Merzbow Works

Fukurou: 13 Japanese Birds Pt. 2 (2009:Important records)

Recorded and mixed in Tokyo, Dec 2008 at Munemi House

M.A - EMS Synthi 'A', EMS VCS3 II, Computers, Handmade Instruments, Various Effects

 月間メルツバウの第二弾はフクロウ。クレジットにシンセ機材が載った。本盤もドラムと電子音の競演だ。楽曲は長めの2曲と、変奏曲2曲。変奏曲はなんの楽曲を変えてるか、今一つ理解できていない。メルツバウの楽曲はあまりに多すぎて覚えきれないのと、特に本盤はパッと聴きが似かよっている。・・・実際には、アルバムごとで実に丁寧にコンセプトを変えているのだが。
 
 本シリーズ第一作目がドラムとノイズのロックな共演だとしたら、本盤はぐっとシンセの比率が増した。ドラムとはセッションでなく独自の立ち位置を探る。ドラムの乱打ぶりは変わらないが、本盤の音色は少し深みがある。

<収録曲>

1.Gorosukehoukou - 22:18
 
 タイトルはフクロウの鳴き声のオノマトペから。「ゴロスケホーホー」ってやつ。
 きゅうんとシンセが一鳴き。ドラムはひたすら深めの胴で叩くが、音色が次々に波形加工されていく。シンバルが、スネアがフィルターで削られ、えぐられた。ドラムを先に録り、電子加工の作品。

 ウネる電子音がドラムと混ざる。セッションでは無くドラムを一要素として、ぐりぐり震える電気の振動群に押し混ぜた。脈動するシンセのビートとは全く別のタイミングで鳴るドラム。この曲では無闇に叩きのめさず、シンバルのみの場面も作りメリハリあるドラミングを提示した。

 いくつものノイズがスッキリとミックスされる、風通し良い音像だ。音色は次第に波形加工で変貌し、変身するさまが味わえた。
 押しまくらず、ドラムやシンセそれぞれに隙間を作った見せ場を与え、緩やかな波を曲に施した。フクロウらしいかはさておいて、前盤とは明らかにアプローチが異なる。
 比較的、淡々とした仕上がり。轟音ではあるが、緩やかにサウンドが進行していった。敢えて小ボリュームで聴くと、感じが伝わるかもしれない。

 やがてアナログ・シンセの太くちぎれそうな音色をふんだんに注ぎ、サウンドは加速していく。ノイズとドラム、シンセのわずかなフレーズ。それぞれの音域が立体的に飛び交った。本当はこのシリーズ、ヘッドフォンで聴くと良さが分かりやすい。

 続くドラム・ソロもリズミカルに響いた。小節線や拍子は掴みづらいが、テンポはほぼ一定。変拍子では無く、連打で強烈なベクトルを示す。
 シンセも負けていない。のびのびと吼えた。この楽曲ではシンセもドラムもひときわ自由に動いてる。断続的に前に出ては消え、またしぶとく存在を改めて主張した。
 後半では静寂の印象は無い。賑やかに、いや喧しくそれぞれが轟いた。

2.Variation No. 1 - 9:51

 虫の蠢きみたいなシンセの音がイントロ。少しづつ表情を変えながら、同じような音列が繰り返される。リバーブを響かせたスネアが一打ち。やがて間をおいて、もう一打ち。キックが一踏み。厳かにドラムがシンセのすすり泣きに加わった。
 
 テンポは遅く、じっくりと。沸き立つシンセの音をドラムは邪魔しない。けれども単にパターン刻みにも留まらない。金物の棒を叩くような涼やかな響き。一打ちから数打の連続へ。ドラムの手数が増えていく。和太鼓の厳かさを、ドラム・セットで表現した。
 ダブル・ペダルの小刻みなキックの連打が続きはじめると、シンセの蠢きよりもスピードはドラムが先行した。

 シンセも引っ張られて、波打つ表面が加速を始めたか。ドラムがリズム・キープを始めた。拍子が上手く取れない。
 電子音は大物が登場した。ゆっくりと空気の表面を齧り、割っていく。途端に矮小なドラムのリズム。電子音のつんざきがドラムのリズムを歯牙に欠けず、ゆるやかに身体を震わせた。
 
 めりめりと空気に牙が立つ。そのままドラムを消して、いくつもの電子音が身を寄せてきた。大きな咆哮。そして、残響。

3.Variation No. 2 - 9:49

 ドラムが冒頭から乱打で現れ、周辺をシンセがちりちり舞った。しっかり中央に定位したドラムは腰を据えて叩き始める。おもむろに低音で響く電子音。幾本も音程を変えて新たな音が現れた。
 リズムとシンセの譜割が一瞬合致した。耳をそばだてた途端、それぞれは離れてしまう。

 やがて電子音が前面を埋め尽くし、強打するビートを幕の後ろへ追いやった。ドラムはタムの連打、シンバルの強打で存在を主張するが、5〜6種類の音色が隙間なく左右から中央から噴出し、ドラムの這い出る隙もない。

 涼やかなリボンの音色。ひよっと一鳴きしたあとは、すぐに身を潜めてしまう。おもむろに一鳴き。用心深くあたりを見回し、ノイズの森林で立ち位置を探る。腰を据えて啼きはじめた。
 やがて単調に鳴き声が変化し、まさに電子音のパルスに姿を変える。
 
 最後はドラムが消え、急にスペイシーな世界へガラリ変わった。数本の鮮やかなシンセの音色が立ち上る。余韻をスッと残して曲が終わった。

4.Noritsukehousei - 16:49
 
 これもフクロウの鳴き声をオノマトペ。「ノリツケホウセイ」。不勉強で知らなかったが、(1)とこのオノマトペはとても知られたものだという。
 
 初手から豪快なドラムとシンセのフルパワーが炸裂した。テンポは一定だが拍や拍子の見えづらいドラムの乱打と、鋭く突き刺しつんざく電子音がそそり立った。じわじわと低い箇所は、鈍く伸びるシンセで埋める。
 一瞬、シンセの空白を作り底辺も見渡せる構成力が見事。即興的に全て作っているはずだが、オーケストレーションに似た緻密さがある。

 拍を跨ぐ緩やかなシンセのアルペジオ。しだいに音色は尖ったところを訛らせ、全体にもやっとした抽象世界を描いた。幾本もの細い音の線が、噛んだり縫ってドームのように丸い外殻を描いた。
 鈍い混沌が迫る。ドラムは冷然と叩く。シンバルの連打は音加工され、ざらついた。
 けれどもドラムはシンセと次元を分けて、あまり踏み込まない。叩き続けていても。

 ひときわインダストリアル。ドラムの無機質なビートが、シンセのそそり立つ壁と並行して進み、そっけなくも構築した世界に至った。
 常に新たな音色をメルツバウはシンセで投入する。一瞬たりとも同じ音像を選ばない。ドラムを背後に従え、シンセが多層化した。さらに取捨選択で音を整理し続け、充満しつつも飽和させない。
 
 アナログ・ブーストの味に似てる。デジタルのくっきりした分離を持ちつつ、音像はぐしゃっと潰れ、混ざり合う。ボリュームを上げると、緻密なメルツバウのあしらいがわかる。みっちりと音を詰め込みながら、つねに音色を入れ替えた。
 サイレンのように鳴るシンセ。ドラムは叩き続ける。がぷがぷとノイズが蠢いた。だが、ふちの丸いシンセの音色は、喧しくともきつくは無い。ドラムはシンセの沼が揺らめく隙から、顔をのぞかせる。常に叩いているのに。

 シンセの音像が主。たまたま生まれた合間から、ドラムが存在をみせる。そんな、コンセプト。         (2015/9:記)

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