Review of Merzdiscs  47/50

Rhinogradentia

Composed & performed by Masami Akita
MA plays Noise electronics,EMS,audio generator,filters
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio
Track1 & 2 recorded 1995
Track 3 recorded 1996

 95年に録音された(1)と(2)、96年に製作された(3)を、97年にミックスしなおし一枚にまとめた盤。録音はZSFスタジオ。

 ライナーには「この種の音楽は"Zecken"名義で二度演奏したことあり」と書いてある。ブックレットのディスコグラフィに同名義の作品は見当たらず。ライブだけで使われた名前か。

 前半二曲は、かなり聴きやすい作品。メロディはない。もちろん。しかし賑やかな音像がひっきりなしに出揃い、楽しい構成になっている。
 轟音一辺倒でなく、メリハリ効いてとっつきやすいのでは。
 本作はこのボックスセットで初めてリリースされたはず。

 この時期も各種レーベルからリリースを繰り返したメルツバウ。発表の機会がなくてボツったと考えにくい。もしかして聴きやすいがゆえにボツったか。まさかね。

 どの曲も「うねり」を感じた。メルツバウ流のグルーヴとでも言おうか。
 さまざまなパターンの「うねり」が、共通項として存在する。 

<曲目紹介>

1.Rhinogradentia (14:52)


 グルーヴをきっちり感じる、いやにDJ風の作品だ。音隗ががしがし刻む。
 もっともそこはメルツバウ。各種ノイズをばら撒き、ビートの頭はわかりにくい。
 このグルーヴは結局終盤まで変わらず。フロアで聴いたら気持ちいいだろな。
 
 豪快に電子ノイズを響かせつつ、5分ほどは同様の音像が続く。
 その後いったんブレイク。ノーリズムで竜巻状のハーシュ・ノイズが咆える。
 パルスがうねり、独特のビートがサイレン風に響き、ぞくぞくくる。
 
 本作はボリュームでかいほうが楽しい。
 かなり聴きやすいため、小さな音だとさらっと流してしまいがち。
 ところが音量を上げたとたん、どどっと細かなノイズがスピーカーから噴出してきた。
 いくつものノイズを細かくミックスし、奥行き深い作品に仕上げてる。

 後半は明確なビートこそ消え去るが、冒頭に書いたとおりグルーヴがずっと継続してる。
 最後の数分間ではさまざまなうねりが交錯し、みるみる表情を変貌させる音を堪能できる。
 
 ひとつながりにしか聴こえないのに、5秒前と後でまったく違う音像に変化してる。まるで魔法だ。

2.Silver Scintillator (16:41)

 サウンドの感触は前曲と似てる。
 だがグルーヴは控えめ、浮遊感を強調してるように聴こえた。
 タイトルは「銀のきらめき」とでも訳すのだろうか。
 激しい炸裂音は、容易に飛翔を許さない。
 だがパワフルな本体は、縛られたロープ群を引きちぎり跳ぼうとする。

 ぷちぷち千切られ、足止めは困難になってきた。
 身体を震わせ、力をみなぎらせる。
 動力回路は本格的に稼働を始めた。パワーバンドに入ったようだ。

 もはや足止め可能なロープはあと数本を残すのみ。
 轟然と巨体を震わせ、余裕の表情。
 ゆったりボディを浮び上がらせた。ノズルから猛然と噴出す排気ガスが、しばし咳き込む。

 甲板を焼け焦がし、飛翔を始めた。
 空気が切り裂かれた。重力に逆らい、じりじり高度を上げる。
 いつのまにか上空へ来たようだ。表面がかすかにうねった。

 10分あまり経過で、ほとんど音像が静かになる。
 隙間へ忍び寄るノイズ群。
 鋭い破裂音が表面を襲ったが、はじかれ消えてゆく。
 攻撃。攻撃。
 だが外壁に亀裂ひとつつけられない。涼しい顔で本体は進む。
 
 光を浴び、表面が輝く。ゆったり方向を変え、消えてゆく。目的地へ向かって。

3.Narco (24:02)

 タイトルは辞書に載ってないけど「麻痺」や「麻酔」って意味でいいのかな。

 冒頭はうねうねとうねる音像から。細くしたたるノイズはじわじわ床下へ染み、次々と濡らす。
 常に変化するため退屈ではないが、めずらしく静かめなサウンドだ。
 じりじり短いパルスは、虫の声にも聴こえる。

 5分を経過したところで、おもむろに低音が不穏に瞳をきらめかす。
 そっと場面が転換し、力強い音柱が数本登場した。
 思い思いに表面を輝かせ、スピード早く回転しだす。
 だがすぐさまおとなしくなっちゃった。どうもカタルシスに欠ける。

 ほぼずっとこの静かな音像が継続して拍子抜け。
 タイトルのように、麻酔で朦朧とした心象風景を表現したんだろうか。
 ふらり、ふらり。
 焦点はぼやけ、うねりのコアはおぼつかなげに漂う。

 ハーシュノイズが飛び出してきたのは20分経過前後。
 ほぼ終盤といっていい。
 あくまで右チャンネルにもやけた雰囲気を残しつつ、恐る恐る噴きあがる。
 むしろふらりふらりうねるノイズに押し負けているかのよう。

 タイトルが先か、曲が先か。興味が湧いた。
 あくまで先は曲で、完成後に似あったタイトルをつけてると思うが・・・。

Let`s go to the Cruel World