Merzbow Works
Kamo: 13 Japanese Birds Pt. 6 (2009:Important records)
Recorded and mixed in Tokyo, Apl 2009 at
Munemi House
Masami Akita - Music
月間メルツバウ日本の鳥シリーズ、第6弾は鴨。本シリーズではアルバムに3曲程度を収録のパターンが、これまで続いている。アルバムに長尺1曲のみの形式は、まだ現れない。
本シリーズでも、ドラムと電子ノイズの融合は共通テーマで存在する。アルバム・テーマは分かりづらい。双方の融合、か。本盤ではひときわ、ドラムとハーシュが密接に混ざって聴こえる。
<収録曲>
1.Bird Killer Governor Ishihara Deserves To Die 16:44
(当時)東京都知事の石原慎太郎に対する野鳥の駆除を非難する曲、らしい。02年にカラスの駆除を東京都が行ったが、鴨を対象の記事は見当たらず。今一つ釈然としないタイトルだ。メルツバウがカラスと鴨を混合するわけもない。カラスをテーマにした第4弾に収録ならば、ピンとくるのに。
ツーバス・ドラムとシンバルの刻み。じわじわとハーシュが底から沸き出した。中央で鳴るシンバルは音を潰され、加工された風合いだ。小節線の無い、規則正しいが拍子の読めぬビートが続く。
本シリーズ第一弾に共通する音像だが、本盤の方がドラムがくっきり聴こえた。
アナログ・シンセも存在するが、奥の方でわずかに動くのみ。噴出すハーシュをドラムでねじ伏せるかたちだ。各種シンバルとタム回しは同時演奏か?手数の多さから、シンバルをダビングかも。リズムに規則性が無いため、はっきりした自信は無いけれど。本シリーズで聴こえるドラム・トラックは全てが新録でなく、曲によって使いまわしていそう。メルツバウの手癖なのか、連打や微妙なタイミングに既聴感を覚えた。
鈍いフィードバックの咆哮が右で炸裂した。クリアに叩くドラムは中央上部に定位し、ハーシュの浸食を許さない。タムの連打がタム回しとなる。この絶対君主なドラムが、都知事のメタファーか。
右チャンネルのハーシュもあきらめない。猛然と体をよじり、激しく叫ぶ。パルスのように叩き付けるドラムと、粘っこく蠢くハーシュの対比がスリリングだ。
ついにすべてのハーシュをねじ伏せた。ドラム・ソロが激しく高まる。四肢がドラムに叩き付けられた。
右からしぶとく、ハーシュの復活。ドラム・ソロは止まない。左からも現れるハーシュの猛獣。もう一匹、増えた。襲い掛かる。いったんドラムが一呼吸つく。叩き続けるビート。
足元から膝、腰まで。ハーシュがずぶずぶと水位を上げた。ドラムは止まない。
上からもシンセの音が降る。ドラムは、止まない。・・・急速にフェイドアウト。
2.Wilderness In Akasaka 19:39
東京の赤坂に野生のカモ?「赤坂 鴨」で検索すると、鴨料理の頁ばかり出てくる。ヴィーガンのメルツバウが鴨料理でもないだろう。たぶんなにかに、ひっかけたタイトル。
前曲から続くかのように、奥まった残響の中でノイズとドラムの対決が切って落とされた。セッションのごとく、絡み合いながら強靭な音の壁を作った。隅々の帯域まで音が埋め尽くされ、行きつく場所も無い。
混沌ながら細かな音までクリアに録音され、すりつぶす音からひらめく輝き、唸る電子音から精妙なハーシュ、ドラムの連打まで良く聴き分けられる。そんな中、シンバルだけがエッジを潰されたように聴こえてしまう。
中盤までほとんど大きなアレンジの変化はない。構成要素の音は刻々と移り変わり、芯となるドラムをさまざまに彩った。
シンバルに加え、金物パーカッションを軽やかにダビングした。潰れた音色のパーカッションは涼しげなはずなのに、鈍く切ない。
深胴のタム回し。ピッチ高めの硬いスネア。鋭く鳴るライド・シンバル。ハーシュ・ノイズが暴れる中で、ドラムはソロを続ける。冒頭のセッションめいた風景は、いつしか溶けた。ドラムの存在感が増す。
ノイズも終盤で吼えた。互いに存在を主張しあう。
3.Heresy 15:57
タイトルの"Heresy"とは「異教、異端、異説」を指す。タイトルに込められた意味は、残念ながらわからない。
冒頭からドラムの乱打とハーシュの混在。威勢よく吼え、撃ち、暴れる。大きなうねりをもってサウンド全体が流れた。
すっとハーシュが下がり、いっきに整理された音へ。軽快なドラムのパルス・ビートを残し、左右で異なるノイズがせわしなく動いた。シンセは左下でわずかに潜んでいる。主役は尖り震えて激しく捩るハーシュだ。ドラムはいくぶん、奥へ押し込められた。
威勢よく左右でくっきり分かれたノイズ群が目立つ。
ツーバスとスネアのロール、手数多いドラミングよりも強烈に電子ノイズが溢れた。背後にうっすらと低音の広がりが。シンプルなように見せかけても音圧と音構造は複雑な感じ。
つぎつぎに強靭なフィルターノイズが注ぎ込まれ、みるみる耳は飽和する。
音数は多いが変化を控えたドラミングを、さまざまな鈍い色で次々にノイズが彩っていく。おもむろにアナログ・シンセのみずみずしく弾力ある響きも姿を見せた。ときに音色加工され、ボロボロにざわついていく。
とにかくスピーディ。ドラムの連打以上にノイズが表面と表情と色合いを変化させ、めまぐるしく落ち着かない喧騒を魅せた。
音圧と構造へ慣れそうになったとたん、すぐさま新たなノイズが奔出する。このアレンジセンスは、本当に見事だ。どこまでが即興だろう。濃密な絡み合いでノイズが溢れ、ドラムが鳴る。終盤でドラムはゆっくりとスネアを叩き、再び疾走。さりげなくメリハリをつけている。
電子ノイズは最後まで休むことなく身体を振り続けた。野太く、しなやかに。
まず、ノイズがフェイドアウト。つぎにドラムがすっとフェイドアウトした。 (2015/9:記)