Merzbow Works

13 Japanese Birds vo.12:Tsubame (2009:Important Records)

Recorded and mixed in Tokyo, Oct 2009 At Munemi House
Music By - Masami Akita

 千枚限定、09年の月刊鳥シリーズ第12弾は燕。多様な3曲を収録した。豊富で尽きないメルツバウのアイディアを実感できる。
 ストーリー性とドラマティックさを持った痛快な盤だ。

 ノイズを積み重ねるメルツバウのお家芸に留まらず、インプロ・セッションのようなダイナミズムやメロディックさも本盤では聴ける。ノイズは手法であり、オーケストレーションやコンセプトを常に意識させる、メルツバウならではの構築性を魅せた。

 3曲の表情は多彩で、まちまち。だが(1)と(2)で実験した手法を、(3)でまとめるかのような仕上がりを感じた。

<全曲感想>

1."Destroy the Cages" 17:24


 いきなり威勢よく始まる。数本の激しい電子音がくっきりと鋭くそそりたった。リズミックだがビートではない。パターンの繰り返しがてんでに成立し、ポリリズミックな風景を作る。同じ音像が延々と続かず、しだいにそれぞれの音が変化し続けるのがメルツバウ流だ。

 やがてそれぞれがうねるように一つの流れを作り、太く逞しいノイズとなって蠢いた。
 新たな低音が登場し、彩を添える。フルレンジでさまざまな音色が輻輳しきめ細かく分厚い世界へ。音色の質感もみるみる変わり、いつしかざらつき荒れた肌感でのたうった。
 空虚で奥深く吸い込み、表面を徹底的に傷つけ再放出するかのよう。

 軋み、脈動が無秩序なノイズに切り裂き貫かれる。ひとときも休まず、同じ音像は存在しない。リアルタイムでサンプルと音色変化をしてるのか。きめ細かく繊細で、大胆な構造変化と制御だ。

 この日本の鳥シリーズでは、ドラムとノイズの対話もテーマの一つと思う。
 だが本曲では、ドラムは現れない。さまざまなノイズの短いループやパルスの連続性で、ビート感を見事に表現した。

 終盤はちょっと回転数が落ちてきて、ちょっぴり切なさも漂わせた。ぐうっと落ちて、幕。

2."Burn Down Research Facilities" 21:38

 鈍く高らかに軋む重厚さと、刃が立たない柔軟さを併せ持つ面持ちの音色から。たちまち表情を変えて鋭利さを増す。すかさず切り込むハイハット。タムも数音。ここでは前曲と一転し、本来のテーマであるドラムとノイズのバトルが始まった。

 冒頭のノイズが存在感あるせいか、バンド・アンサンブルというよりノイズとドラムのインプロ・デュオっぽい雰囲気。どちらが先かは、わからないけれど。ノイズを作ってそのあとにドラムをかぶせたような気がする。ドラムが無秩序な割にある程度のドラマ性を持ち、ノイズに絡んでる気がするから。
 ドラムは叩きっぱなしではなく、ふっと空白を持つ。

 ノイズは進行し、ドラムも鋭く刻みながらも互いにどこか冷静に緩急を決めた。ドラムがいくぶん前に出てくる。タムを太く鳴らし、頼もしいビートだ。別にきっちりパターンは刻まないが、なんとなく小節感がにじみ出てくる。
 本シリーズではやみくもに叩きのめすドラムもあったが、ここではかなりメロディアスできっちりしたドラムだ。

 いっぽうのノイズは途中から平べったく整然と姿を変え、ハーモニーめいた響きも連想する。いわば伴奏。
 そして11分45秒過ぎ、唐突に鋭いノイズが抽象的に蠢いた。まさにエレキギター・ソロのように。この瞬間のスリリングな展開は、抜群。

 このあたり、まさに実際のジャム・セッションを聴いてるかのよう。ドラムが一呼吸おいてエイト・ビートを刻む。ノイズは鋭くワウやフィード・バックをかました。
 やがてテンポを上げ、ノイズとドラムが疾走していく。
 
 17分過ぎあたりは、まさにエレキ・ギターな音程感も存分にある。ここまでメロディアスな展開も、メルツバウにしては珍しい。
 録音の悪いサイケ・インストロックの盤を聴いてるかのよう。ムジカ・トランソニックとか、蝉とか。
 
 演奏はすべて秋田昌美。ダビングを重ねて作製している。しかしなんとも、躍動感あるセッション的な雰囲気の痛快な曲だ。

3."Escape from Captors" 16:00

 ざくざくっと荒々しいノイズ。力押しはせず、慌ただしく音像が変化した。数種類のノイズが同時並行で進行し、目まぐるしくバランスを変える。目の前に並んだ音をひっきりなしに闇雲な操作をあれこれ行ってるかのよう。

 冒頭はずっとノイズの嵐。4分過ぎにすっとフェイダーがすべて落ち、やたら軽快で高速なドラムの音とノイズが取り残された。その後もノイズが立ち上がりながら、すぐに身をひるがえし、シンプルなノイズと高速ビートの対比構造を作った。
 このドラムは録音テープの速度を上げたかのよう。人力で可能なテンポかもしれないが、猛烈に手数が速く音程も高い。シンセ・ドラムにしては音色にバラツキもある。秋田の演奏音源を速度アップと思ったほうがしっくりくる。

 持続するノイズとドラム。(2)のセッション的な構図へ、(1)のとっ散らかって濃密な世界観を混ぜ、昇華したかのよう。

 リズムもループがあるのか、ときどきスコンッと軽い音色が激しいノイズにかぶさり聴こえる。
 終盤では再びエレキギターめいた音が高らかに登場し、きっちりと音程感を持って勇ましくソロを披露した。かっこいい。

 それぞれの音域や定位を慎重に配置したか、膨大な音像にもかかわらず分離が凄く綺麗だ。一方で、互いが見事に溶け合い一体感を持つ。冷たい同時進行の味気無さは皆無。
 本シリーズは、ドラムと電子ノイズが邪魔せず散らからず、一体感と分離性を両立させるミキシングの実験でもありそう。

 最後は唐突に音が消え、残響の余韻をもってカットアウト。最後にぷちっと、ノイズが入る。これも、ノイズだ。うーん、見事。 (2016/7:記)

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