Merzbow Works
Kujakubato: 13 Japanese Birds Pt. 7 (2009:Important records)
Recorded and mixed in Tokyo, May 2009 at
Munemi House
Masami Akita - Music
月間メルツバウ日本の鳥シリーズ、第7弾はクジャクバト。本シリーズでは最短のトータル46分と短く、曲数も5曲と細かく刻んだ。
共通テーマのドラムとノイズの融合は本盤でも続く。個別アプローチは、少々わかりにくい。ミックスのテクニック、だろうか。ドラムの音色や、金物を多用して、ハーシュ・ノイズに埋もれさせずくっきりと聴こえさせるあたり。
とはいえ本盤はまさに創作の実験、もしくはスケッチや習作集に聴こえる。新しい音像に触れかけたと思ったとたん、するりと身をかわし曲が終わってしまう。
<収録曲>
1."Wind of Pain" 7:50
脈動する電子音と、テンポを抑えめに叩くドラム。ドラムは初手から変調された。おそらく、スネアの打音。広がりは全て消され、打った瞬間の音も鈍く引き締められた。
ざらついた金属質なノイズのきらめき。ボコーダーで異界人が喋っているかのよう。ほんのりキュートで、コミカル。いっぽうのリズムは冒頭からのミニマルさを崩さない。
奥まった世界で、ノイズの喋りが笑うように続いた。
いくぶん寂しげに、中央のノイズは振動を続ける。意外にシンプルだな、と思った頃合いで、わさわさと床が湧きギザギザの舞台に変化した。右チャンネルのループに加え、硬質の何かをかき混ぜるような、パーカッシブな音。ミニマルなループが大きな三拍子に聴こえ、新たな掻き混ぜ音はポリリズミック、かつ無秩序にリズムをぶつける。
その新たな小刻みリズムがはじけた。ビートでなく、音の表面が。いっきにハーシュな崩された音色でゴロゴロと転がる。
何となく煮え切らないまま、曲が終わってしまった。最後に一打ち、すべての音が明るく弾むさまがコミカルだ。
2."Pigeon Walk Part 1" 10:15
キックが二発、スネアが一発。ハイハットはきっちり4つ打ち。ゆるやかなエイト・ビート。ごおっとエレクトロ・ノイズが背後に鳴り、新たな蠢きも加わった。奥の方で、奇妙にメロディアスな断片がループしてる。
キックのパターンを幾度か変えつつ、テンポはほぼ一定。どっしりのリズムは、どこかしら落ち着かない。荒っぽいハイハットの音色か、奇妙に軽く鳴るキックか。特に派手な音質変調はかけて無いが、この曲でのドラムは何だか素朴だ。
ノイズ群は新たな音を入れ替えして、変かはつけている。しかし主役は取ろうとしない。ドラムがキックを中心に変化をつけて、手はタムの連打で味を足す。4拍子をキープして。
多様なリズム・パターンの提示がテーマか。空白を良しとせぬよう、ノイズを足して。
いや、ノイズが先でドラムがあとか?これまでずっとドラムは先と思っていた。もしかしたら、広がりあるノイズをバックに、即興的にドラムがこの曲のテーマかもしれない。
あまりハーシュ度合が高くないため、少しは余裕を持って音を聴ける。シンプルなノイズは、同じことをやってはいない。右ではディストーション効いた白玉を繰り返し、左は高速で床を飛び交い始めた。
ドラムはキックだけでなく、ハイハットも細かく刻みを加えた。倍テンで所々打音を抜いて、ハイハットが鳴る。
8分を過ぎてノイズの比率が高まった。ドラムは明確に鳴ったまま。ぽんぽんぽんっと連打する響き線の無いスネアの音が、コミカルだ。本シリーズでメルツバウはずっと、切迫したドラムを披露した。ここでのドラムは、何だか違う雰囲気。
終盤で前面にノイズが出た。ドラムとクロスフェイドするように。
3."Pigeon Walk Part 2" 7:58
唸る電子音。崩し倒されたドラム。いちおう4拍子に聴こえなくもない。そのとたん、半拍ずらしたタイミングで、新たなドラムが現れた。ハイハットだけ微妙に拍頭が異なる。
冒頭のリズムは変調された音塊と鳴り、すべてがポリリズミックにうねる。大きな岩が転がり、破片が周囲に飛び散った。シンバルの音色はひび割れた鋼鉄の味がする。
さらに現れたノイズ群も、どれもリズムが異なった。あるものは高速に脈打ち飛び、別のものは中央でザキザキとうねる。畳み掛けるビートは、オリジナルのテンポと合わない。半端にちぎれた。
いつしかドラムは緩やかなテンポを維持のまま、淡々と孤高のビートに向かった。
周囲のノイズはドラムにパターンを併せようともせず、自分の世界を広げる。この曲はある程度の統一感はあれど、セッションする協力ベクトルは無い。個人技の世界だ。8分弱とあっさり終わったのもそのせいか。
4."Dove Festival" 14:07
冒頭からドラムセットと激しい電子ノイズが充満した。ノービートの強打でドラムセットが強打を続け、ハーシュ・ノイズは多層化して響いた。前半はドラムとノイズはほぼ並列。しかしどの音もくっきりと聴こえる。ミックスの精妙さが、ますます増した。周波数帯域を緻密に使い分け、どの音も明確に聴こえさせつつ、空気に隙間を作らない。
ドラムはツーバスとタムにスネアを叩きながら、シンバルを多用する。これもいくぶん、違いだ。この曲では特に、シンバルに加え金属の棒を叩くような音も聴こえる。シンバルと金物はダビングではないか。
さらに音量バランスの奇妙さも味わえる。ドラムセットの強打は当然、強い音圧とボリュームがある。ハーシュも轟音の印象あり。それらと並列に、軽く金物を叩く音が聞こえる。
本来ならばひとまとめに聴こえるはずもない。ミキシングの妙味ゆえだ。現実にはありえぬ音像を改めて実感させつつ、休みなく変化を続けるハーシュノイズのうねりに溺れる。不思議な酩酊を覚えるサウンドだ。
5分40秒あたりから、しだいに音の主役がドラム・セットに触れていく。低音から中域まで鈍く浸り漂うノイズの中で、ドラムは生き生きとソロを続けた。金物が鳴る。シンバルの強打、そして金属打音の柔らかな響き。強弱が並列で聴こえてくる。不思議な音像だ。
乾いたドラムの音がずいずいと前に出てきた。ひとつながりなキックの羅列。連符がひたすら続くタムやスネア。ときおり強打のシンバル。押さえつけるように叩くハイハット。手足だけで一度に叩ける量に、とても聴こえない。
右チャンネルで涼やかなハーシュがまとまった。フィルター・ノイズだけでなくシンセも含まれていそうな色合いを持って。
ドラムの存在感は増し続ける。右奥で暴れているノイズ以外は、全て叩きのめした。高速ブラストビートが続く。この楽曲はドラムが先、だろうか。その割にノイズの動きが少ない。しかしノイズが先にしては、展開がかなり地味だ。なんとなくドラムが後な気がする。
最終盤でノイズがグッと吹き出し、ドラム・セットを包み込んだ。ドラムの勢いは減じないが。そしてフェイド・アウト。最後にドラムだけが最後っ屁のように一鳴り。
5."Bird Droppings on Your Head" 5:52
クルクルと変わる音像、ドラムとノイズのミックスバランスの変化など、本盤を象徴する一曲。
野太く低いシンセのループに乗って、ギザギザの重たいノイズとドラム・ビートが降ってきた。ループはノイズに喰われ、ドラムと一騎打ちになった。フロアタムと思しき、低音成分をまとった重たいタムの響きが、ずしんと鮮やかに響く。
剛腕ノイズと高音の軽いシンセと、ドラムの周波数が見事に分離してきれいに並列した。ここでは4拍子をドラムはキープ。同じパターンを愚直にドラムは繰り返し、変化をつけるのは強いハーシュとシンセだ。
めまぐるしくビームが飛び交い、黒煙が辺りを包む。ビームが強くなり、ドラムと派手なバトルに。小刻みに畳み掛けるビーム。ドラムは4拍子をやめ、整然とした乱打にパターンを変えた。バトルの最初はスカスカな音像が、どんどん新たなノイズ群が現れて濃密な風景に。しかし盛り上がりそうなところで、あっけなく終わってしまう。 (2015/9:記)