Merzbow Works

Kokucho: 13 Japanese Birds Pt. 8 (2009:Important records)

Recorded and mixed in Tokyo, June 2009 at Munemi House
Masami Akita - Music

 月間メルツバウ日本の鳥シリーズ、第7弾はコクチョウ。短めの2曲で、長めの2曲をサンドイッチする構成を取った。
 ドラムとノイズの融合を共通テーマに、個別テーマはドラム・アプローチの多様化、だろうか。楽曲ごとに表情はさまざまだが、ロック・ビートをノイズと溶けあわす試みを、そこかしこで感じた。

 シンプルな連続ビート、もしくはパターン。そこへランダムなノイズかパーカッションが加わる。原初的な快楽をシンプルに刺激する。
 さらにノイズ面では、より映像的に鮮やかな構造を作った。強烈な壁の音像からすっきりしたメリハリや、絵画的な定位をもたらす。骨太の厚みから、立体的な音像へ。それが本盤での、メルツバウの狙いではないか。

<収録曲>

1.Mesmerism - 5:33

 ギターの一フレーズを切り取ったようなリフがループし、安っぽい音色のドラムが加わる。ハーシュは白玉のように幕を張り、別のノイズがギター風フレーズを帯域変えてユニゾンする。
 まるでノイズ製のハードロック。まさにロックのダイナミズムから音程を切り取ったものが、ノイズの醍醐味と実感させる曲。やがて左チャンネルで、ソロっぽいノイズの展開が始まった。

 しかし音域に疑問が残る。比較的高音を強調して、空気を埋め尽くす凄みを減らした。明らかに故意。メルツバウはもっと低音をぶちこみ、分厚く重たい音像を作れたはず。

 それが曲タイトル、"催眠術"と関係があるのか。術にかかり朦朧と頭を惑わす、不安定な気分を象徴したのか。
 楽曲が素晴らしくかっこいいだけに、この音像は物足りない。ボリュームを上げれば、もちろん音圧は増す。しかし本シリーズの過去盤で、もっと低音入れた曲もあったと思うが。

2.Black Swan - 24:03

 そう、まさにこれ。冒頭から低音がブワッと押し寄せた。ドラムの激しいソロとハーシュの猛烈な唸り。前曲でのロックのダイナミズムをそのまま切り取りつつ、曲っぽさより盛り上がった中心部分を抜き出したかのよう。

 いったん引いたノイズは改めて仕切り直しで音の壁を埋めていく。中央にドラムをでんっと定位させ、左右からめまぐるしく変化させて潰すさまがスリリングだ。昂然と高らかに吼えるノイズ。テンションは全く落ちず、延々と熱狂する時間が続いた。
 ぎしぎしと引っ張り、張りつめ、吹き飛ばして振り回す。叩き付けるのはドラムの役目だ。深胴の響きがきれいなタムに、ツーバスの連打。だんだん加速する単音の連打は、日本風の太鼓に通じる加速をみせた。

 9分半あたりで、明確にメルツバウはテンポを落した。この楽曲はドラムが後録りか。電子ノイズの盛り上がりとは別次元に、すっとドラムが身をかわす。仕切り直し。
 ノイズは音圧を増すが、調子に乗ったそぶりは無い。最初はセッションっぽい展開と思ったが、このあたりでは別々に存在してるかのよう。

 ドラムがあれこれと技を繰り出す楽曲だ。13分過ぎにシンバルだけ鳴り、一休みする場面も。これまでは叩き続けの場合が、かなり高い比重を占めた。
 再び、ノイズとドラムの饗宴に音像は戻っていくのだが。みっちりと埋まった音像。ドラムとノイズの音は埋もれず、くっきりと聴こえる。
 ドラムの手数は変わり、ハーシュの音構成も変わる。けれどもダイナミックな高揚は変わらない。たっぷりと終盤まで聴けた。

 最後は大観衆の歓声みたいなフィルター・ノイズだけがしばし残った。

3.Colored Rain - 13:22

 すばらしく映像的で凄みのあるノイズ作品だ。

 豪雨の風景か?降り注ぐ細密な線やしずくと、煌めき光る稲光。ドラムはシンバル・ワークを中心にまず鳴らした。漆黒の雲が上空を覆う。唸りと震えが響いた。蠢くのは何か、真っ黒な大きなもの。禍々しい巨体の気配だ。単なるくらやみでは無い。
 冷徹な剣士が刀を抜くような、すらりと響く金物。ドラムはノイズの暴風にまかれず、凛としてランダムなビートを奏でた。

 暴風雲も大人しくしてはいない。雨が上がり雷の残滓が雲の奥でモコモコ吼えた。大きなうねりをみせて震える。ドラムの淡々とした響きが凛々しい。
 一発、二発、さらに幾度も。雲の中で炸裂する鈍く大きな貫き。

 7分辺りで視点が暗雲に変わった。くるり180度立ち位置を変え、ドラムを背後に置いた。目の前でノイズがうねる。あ、だめだ。ドラムは前へ戻ってきた。
 涼やかなシンバル・ワーク。ライド・シンバルの端を軽快に鳴らし、ゆったりと軽やかにタム回し。キックはあまり数が多くない。ランダムである意味ジャジーなドラミングへ、ノイズは強力な揺らぎと咆哮で応えた。恐竜のように。

 ドラムが刻まず、リズミカルなのは雲の端で震える小刻みなもの。シンバルが連続的に鳴らされても、それはビートにもパルスにもなりえない。
 したがって本曲では雄大な風景と卑小なドラムの個人技の対比が、壮絶なカメラ・ワークで表現された。豪快な自然をノイズが見事に表現し、それに一歩も引かず立ち向かうドラムの勇ましさが好ましい。

4.Ushiwaka 2 - 7:25

 "Yoshinotsune"(2004)に収録曲を再構成したもの、らしい。僕はこの盤を聴いたこと無く、聴き比べは出来てない。
 ここではゆるくチューニングされたスネアの4つ打ちと、ドラムセットのグルーヴィな4拍子から幕を開ける。電子音はゆるやかにうねったあと、金属質な肌触りに変化した。
 ぱっと聴いて連想するのは、日本伝統芸の風景。能とか。舞台をゆっくり進む歩幅を煽る拍子が、ゆるいチューニングのパーカッションから安易にイメージが浮かんだ。
 ドラムが少しずつ拍頭をズラしポリリズミックに鳴るが、全体の落ち着いた雰囲気は変わらない。このへん、日本人ならではの皮膚感覚かもしれない。

 和風ノイズ。そこへ、西洋文化のドラムが加わり異化効果をもたらす。ざわついた広がりがめくるめく混沌を促した。しかし太鼓は双方とも揺らがない。一人は淡々と4つ打ちを続け、もう一人は無造作かつリズミカルにドラムを操った。   (2015/9:記)

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