Merzbow Works
Karasu: 13 Japanese Birds Pt. 4 (2009:Important records)
Recorded and mixed in Tokyo, Feb
2009 at Munemi House
Masami Akita - Music
月間メルツバウの第四弾はからす。20分前後のちょっと長めな曲を並べた。やはり主軸のテーマはドラムとシンセやノイズの融合。
本盤ではドラムの立ち位置をさまざまに変化させた。これまで本シリーズではドラムが多かれ少なかれ叩き続け、存在感を出した。
けれども本盤ではドラムが一休みしたり、キックやシンバルのみに限定したり。ノイズとの関係性や存在を探った。過去にシンバルで軽く行われていた、音色の波形加工も本盤は顕著。例えば(2)で、叩く音がフィルター処理で変化したサイケなドラムを聴ける。
<収録曲>
1."Argus" 19:40
歯切れ良いドラム乱打とシンセの奔流が幕開け。タムのピッチがぐっと下がって低く鈍い音を出す。フロア・タムかな?ノイズは低くザラついた音色が噴出した。低音を複数の音色で埋め、上物を小刻みに突き刺す。ドラムの音を聴きつつ、合間にシンセを素早く指し込んだ。これまでよりドラムとシンセの融合がセッション風になされている。
ビートやテンポは希薄なドラムだが、なぜかグッと熱い。ドラムとノイズのミックスを並列にバランスさせて、アグレッシブに突き進んだ。
前のアルバムで聴けた「君が代」メロディの断片がふっと顔を出す。いくども。"Suzume:
13 Japanese Birds Pt. 1"でのパターンを仕切り直し、か。
ミックスは本盤でもきれいに配置され、ハーシュが強力に炸裂しててもドラムは消されない。上手く周波数帯を分けている。
9分過ぎに聴ける、野鳥のさえずりを膨大に足したような電子音の響きも、迫力あって良かった。
咆哮するエレクトロ・ノイズの嵐へ心地よく浸れる一方で、明確なコンセプトをつかみづらい。高周波から低音まで万遍なくハーシュをばら撒く一方で、ドラムを聴かせるミックスか?
ちなみにハーシュのほとんどはPCの波形編集だろうか。アナログ・シンセの伸びやかな音、生ドラムのみずみずしさ、電子音のつんざく角ばり具合。三者三様のノイズが、きれいに一つへまとまった。
14分過ぎにドラムがいったん手を休め、ペース・チェンジ。スネアを連打する響きと、細く鳴るシンセの音が相まって日本の祭囃子を連想した。猛然とざわめくノイズは奥行深い混沌を示す。祭りの喧騒と混沌が誘発する酩酊を、疑似体験してるかのよう。
2."Stone the Crows" 27:35
ドラムは影を潜め、電子音の奔流が幕開け。シンセを中心に濃密で密集した鋭い音の塊が現れた。ひとときも休まず表面も高さも太さも変え、けたたましく落ち着かなく騒ぎ立てる。しかしどこか柔らかいムードもあり。
おもむろに現れるドラム。キックのダブル・ペダルとシンバルのみ。シンバルはフィルター加工され、残響がすいっと宙に絞られた。
音像は変わり続ける。ドラムはここで要因の一つに身を引き、時に手を休め静寂へ。
ノイズのオーケストレーションこそが、本曲での醍醐味だ。轟音は常に音程を変え、ミニマリズムやドローンの要素は皆無。似たようなアレンジと思わせて、ひとときたりとも同じ瞬間は無い。
太いノイズは音程をわずかに変えながら、絶叫を続ける。まろやかなシンセは現れる数を変えながらさえずり飛び交い、そして舞う。
ドラムはキックが思い出したようにときおり踏まれた。タムの連打はこの曲では印象が薄い。シンバルとバスドラだけが存在を緩やかに主張した。
全てのノイズが消えて、14分過ぎにドラム・ソロへ。音色は強烈に波形編集され、鈍くひしゃげた音色に。これほど激しい音色加工は、これまで本シリーズで無かった。
おもむろに再度吹き出す、フィルターノイズ。シンセもぎしぎしと蠢く。ブレイクからのダイナミックな再稼働だ。
ドラムはスネアも加えリズムを刻んでいる・・・ようだ。継続して波形処理は行われており、輪郭も残響もゲート処理され電子音と似かよった要素として、音楽に溶けた。
18分過ぎに明らかな場面展開。フィルター処理されたドラムを奥底に配置し、アナログ・シンセの軽やかな響きが存分に踊る。ひねりよじり震える電子音。
最後はループする太い音をバックにドラムは消され、ハーシュだけが吼えつづけた。
3."Morgue" 16:56
ひしゃげたドラムと電子ノイズが突っ込む。(1)よりも若干、音は暗い。
タイトルは死体安置所。(1)のアルゴスはギリシャ神話から。カラスとの関係は良くわからない。アポロンにひっかけてるのか。カラスは力強さの象徴から、(2)で石で追われ死体に至る。そんな一連のドラマ性を本盤に込めたか。
ぐっとパンチ力ある音質は、前作最終曲に通じる。ドラムはシンバルが波形編集でひしゃげてるようだ。インダストリアル、もしくは金属質なノイズのイメージがある。冷徹で硬質、割れそうに鋭い。しかし低音をしっかりさせ、不安定さは無い。
はかなげとは真逆なノイズだ。ランダムながら不思議とミニマルさを滲ませる。ドラムの連打やシンセのおかずなど、同じひとときは皆無なのだが。
薄暗いムードの沈鬱さと、静寂を回避する乱雑さ。危うく閉塞した不穏なムードが表現された。構成要素はドラムの重苦しさと、吹き群がる低音。軋む高音と暴れる砕片。 (2015/9:記)