Merzbow Works

Shirasagi : 13 Japanese Birds Pt. 11 (2009:Important records)

Recorded and mixed in Tokyo, September 2009 at Munemi House
Masami Akita - Music

 千枚限定、09年の月刊鳥シリーズ第11弾は白鷺がテーマ。吾妻橋のアサヒビールのスーパードライホールの橋に、イラストの白鷺が飛ぶデザインされた。写真とイラストの融合が本シリーズのジャケットだが、最も具象性が強い。このビルを知ってるから、かな。知らなければシュールなオブジェとの対比がポップに見えるのかも。

 ドラムとシンセ、曲によって役割分担が変わる。どんなにハーシュが轟いてもドラムをきっちり聞かせ、時にクリア時に蔭にと配置するミックス術の繊細さに驚嘆する。
 本シリーズではドラムとノイズの混交をいかに響かせるか、の周波数を操作するすべの妙味を味わうにも最適だ。
 
 本盤は特にバラエティに富んでおり、リズム中心、ハーシュがメイン、シンセが暴れるなど多様な楽曲をオムニバス的に収録した。

<全曲紹介>

1."Transformed into Food" 16:28

 軋む脈動から、遠慮がちにシンバル。やがて手数が多くなっていく。ドラムは一発録音だろうか。最初はいくつかのサンプリングを並べてるのかと思った。
 一呼吸おいてドラムは連打全開、ハーシュ・ノイズとがっぷり組んで暴れ始める。電子音のささやきを内部で広げながら、左右に分かれてドラムとノイズのバトル。ノイズ側も連続一辺倒ではなく、金属質な破裂をみせたりと、変化が続く。アナログ的に軋んだりも。

 ついノイズに耳が行くけれど、ドラムもテンションは落ちない。テンポはほぼ一定、小節感は希薄に乱打が続く。力押しの太鼓だ。
 ノイズが甲高く細まってきた。じわじわとドラムが穏やかに。一呼吸つき、シンバルの連打とツーバスの踏み鳴らしへ。エイトビートのパターンを明確な刻みに変わり、一転してグルーヴィに変わった。
 並行して無秩序だったノイズもループを繰り返し、ダンサブルに変化した。しばらくするとノリが大柄に変化して、緩やかに収まっていく。
 そのまま粘りを増して、唐突に幕へ。

2."Once the Human Meat Is Done, Cut It Up and Mix with the Vegetable Curry" 11:10

 初手からフルテンションの混沌と疾走へ。フィルターノイズが複数飛び交い、ドラムは背後で激しく叩きのめす。前曲とは一転してドラムがセンターに位置し、ハードコアな音像を作った。ぐっと沈んで低音のざらつきが前に出てきた。いろんな音が混ざる。

 ヴィーガンの動物愛護精神を反映して、逆説的な料理手法みたいな曲タイトル。ぐちゃぐちゃと混ぜるさまを、錐揉むハーシュノイズの嵐で表現だろうか。左チャンネルはモーターのごとく鋭い回転を続けた。
 重たく揺らぐノイズ。急き立てるドラム。メロディアスにうねるノイズ。変化を続けながら変わらぬテンションで叩くドラム。

 しかしドラムはときおり、ふっと微妙に途切れる。左右のノイズが旺盛に咆哮を続けるのと対照的に。
 タイミングあわせて、すっとエンディング。このジャストっぷりは爽快だ。

3."Dismemberment of Nature" 14:37

 いきなりレッドゾーンで始まるのはこの曲も同じ。アナログ・シンセが冒頭から派手に展開した。小刻みな音の断片が振りまかれ、幾層にも厚く重なる。ドラムは無く、ハーシュをバックにシンセの奔流が冒頭は暴れた。
 やがてフェイドインでシンバル連打。カットアップで混ざり、すぐさま消えて再度立ち上る。隙間無く轟く電子音の濃密な網の目で音像は埋まるが、シンバルや個々のシンセがきちんと聴き分けられるミックスが凄い。

 この曲ではドラムがアクセント程度。断続的にときおり現れるのみ。音程の上下はあるが、メロディとは全く違うランダムな素早い動きのシンセ。そそり立ちざらついて耳をつんざくフィルター・ノイズ。
 さらに剛腕一辺倒でなく、たまにはすっと音量を引いてメリハリまでつけるきめ細かさ。

 この曲では各種ノイズが奔放に飛び回り、すべての音が細かく分離される。スピーディな場面転換は急速な流れ。ただしテープ操作っぽさは無く、その場で音バランスを変え急変換を繰り返してるようだ。隅々までスピードに載った爽快さがある。

 中盤でひよっと鳥の声みたいな電子ノイズが鳴く。
 終盤はハーシュが若干バランス低め、シンセの暴れ方が軸になった。中盤からドラムはほぼ無い。

 繰り返す。これは力押し一辺倒でなく、場面ごとに音圧や構造が変わる。コラージュめいたスピード感ながら、多彩な電子音の饗宴をみせた。本盤でもベストの名曲だ。
 
4."Chained" 16:11

 メタル・パーカッション風の強打。電気仕掛けだが、サンプリングを波形加工かな?フロアタム中心の頼もしいドラムが4拍子で加わる。リズム・パターンを同一で、次第に装飾音を増やして。メタル音はひしゃげてフィルター・ノイズの風に変わった。

 リズムはすっかり変貌して別のパターンへ。ミニマルに繰り返す。これまでの乱打とは全く違う。ノイズはオーケストレーションを施し、背後と全面、側方と様々な定位で異なる音色を作った。まるで祭壇があるかのよう。宗教というか、原初の呪術風な酩酊を誘う。
 間をたっぷりとって、空気を次第に塗り染めていく。軋むフィルター・ノイズが別のアクセントでかぶさり、ポリリズミックな展開になった。素朴なメロディの断片も、蠢いている。

 ドラムが手数を増やしても、パターンを繰り返すところは変わらない。軽快なタム回しが幾度となく回転する。ハーシュが空間を削り、埋め尽くしても背後にドラムの存在感は残した。
 ハーシュの細かいところ、音色やタイミングは変わり始めてるのに、音像全体のイメージはほとんど変わらぬ。停滞しノイズを噴出させ続けた。
 
 ぐっと前に出るドラム。(3)とは逆にこの曲ではドラムが主軸を支える。テンポ感は一定に、タムの4つ打ちとシンバルの連打が続いた。インダストリアルな展開は、テクノ的で感情高ぶる盛り上がりも感じる。
 電子音が重なっていき、フェイドアウトで幕。
  
(2016/5:記)

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