Merzbow Works
Suzume: 13 Japanese Birds Pt. 1 (2009:Important records)
Recorded and mixed in Tokyo, Oct-Nov 2008 at Munemi House
2009年、月間メルツバウの第一弾。鳥をテーマに09年1月から毎月1枚、合計13枚のアルバムがインポータント・レーベルから月産された。多作を誇るメルツバウだが、09年は本シリーズに注力した感がある。
全てのCDが千枚限定。最後まで発表されたところで、13枚のアルバムにボーナスのCD-Rを付けたボックスも発表有り。こちらは所有しておらず、どんなモノかは知らない。
本シリーズでの音楽的な特徴は、ドラムとノイズの融合。本盤のしばらく前からアナログ回帰したメルツバウは、本シリーズでドラム演奏を全面に出した。
<収録曲>
1."Red Bird of Summer Part 1" (19:42)
激しく打ち鳴らされるドラムとハーシュノイズの饗宴。実に細かく丁寧にミックスされている。ドラムはツーバスでタムやシンバル構成はシンプルに聴こえた。ビートを回避しながら連打をひたむきに叩きのめす。先にこのドラムを録音したようにも聴こえた。
聴きものはシンセの複雑なアンサンブルだ。軋むハーシュ・ノイズを前面にばら撒きつつ、幾本ものアナログ・シンセが音色を変えて立ち上る。
位相を綺麗に配置して、右端から左端まで5〜6本のシンセが次々に現れては消えた。時には複数で立ち上がり、それぞれにわずかな旋律感を残して変化する。繰り返される脈動は中心を持たず、ドラムもノイズ群も集団でてんでにビートやリズム感を作り出す。
混沌の奔流。秩序を放棄させながらも、個々のノイズはくっきりと強靭なループ感がある。
強烈無比なポリリズムだ。ドラムはここで、地鳴りを豪快に表現した。中心で轟くシンセが、厳しく激しく吼える。バランスも素晴らしい。一定のノイズを鳴らさずに、場面ごとで音色や楽器のバランスを頻繁に変える。まさにオーケストラ。
メルツバウの構成力を見せつけた傑作だ。
2."Fandangos in Space" (5:41)
広がる幾本ものノイズ。ここでも次々に音色のバランスを変え、猛烈な奔流が生まれる。クルクルと変化するミックスは、流れの方向性が四方八方に散らばるようで、自分の立ち位置も動きも振り回される、不安定な快感を味わえる。
ここではドラムが存在しない。幾層にも複雑に重なったシンセの奔流と脈動で、ビート感を演出した。
ときに奔流は脈打ち、立ち止まる。繰り返される明るいシンセの音色は鳥が囀るかのようだ。ピッチを変え、軽やかに賑やかに低くスリリングに。唐突に音が切れる。
3."Tori Uta" (6:24)
宇川直宏がさまざまなミュージシャンとコラボしたアルバム"ZOUNDTRACK"(2008)に提供したトラックを、本盤に再収録した。"ZOUNDTRACK"時に提供したタイトルは"羽毛に纏わる水滴無限循環"。本盤ではタイトルを変えている。数秒しか曲の時間は異ならず、双方同じテイクだと思う。
冒頭からドラムの激しい連打。背後にひよひよと電子音が漂う。軋む電子音が、まさに鳥の歌。しかしウネる隙間で広がりを持ち、シンセだと明らかになる。あまり音数を増やさず、ドラム演奏をぐっと前に出した。
やがて、ハーシュ・ノイズが足される。これはシンセでなく波形をPC編集か。輪郭を残したまま、フィルターでぶった切った譜割だ。
ドラムは拍子を刻まないが、テンポ感は比較的一定。高速ビートをめまぐるしく提示する一方で、空間を埋め尽くす猛打を止むこと無く繰り出した。
ハーシュとドラム、どちらが主役か図りがたい。ほぼ同じレベルでミックスされた。ドラムが先、そこへ電子音を他多様な気がする。シンバルや太鼓を音色加工してるような。さらに新たな電子音の嵐が足され、サウンドは中心を伺わせず吹き出し、暴れる。脈打ち畳み掛ける高音の電子音が、鳥のさえずりを模したか。
それぞれが独特のパルス・ビートを提示し、ポリリズミックな展開に。曲の進行につれ音圧の比率が変わり、ドラムから電子音へ移りかけた。すかさず、猛然とドラム。うーん。このダイナミックなタイミング、どうやって録音だろう。
最後はフェイドアウト。せっかく本盤に再収録なら、ロング・バージョンを聴いて見たかった。
4."Red Bird of Summer
Part 2"
(17:06)
ドラムとシンセのガチンコ・セッション。パワフルにスネアを叩きのめす一方で、カチカチと静かにハイハットが鳴る。この対比が興味深い。ドラムも複数のテイクをダビングだろうか。なんかシンバルの音だけ、手数が合わない。キックはツーバスで激しく踏み鳴らした。
シンセも負けずに咆哮する。野太い下の音、きりきり軋む上の音。更に合間をつなぐハーシュノイズ。つぎつぎに音色が絡み、複雑な音像を作った。電子音がメロディを一節、紡ぐ。これが「君が代」に聴こえてならない。
行きつく着地点を伺わせず、ひとしきりすべてが疾走。中盤でフィルター・ノイズが急に存在感を増し、鮮やかにうねった。他の音を吹き飛ばし、ドラムも背後に押しやって。 やがてドラム・ソロ。ボリュームは風切音が上だ。まるでディストーション効いたギター・ソロとドラムのインプロ・セッションを聴いてるかのよう。このへんの音像は、非常にロックな展開でかっこいい。
上物ノイズが小刻みにうねりだし、ドラムのツーバスが荒々しく追い立てた。シンバルの連打が微妙にポリリズミックに鳴る。
軋む音が空気を豪快に震わせ、めりめりと押し広げた。破裂しそうな勢いがスピーカーを埋め尽くす。しかしドラムは止まない。黙々と、無秩序に叩き続ける。
左右に跳びかうノイズ。新たなシンセ音も加わり、パンニングが丁寧に。そう、この盤は音がひとときも立ち止まらず、左右をてんでに動き回る。メルツバウのミックス・センスも素晴らしい。
炸裂は銃弾の乱打のごとく。ドラムに加わり、ノイズらも炸裂を小刻みに始めた。どんどん登場人物が増えて音は細かく複雑化した。ドラムとノイズが一体となって、大きなグルーヴを作り出した。
キックの4つ打ちと直後のタム乱打、ドラム・パターンが現れ、上物は幾度も体を大きく曲げて吼えた。再び「君が代」っぽい旋律が一瞬、顔を出す。音色を変えて。
音像そのものはノイジーだが、構成要素は実にポップ。オーケストレーションの妙味が味わえる。ここまで本盤を聴いてきたら、良くわかるはず。太いフィルター・ノイズが、平べったい体を引き絞るように軋む。ゴムか板か、プラスティックか。ぺしりと折れずに捩りまくった。
ドラムは我関せず、連打を続けた。少し前のドラマティックな対話は止めて、独自路線を追求する。
上物が数本、めまぐるしく吼えたてて・・・幕。フェイドアウトした。
ドラムがまず消え、次にシンセが。 (2015/9:記)