Review of Merzdiscs  7/50

Paradoxa Paradoxa

MA plays Merztronix,tape,Solar Organ(track 2),violin,Dr,Rhythm,alto saxophone,radio,feedback.
Kiyoshi Mizutani plays Solar Organ(track 1),violin,tape,piano
Recorded live at Kid Airak Hall.22 March 1982

 これはメルツバウ極初期のライブ録音になる。
 収録場所は東京の明大前、ライラックホール。1982年の5/22に行われている。
 ノイズ演奏のバックにはイタリアの風景がスライドで映されたそうだ。
 
 メルツボックスによれば、対バンには「Honbo Chang Ba」がつとめたらしい。
 (対バンじゃなくて、このスライドを映すパフォーマーの名前かも)
 僕は不勉強にしてこのバンドを知らない。ご存知の方、ご教示くださると幸いです。

 本CDの収録曲のうち、「Pt.1」は1982年にメルツバウの個人レーベル「Lowest Music&Arts」からカセットでリリースされている。 
 「Pt.2」は今回の「Merzbox」での初リリース。

 それにしても、ライブのときに映された風景はどんなものだったんだろう。
 牧歌的な景色にだって、メルツバウの音はにあうと思う。
 皮肉でもなんでもない。あらゆる場所に音は溢れている。
 ここで聴けるノイズは、一般受けする音じゃないのは確かだ。
 
 だけど、

<曲目紹介>

1.Paradoxa Paradoxa Pt.1 (46:14)

 46分一本勝負の大作だ。
 ライブのワンステージそのままを収録したんだろう。

 不気味に唸るノイズをバックに、まずはけたたましく小物を打ち鳴らして、秋田は存在をアピールする。
 共演の水谷聖は、オルガンで音に厚みを加える。
 しょっぱなから視線が高い。
 特筆するような激しいリズムはないのに、緊張感に溢れている。

 カシャカシャとはねまわる金物パーカッションの音はテープによるものかな。
 音楽はめまぐるしく表情を変えることなく、のっそりと動いていく。
 とはいえ、その微妙な変化が刺激的だ。
 「単調かな」って油断していたら、痛い目にあうこと間違いなし。
 一瞬たりとも足踏みはしていないんだから。

 ライブを目の前で見てたら、さらに刺激的だったんだろうな。
 どこまでがテープ演奏で、どこからがその場で偶発的に産み出されたノイズなのか、すごく興味がある。
 CDの音は巧みにミックスされ、テープと生演奏との違和感はまったくない。
 一体となってスピーカーから噴きだす。ステレオ感に欠けるのが難点かな。

 全体的には川を流れていくようなおおらかさを感じる。
 ふかっとしたオルガンの音色のせいかな。
 20分を過ぎたあたりから、どしんどしんとビートが顔を出す。
 ヴァイオリンが切なげに軋んで、雰囲気を盛り上げる。

 28分ほど経過すると、オーケストラを早回ししたようなテープ音が、わさわさっと割り込んでくる。
 ヴァイオリンとテープ・ノイズは絡み合い、高まっていく。
 この瞬間は、とてもすばらしい。
 
 二つのノイズは一つの高みへステップアップしたまま、次のテープ・ノイズに舞台を譲る。
 サウンドのイメージは盛り上げたままで、弛緩する隙などまるでない。
 混沌さとやさしさが絶妙のバランスで手をとりあって踊りまわる、とびきりの作品だと思う。

 フェイドアウトで曲を終わらせてしまうのが唯一のマイナスポイント。
 たとえカットアウトで切り落とされるのでもいい。
 せっかくの素晴らしいひとときには、きっちりエンディングをつけて欲しかったな。
 
2.Paradoxa Paradoxa Pt.2 (26:08)

 かぼそく揺れるヴァイオリンのソロではじまる。
 もちろんすぐさま、ぶっとい電子ノイズが割り込んできて、ずっしりと音の柱を突き立てる。
 穏やかな「Pt.1」とはうってかわり、この作品はマッチョなイメージに溢れている。

 ビート感はない。
 だけどオルガンの音を筆頭に、厚みのある音色で傍若無人に迫ってきた。
 ゆとりがそこかしこに見られるけれど、緊張感をたもった爽快さがあるのは、「Pt.1」と同じだ。

 エンディングはリズムボックスに載って、ピアノが優しく踊る。
 カットアップですぱっと終わるのがいさぎよい。

 ・・・仮に同じことを、もし今のメルツバウのハーシュ・ノイズで演奏したら、暴力的に聴こえるんだろうな。
 現在のメルツバウを体験してしまった耳では、アナログ・ノイズのあいまいさを、無邪気さや余裕と感じて、苦笑してしまった。
 どうやらメルツバウを聴くときだけ、僕の耳はとことんハードなノイズを欲するらしい。
 そのせいで初期のメルツバウのアナログ・ノイズを、物足りなくなる瞬間があるんだろう。

 だから、当時は感じられたはずの乱暴な迫力を、追体験するのは少々辛い。
 あくまで僕はこのノイズを、ロックとして聴いてしまう。
 「楽器」を使用したノイズなので、どこまで行っても「音楽」をそこに感じてしまった。
 
 絶対的な「ノイズ」こそが至上、などと言うつもりはない。
 僕がメルツバウに惹かれたのは、非音楽的なノイズに、とてつもなくポップな印象を感じてしまったせいだ。
 
 そんな僕の奇妙な価値観では、普通の「楽器」を多用したこの演奏は、メロディに溢れている。
 それほど大きなヴォリュームで、このCDを聴いていないせいかな。
 ノイズの聴き方としては邪道かもしれない。
 とはいえノイズって、轟音で身体の振動を味わうものだけ、じゃないと思う。
 耳でこまかな音の変化を楽しんでも、いいんじゃないでしょうか。

(2000/10/23記)

Let`s go to the Cruel World