、この楽曲だけ取りだしたら、ロックの文脈でそのまま聴ける。
リフの繰り返しに戻った。高音強調のフィルター・ノイズが吹上げた。ライブ会場でそそり立つ火柱のように。ただし真上でなく、真横のイメージ。いわば飛び交うレーザー光線か。
ハーシュなノイズがハード・ロックのイメージそのままに続く。ドラムがきっちり存在し、リフが執拗にビート感を提示するためだ。
6分強からの、シンプルなタム回しのドラム・フィルが異様に格好いい。テンションがグイッと上がり、どんどん重厚なグルーヴを出した。
音像構成は一緒でも、ひんぱんに音色のバランスを変えるミックスが良い。ピントをさまざまに変えるような、鮮やかな視点変化を味わえる。
8分半でドラムの手数はそのままに、ノリが急に半分に落ちた。他の音が一斉に小さくなり、ドラムと低音に。まさにベースのように低音が鳴りつづけてたことを、改めて気が付いた。
気分はまさにリズム隊のソロ。声援のように小さなノイズが浮かび上がる。あれはタムの波形編集で潰した音かもしれない。一気に落差ある見通し良い音像を創るものの、すぐさま新たなノイズが現れては消える。空気はひしゃげ、歪みとクリアな音が混在した。
ドラムはどっしりと4拍子のフレーズを、おかずを入れながら叩く。だんだんフェイドアウト、テンポもリタルダンドしていく。
このまま消えるかと思いきや・・・カットアップで場面が変わった。強引に冒頭の音世界が提示される。まず暗黒リフのみ。ループするフレーズが暗闇をさらに濃くした。
倍テンでドラムの乱打へ。小気味よいノイズが立ち上り、一気に世界は加速した。ドラムを中心に聴いてるせいか、デジタルなテンポ・アップでなくアナログ的な盛り上がりを覚える。
熱く、鮮やかに燃えた。
3. Purple Triangle 17:45
一転して冒頭から、フルテンション。ドラムが猛烈に乱打し、金属質の尖って平べったい数本のノイズが空気を横殴りに塗りつぶした。野太いシンセは細密化され、せわしない脈動の渦が隙間なく埋め尽くす。それでいて、細かな部分まで見通せる涼しげで明瞭なピント合わせが、本盤でのメルツバウ流。
瞬間ごとの風景はめまぐるしいが、全体像はほぼ同じテンションと色合いで進行した。
リボン・シンセの螺旋渦が幾本も飛び交う。ボリュームを上げて、耳を澄ます。構成要素を探るべく。轟音へ、耳を澄ます。
前後左右、二次元で飛び交う電子音。奥行はドラムと低音、超高音。ドラムはいつの間にか、どっぷりとノイズに埋もれた。ドラムの音色は分かるが、音像は隙間なく別のノイズが占めている。
乱打のドラム。うねるノイズは、小刻みに畳み掛けた。中央の自由で奔放なノイズと、パルス風の繰り返しが矢継ぎ早に振り下ろされる。
世界は濃密に噴出が続き、隙の無さに酩酊を覚える。朦朧と音の渦に喉まで、口まで使っていく。そろそろ鼻を超え、目に近づいたか。
テンションは変わらず、飽和した音像の中でビートは乱打を続ける。次々に入れ替わる登場ノイズはパワフルに咆哮して放出、すぐさま充填して再登場。一時も休まない。
メルツバウは止むことなく音域を操作し、個々のノイズを際立たせた。すっきりした采配ぶりが素晴らしい。
最後の最後で他の音をすべて消し、シンバルだけを抜き出した。この大胆なドラマティックさがスリリング。