Review of Merzdiscs 50/50
Annihiloscillator
メルツボックス最後の一枚は、96年12月から97年1月までの作品集。どれも十数分強と、比較的短めな作品ばかりだ。
時期的に本boxのために書下ろした新作といえる。ボックスセットとしては、これ以外に2枚組のおまけ新作CDがついてきたが。
テレミンを使っているのが特徴か。ノイズマシンとして使用しており、明確に「お、この音はテレミンだ」と僕の耳では聴き分けられない。なさけなやー。
ちなみに一曲だけ(2)で95年の素材を使ってる。
50枚にわたって続いた、メルツバウのノイズ旅行もここで一段落です。長かった・・・。
気軽にはじめた全曲感想だが、足掛け2年以上かかるとは。まあ、ぼくがのんびりしてたせいですが。
それではMerzbox最後の各曲紹介、行ってみましょう。
<各曲紹介>
1.Hair Gun
(13:16)
Masami Akita plays RMS,metal,Noise elecronix,Theremin
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,March 1997
初っ端から粒立ちいい音が噴出してびびった。
短距離を全力疾走したあと息を切らすがごとく、ホワイトノイズがしゃくりあげる。
左右のトラックをゆったりと動くパルスがテレミンかな。
ディレイをひっさげたシンセの鳴き声が新鮮に響いた。
右から左までいっきに塞いだ薄いカーテンの奥で、こっそり明るい音が囁きあう。
6分経過。いきなり画面が切り替わった。
立て続けにパルスはてんでにリズムを刻み、唐突に見通しよくなる。
轟音を突き刺し、ぶすぶす穴だらけに。どこかコミカルな音だ。
足元一面に広がる、粘ったノイズの絨毯。
9分くらいたつと、パルスの周期が急に早まった。
怪獣映画の格闘シーンで流れるBGMみたい。
いく筋もの怪光線が交錯する風景を、カメラはゆっくり引いてカットアウト。
2.Kyoto Hamuras Air Clyster (12:14)
Raw material recorded Live in California 1995
MA plays Metal Theremin,Noise electronicx
Bara on voice
Raiko A. plays noise
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,Jan 1997
95年にカリフォルニアで行われたライブ音源に、たぶんオーバーダブを施してる。
バラのボーカルと、レイコ・Aのノイズも引き連れたトリオ編成だが、こう分厚くミックスされたら、個々の音を聞き分けるのは困難だ。
キラキラころがる電子音の奥で、デスメタルっぽい声がドスを効かせる。
声は変調されパルスとなり、すり潰されてキラキラに取り込まれた。
いっとき音像が濁るものの、轟音の奥でキラキラがしぶとく存在を主張する。
後半は強く風が吹き荒ぶ。嵐というほど強引じゃない。冬空にときおり吹く突風のような流れ。
爽快ではあるが、どこか寂しさも。
キラキラなシンセ音とハーシュの対比が面白い作品。
リズムトラックもループも特にないが、めちゃくちゃ細かいグルーヴの幻聴がした。
3.Black Brain of Piranese (13:26)
MA plays EMS,metal,Noise electronix,Theremin
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,Jan 1997
(1)と同様に轟音が噴出す。だが連続せず、短時間で消え再び咆える。さながらリバーブを効かせてるみたい。
高速テンポでメロディらしきものが飛びすさるとこはテープコラージュのよう。実際にはテレミンあたりを使って、音を膨らませてるのでは。
右チャンネルでうねり、左チャンネルでは歯医者で聴ける高く連続した直線的なノイズ。
それぞれ違った成分が同時進行する。
スピーカー中央では轟き。ボリュームを上げるほどに、細かな音の連なりが溢れた。
あぶくまみれな水中を突き進むかのごとく。
もがき、腕でがしがしかき分け、しかし思うように進めない。
しだいに周囲が収斂、先鋭化してきた。貫く電子音。
一山越え、浮上できたか。モーターが活発に動き前進体制へ。
途中でパワーダウンし、速度が緩やかになった。
プロペラの回転が目に見えてきた。かき分ける対象は、水からゲル状のものへ変更。鈍く表面がうねる。
ハーシュなドローンの上でシンセが蠢く音像は唐突に咳き込み、ぐっとフェイドアウトした。
4.Soft Parts 1 & 2
(17:29)
MA plays Theremin,Moog,metal,Noise electronix
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,Dec 1996
タイトルで言う「ソフト」なんて、もちろん名ばかり。ヘリのプロペラ音っぽいパルスを基調に、周囲で奥行き深く高音が響いた。
後ろのほうでエコー風に鳴る音が心地よい。
瑞々しい音はムーグかテレミンか。賑やかに数本の音が対話する。
この音像は確かにメルツバウ流「ソフト」かもしれない。
しかしほのぼなひととき(?)もつかのま。
グラインダーの低音が響き、音像は凄みを増す。たまに中央で呟く"ソフト"なシンセ音。
6分あたりでいきなり音像が切り替わった。ここからパート2かな?
中低音をメインにして、痙攣が始まる。左チャンネルのほうで聴こえる、底が知れぬ平板な音がたまらない。
ぶりぶりと蠢く。電気製の風船の表面を撫でくりまわす。
音はがっつり兇悪になった。
回転をあげるモーター。パワーは特に使用されず、淡々と動きを誇る。
周辺の空気を巻き込んだ。回転音が複雑に変化。猛烈に空気をふるわせた。
あとはエンディングまでまっしぐら。これまでの音像イメージをときたまリピートさせつつ。
5.Wild Pair (3:50)
MA plays metal Noise electronix
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,Dec 1996
Merzbox最後の曲に、約4分の小品を持ってきた。もっともそんな感傷は振り切っているかもしれない。
冒頭はダブ風のハーシュノイズ。メルツバウ流ファンファーレに聴こえてしまうのはぼくだけか。
リズム素材は特にないが、ゆったりしたノリを感じる。
どちらかといえば彩り多い音色を多用した本盤の中で、この曲のみ硬派なフィルターノイズだけを使用している。
メルツバウ流の幕引きだよ。重たい鋼鉄製のノイズ緞帳が下りてるのさ。きっとそうにちがいない。
・・・って、ぼくが感傷的になってどうする。
Merzboxは秋田昌美にとって、単なる通過点でしかない。このあとも旺盛に各種作品を発表してるんだから。
さんざ轟音を振り撒いたあげく、問答無用でカットアウト。
ふっと静寂がスピーカーから漏れる・・・。