Review of Merzdiscs  6/50

Colection Era Vol.3

MA plays guitar,tape,damaged tape recorder,bass guitar,Dr,Rhythm,ring modulator,percussion,
Kiyoshi Mizutani plays guitar on track 1,piano on track 4,violin on track 7&8
Recorded&Mixed at Lowest Music&Arts.1981-82.

 1981年に発表された46分テープが10巻に及ぶ、メルツバウ初の大作「Colection 001〜009」から抜粋した作品集の第三弾CD。
 このCDに収録されているうち、1〜7曲目は8巻目から。8曲目のみ、82年のカセットで発表された作品「Traidal Priduction」から選曲された。

 秋田本人のコメントに寄れば、当時の発表メディアはカセットだから、聴く機材は当時発表されたばかりの「ウオークマン」を想定していたそうだ。
 なので音質にはさっぱりこだわらず、実際にこのCDに収録された作品は、安物のテープで無造作に録音されたらしい。

 すくなくともここに収録された作品は、気取らずに無造作に録音された作品ばかり。
 各曲のタイトルは何もない。
 単純にアイディア一発の、素直な作品が詰まっている。

 だけどどの曲を取ってみても、それぞれに独創的なのはさすが。
 この引出しの多さこそが秋田の魅力といえる。
 程度の差こそあれ、リズムがくっきりしている。
 そのためこのCDも、フリージャズやプログレの即興演奏の文脈でも、充分楽しく聴けると思う。
 
 ノイズを出す行為が目的ではなく、ドレミの平均律だけでは表現できない繊細なメロディを奏でるために、秋田はノイズって手法をを使っているんじゃないだろうか。
 スピーカーから流れるノイズのそこかしこから、微妙に空間を震わせるメロディが僕には聴こえる。

 そのメロディは、耳なじみのいいメロディじゃないことが多い。
 だけど、ときどきふっと、そのぎこちないフレーズに耳がひきつけられてしまう。

<曲目紹介>

1.Untitled (5:17)

 リズミカルな電子音がビートを刻み、もこもこしたノイズがあおりだす。
 これから始まる期待に、ワクワクしてくる曲だ。
 中盤からフリーなエレキ・ギターのソロが挿入される。演奏は水谷聖によるもの。
 多用なパルスとフレーズがかなりメロディックに絡み合って、駆け上がっていく面白い作品。

2.Untitled (5:59)

 金属的なパーカッションの音を中心に置いたこの曲は、振り幅大きくリズミカルに流れていく。
 巨体を横に揺らしながら、ジャングルを歩いていく巨人をイメージした。
 メタリックな音は鳥の声。ギターの軋む音は、ジャングルの木が巨人の歩みで揺らぐさまを。そして規則正しいながらもつんのめるように流れるビートが、野性的な雰囲気をぷんぷんかもしだす。

3.Untitled (10:35)

 テープの早回しと電波発振音が中心のノイズ。
 1秒に6回くらい高速で、リズムボックスがハイハットを刻む。
 パルスノイズの微妙な変化がビートを感じさせるので、リズムボックスのビートと溶け合って、複雑であわただしくもうきうきするグルーヴを産み出している。
 後半では激しいノイズが現れて荒れ狂うが、今のメルツを聴いた耳には暖かく聴こえる。
 この作品を始めて聴いたら耳をふさぐだろうに。いかにメルツが時代を経るにつれて、過激な方法論を志向していることか・・・。
 こういった過去の作品が、美しいポップスに聴こえる瞬間すらあるんだから。

4.Untitled (6:13)

 重たいビートに乗って、どっしんどしんと金属音が打撃音を規則的に鳴らす。
 電車の中か、工場を歩き回っているような感じだ。
 ラストで流れるヴァイオリンの旋律が耳に残るけど・・・ちょっとメリハリに欠けるかな。

5.Untitled (4:53)

 ホワイトノイズにちゃかぽこいうリズムが乗っかる。
 ビートを刻むのは、手近の物を適当に叩いてるみたいだ。
 これまでの曲で聴かれたビートは影をひそめ、ノーリズムで流れていくので不安感をあおられてしまった。
 ごおぉっと歪んだ音で唸るノイズは、無機質に空間を埋め尽くしていく。
 ・・・これから展開するかな?と思うところであっさりとフェイドアウトしてしまうのがもどかしい。
 ここまで曲がりなりにも音楽として聴けた本作が、このあたりからノイズ作品としての表情をあらわにしていく。

6.Untitled (6:51)

 テープコラージュによる作品。ブレイクを多用し、時に無音部を作る。
 この無音部分が作品に緊張感を与えていると思う。
 金物を叩くリズムは、機械的かつ高速であおりたてる。
 ところが、ここでのパーカッションはビートは刻まない。
 ランダムに激しく打ち鳴らすのみだ。
 そのクールな曲のスタイルを、かっこよく感じてしまう。

7.Untitled (3:14)

 再びリズミカルなビートが顔を出す。
 上二曲のノーリズムをくぐりぬけたあとでは、この曲がとてもポップに聴こえてならない。
 リズムボックスを何度も重ねて多重的なビートの上で、水谷のヴァイオリンが切なく響く。
 ここまで「Colection」として膨大なノイズを聴いてきたリスナーに対する幕引きをしているのだろうか。
 この曲を聴いていると切なくなる。どこかセンチメンタルな気分を呼び起こす曲だ。

8.Untitled (22:52)

 電子ノイズが激しく飛び交う。とはいえ、ステレオ感がないので(モノラル録音かな?これ・・・)、モニターの中で暴れている「なにか」を外の安全圏から観察しているような気分になってくる。
 それでも20分の長丁場作品だ。
 聴いていると、次第にノイズが身体の中に染み込んでくる。
 5分くらいで現れる、ヴァイオリンをやたらめったら重ねたノイズは、くっきりと音の輪郭が見えてきて、思わずぞくっとした。

 中盤からテープコラージュの要素も入り込んでくる。
 ぼおっと聴いていると、いつのまにか音の要素が微妙に変わっていた。
 抽象的なノイズにときたまリアリティのあるフレーズが差し込んでくるから。
 どこかのテクノポップス(YMOの「君に胸キュン」を、僕はイメージしてしまった)や、くぐもった人の声を逆回転でノイズの海に埋め込んだ作品。

(2000/10/15記)

Let`s go to the Cruel World