Merzbow Works

Yurikamome: 13 Japanese Birds Pt. 3 (2009:Important records)

Recorded and mixed in Tokyo, Jan 2009 at Munemi House
Masami Akita - Music

 月間メルツバウの第三弾はゆりかもめ。電車ではない。鳥が本シリーズの共通テーマだ。これまで比較的短めな楽曲続きの本シリーズだったが、ここで30分越えの長尺を1曲、投入した。
 生ドラムとハーシュやシンセサイザーとの饗宴が、基本コンセプト。けれども盤ごとに、メルツバウの演奏の方向性は変わっていく。

 本盤ではドラムの演奏を強調した。ノイズにかき消されず、きれいな深い響きのドラムが鳴りつづける。
 剛腕ハーシュの中で、ハイハットの音すらきれいに聴き分けられるミックスが見事だ。ヘッドフォンで聴くと、ドラムと電子音のパンチ力に凄み有り。
特に(3)の音圧がすさまじい。

<収録曲>

1.Black Headed Gull - 31:42

 ゆりかもめの英語呼びが"Black Headed Gull"。ドラムが一打ち、ゆっくりと4拍子を刻み始めた。前作までは連打で小節線を意識させなかったが、ここでは明確にビートを提示した。ひっきりなしに入るフィルの前で、電子音が鳴る。ひよひよと複数のシンセが舞った。 
 ツーペダルのキック連打。腕のテンポは変わらず、足が煽り始めた。おもむろにテンションが上がっていく。

 電子音は揺らぎを強めながら、存在感を増した。ドラムは依然、冷静に刻みを続ける。途中で中抜きフィル、タムの連打へ。まだ、テンポは変わらない。
 野太い電子音が膨らみ始めた。ハーシュ・ノイズがギシギシ軋む後ろで、ドラムはタムの連打を続ける。やみくもな手数だが、あまりテンポが変わった気はしない。ビートは常に保たれている。

 ついに激しいハーシュの咆哮。ディストーション効かせたエレキギター・ソロのようだ。中央で緩やかな譜割。アナログシンセの太い響きに呑まれかけ、互いに舞いながら前へ出た。
 ドラムがここで小節線は消え、連打へ。深みのあるチューニングのタムが柔らかく鳴り、ざらついた電子ノイズとの対比を示す。再び、ドラムがテンポ・キープを始めた。軽やかにキックとタムがさまざまなパターンを提示した。
 倍テンで小刻みにハイハットとタムを混ぜたパターンにドラムが変化する。

 轟音ハーシュが空気を埋め尽くし、複数の電子音が飛び交う。塗りつぶされた空気の中で、ドラムは依然として存在感を示し続けた。くっきりと聴こえる。前作ではしばしば、背後に潰されるミックスだったのに。本盤では常にドラムとノイズの並列を示した。
 ノイズがバック、ドラムが主であるかのよう。ハイハットの音が、複数の電子音が轟く中ですら、くっきりと聴き分けられる。周波数帯の勝利だ。

 轟嵐を増す電子ノイズ。ついにフィルターノイズの咆哮が、強力に風景を塗りつぶす。しかし左チャンネルから溢れださない。だからこそ、右チャンネル寄りのドラム・ソロが依然としてクリアなままだ。セッションめいた対話は互いに存在しない。並列のまま、ノイズもドラムも鳴りつづけた。いつしか手数多いドラムだが、倍テンと取れば元のビートとあまりテンポは変わってなさそう。

 右チャンネルからもシンセが奔出。しかしドラムは消えない。シンバル打ちを混ぜながら、きれいに叩き続ける。クラッシュ・シンバルの響きが電子ハーシュと奇麗に混ざる。
 あくまでドラムが存在を主張するが、ノイズ勢も変化を続けている。埋め尽くすきめ細かな音と、ひよひよと明るく太いリボン風の二種類が、互いに幾本もそそり立った。シンセ勢はミニマルな展開に見せかけて、ひとときも休まない。変化し続ける。
 さらに新たな音色も常に投入あり。とはいえ少々、長尺過ぎる展開は否めない。

 19分過ぎくらいで、シンセとドラムが急に寄り添った。セッションめいた盛り上がりを魅せる。軽快にシンバルとタムを連打するドラム。ひよひよと小刻みにまくしたてる鳥のようなシンセ。スッと切り落とされ、ドラムが目立つ。ハーシュはそのまま空気に充満してるけど。
 
 エンディングに向けテンションは加速する。最後まで、ドラムはくっきりと音を響かせた。録音はドラムが先、電子ノイズはあとのような気がするが・・・。張りつめたままのドラム・ソロは、単独だと集中力を切らさぬところは意志が強い。ツーバスにタム連打、ハイハットも混ぜたパワフルなドラミングが終盤でも続いた。もちろんシンセも複雑に鳴りつづける。
 ついに最後の数十秒で、ドラムを打ち消してシンセが勝った。

2.February 2002 - 13:33

 標題の意味が思い当たらない。特にこの時期に発生した事件ってあったっけ。何らかの出来事にかけていると思う。ためしに検索したら、こんなページがヒットした・・・でも、関係なかろう。 

 インダストリアルなループに、ひしゃげたドラム・ソロが炸裂した。冒頭はシンプルな音構造。ドラムを全面に出し、背後はループのみ。波形編集でわずかに音色が変わってる気もする。
 残響を持ったインダストリアルへ、そっとノイズのざらついた音が加わってくる。ドラムは感知せず、力強く叩かれた。ループの係留された時間軸はそのままに、インプロで展開するドラムが、ぐいぐいと流れを前に推し進めた。

 3分15秒過ぎに、野太いシンセが鳴る。霧笛のように。明らかに音色の変わったインダストリアル・ループと混ざりながら立つ。ドラムはわずかにざらつきながらも、ボリュームは変わらない。右チャンネルで盛大に響いた。

 ここでもドラムは存在を明確に主張した。ノイズは役割分担が変わってく。いつの間にか轟く電子音が吹き荒ぶ。ループはそのまま、残ってる。メカニカルなシンバルの連打。ダビングでシンバルのみ録音したようにも聴こえた。

 がやがやと賑やかな音像は、ループを土台にドラムを飾り奥行深い壁をノイズが立てた。7分半でメロディアスなシンセの音色。すかさずドラムはタムの連打でスペースを貫く。ドラムを先に録音、あとからシンセをかぶせたか。見事な間を縫ったシンセの登場だった。

 ドラムのパターンとリンクして、フィルター・ノイズが揺れる。ドラムの波形編集だろうか。考え込んでるうちに、ノイズの大波。ドラムを吹き飛ばすに至らないが、空間をどっぷり塗りつぶす。ダイナミックなひとときだった。

 終盤はループが消え、だんだんとノイズのバランスが下がる。そこへシンバル連打のドラム・ソロが続くかっこう。急に低音が強調され、ぐうっと空気が重たくうねった。
 
3.The Angel Of The Odd - 8:05

 エドガー・アラン・ポーに同名の短編あり。邦題は"不条理の天使"(1850)。未読で、この小説に対するコメントできない。Wikiの概要では、とくにゆりかもめに関連する物語ではなさそう。

 ぶしゃくしゃにひしゃげた、スネアの音。ハーシュを後ろに従えつつも、ぐっと前に太鼓が鳴った。思い切りオンマイクで録っていそう。後ろでシンバルやキックも鳴る。けれども中央の太鼓があまりにも強烈すぎる。
 
 割れそうなシンバルは、ノイズと混ざる。一定のテンポで神経質に打ち鳴らされる響き線なしのスネアは、残響を持つ。ピッチはさほど高くない。空気を破るかのように、ひたすら叩かれた。
 ツーバスの音、フィルターかかったハイハットの音。低音の唸りやざわめくザラついたハーシュノイズ。さまざまな音が存在する。
 だがやはり、強烈な印象はスネアの連打だ。4つ打ちでテンポを崩さない。胸を締め付けるような、前に出た音。太鼓の響きが、厳しく轟いた。

 次にはシンバルも。どうなってるんだ。他の曲と比べても、この曲の音圧が凄い。低音がどっぷりと強調されてる。押し寄せる圧力。淡々と刻むビート。 (2015/9:記)

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