Review of Merzdiscs  48/50

Space Mix Travelling Band

Decomposed & performed by Masami Akita
MA plays Noise electronics,EMS,Moog,metals,voice,tapes
Raw materials of tracks recorded during 1994-1996
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio
Final mix in 1997
Different mix of track 3 used for raw material of collaboration with John Watermann on Brisbane - Tokyo Interlace CD Cold Spring

 数年がかりで、じっくり作ったのが2曲。
 メルツバウは緻密なダビングが特徴ながら、アイディアをすぐさま作品へ昇華とイメージしてたので、こういう創作形態は興味深い。

 最初の2曲は、完成までなんども手をかけている。
 オリジナルマスターは4chだが、最初の2chは94年に録音。そこへEMSのパートを録音したのが96年になる。
 さらにEMSやムーグをオーバーダブして、97年に本作は完成した。メルツボックスで初公開の作品。

 ノイズ素材を保管して、アイディアが浮かんだ時に引っ張り出す記憶力がすごい。
 譜面もないだろうに、どうやって個々の過程を覚えているんだろう。
 
 3曲目はJohn Watermannとコラボ作の別ミックス作品。
 イギリスのCold Spring盤「Brisbane - Tokyo Interlude」と同素材を使用してる。

 曲目は全て「旅行」のイメージを匂わせた。
 録音時期がまちまちなとこをみると、コンセプトを明確に置いた上で個々の作品を煮詰めたか。

<曲目紹介>

1.Travelling 1997
(20:04)

 轟く電子音。つぎつぎ鋭く刺す。
 電子の悲鳴と爆音。鈍く光る煙を貫き、猛然と襲撃。
 一段落。・・・ふっと一息ついた。

 あらたな目標発見。すかさず攻撃再開。
 ばりばりはじけ、容赦なく中身をぶちまける。
 圧倒的なパワーで目の前を塗りつぶした。

 移動開始。ねとつく大地を踏みしめ、着実に前方へ進む。進む。
 風景は変わり嵐の中へ叩き込まれても、びくともせぬ頼もしさ。

 中盤では極低音によるグルーブが提示された。ほんのりエイトビートっぽいが、すぐに変調し混沌へ呑まれた。
 リズムパターンにビートルズの「マジカル・ミステリー・ツアー」の幻想をムリヤリ当てはめてみる。ぼくの頭の中では、うまくはまりそうで楽しい。  

 とにかくパワーにあふれた曲。
 暴力的なイメージがぱっと聴きで浮かんだが、タイトルから見て旅行の爽快感の表現かもしれない。
 いや、ハードなツアーにうんざりした気持ちだろうか。
 音像が激しいから、どっちにも取れる。

 もし爽快感の表現だとしたら面白い。
 こんな耳をつんざく轟音に見送られる旅行って、痛快じゃない。

2.Floating Manhattan (14:06)

 前曲からメドレー形式でいきなり始まった。
 まっすぐに幾本もの直線が延びてゆく。
 最初はスピードを上げ、次第にじっくりと。噴出すエレクトロンでじりじり押し上げる。
 
 数分たつと、アメーバ状に拡がる世界へ踏み込んでいた。
 床がひっきりなしに泡立ち、落ち着かないことおびただしい。
 いつのまにか音像は規則性を匂わせた。
 複数の音でてんでにビートを重ねてる一方、元気のいいうねりが確かにある。

 太く明るいシンセが、スピーカーをふるわせた。
 くっきり輪郭立った音色をあたりのノイズで包み、てんでにぼやかそうとする。

 せわしなく震えるビートは、我慢できずに飛んできた。
 すぐさまノイズの滝に埋め潰される。

 バックの音が一瞬やみ、極太のワイヤーロープがライトを四方八方から浴びて輝く。
 ぐにゃぐにゃ丸まり、虚空へ先を伸ばした。

 空白。
 変調された叫び声。

 コラージュっぽく音像は変化し、逆回転風の声が何度も挿入される。
 きらめくシンセ。
 ビート感が希薄になり、ふわりと浮び上がった。 

 そのままエンディング。
 終わる寸前の逆回転コーラスがきれいだ。ほんの一瞬で終わりもったいない。
 最後の最後は、シンセがポップにきらめいた。

 (1)もそうだが、この曲を聴いてても、どれが94/96/97年の素材か違いがよくわからない。うーむ、なさけない。
 それだけ一体化した音像だ・・・ってことにさせてください。
 聴きようによっては、かなりポップなノイズだと思う。ビートが強調されてるせいかな。

3.Hongkong Suite (24:52)

 コラージュ要素の強い曲。ノイズと普通の曲とのせめぎあいに空想を飛ばすと楽しい。

 スクラッチノイズに飾られたムード・ミュージックが流される。
 上書きするフィルター・ノイズ。
 幻想はノイズへ変わり、メルツバウのメガネから見た風景に変化した。

 極太の電子音が鋭く貫き、きらびやかに突き進む。
 賑やかな要素を持ったままなのが新鮮だ。要するにムード・ミュージックの音源を太いノイズへ変調させたんだ。

 威力を弱めながらも、思い出したように精力を回復させ、左右のチャンネルで身を振り絞る。
 ゴージャスなムードをノイズの奔流で再現して見せた。
 華やかさの否定ではない。メルツバウ流にネオン輝く街並みを再現か。

 だがそのコンセプトゆえに破壊力が弱くなってしまったのは否定できない。
 本領発揮は9分を過ぎてからかな。
 ピュアなハーシュにがらりと表情を変え、兇悪な牙を剥いた。

 だが香港ムードも意地を見せる。一瞬だけ音楽を鳴らした。
 ハーシュは叩き潰す。消しゴムでゴシゴシ消す。
 
 どこだ?全滅させたか?・・・・姿は無いな。
 様子を伺い、音が一瞬静かになる。

 よし、もうこっちのもんだ!と、明るく舞い上がる電子ノイズ。
 喜びの波動を感じたのが12分前後。
 このあたりのメリハリが楽しめた。

 3種類、いや4種類かな?
 細かくすり潰された音像が同時進行でスピーカーから噴出す。
 くっきり左右のチャンネルへ割り振られ、中央をぽかんっと空けてしまった。

 お互いにチャンネル間の行き来はない。一瞬、パンで動くくらい。
 そのせいなのか。左チャンネルが再び香港ムードに侵食されても、右チャンネルは一切関知せず、ハーシュな笑いを響かせた。

 左チャンネルのムードミュージックは、またもや太いなシンセの音に叩き潰される。
 毒気を抜かれたごとく、一瞬左右のチャンネルともに静かに。
 香港ムードミュージックはその隙をついた。

 左チャンネルからセンターへ。ひらりと位相を変えてなりを潜める。
 ノイズのサーチライトが数本、行方を追う。
 光が隅々まで照らすが、ムード・ミュージックは尻尾をつかませない。
 厳しい追及。フィルター・ノイズが吹き飛ばす。

 あちら、こちら。さまざまな表情の追手が登場するけど、どうやらこのまま逃げ延びそうだ。
 エンディング間際。
 ぶわっとムード・ミュージックが登場した。自分の生命力を自慢するかのように。
 
 ハーシュはその姿を発見。追う。・・・。

Let`s go to the Cruel World