Review of Merzdiscs  46/50

Marfan Syndrome

Composed & performed by Masami Akita
MA plays Noise electronics,EMS,Synare 3,metals,ribber bass guitar,telephone signal,tape,voice etc.
Reiko A,uses Voice on tracks 1 & 5
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,Sep 1994 - Jan 1995

 1994〜95年にメルツバウが作り溜めた未発表曲集。いったいどれほど録音してるんだろう。

 基本は95年にドイツでリリースされたLP"Dada Rotenvactor"の、製作過程で没になった作品群だそう。
 比較的隙間の多い、過激さの少ないものが多いと思う。
 コラージュっぽい部分が多いのも特徴か。

 この後メルツバウはシンセを多用し、さらにマック上でノイズをリアルタイムに波形制御するスタイルへ変わってゆく。
 その過渡期に位置する断片集と言えるかもしれない。

 収録された曲は、何度もダビングを重ねて作っているんだろう。
 最終的にこれらは未発表に終わったが、どの過程で見切られたのか。

 一曲作るための手順、思考の過程。さらに「完成した」と決める瞬間。
 完成像は最初から頭の中にあるのか。それとも、製作過程でイマジネーションを膨らませていくのか。

 レコーディングしている時の、メルツバウの考えをぜひ聞いてみたい。
 そういうインタビュー、どっかのメディアが発表してくれないものだろうか。
 ・・・って、これ前も書いたかな?覚えてないや。まあいいか。

 Reiko Aのボイスらしきものも聴こえるが、かなり加工されているようだ。
 ぼくがちゃんと聴き分けられてるか自信ないな。

<曲目紹介>

1.Marfan Syndrome For Blue
(7:07) Remix

 元はextremeレーベルのコンピに収録された作品のリミックス。
 既発テイクを未聴なので、違いはわからない。
 ライナーによれば、秋田昌美はこの曲がEMSシンセを使った、おそらく始めての作品だそう。
 
 マスターテープからのリミックスだそうだが、何チャンネルくらいでもともと録音されたんだろう。
 
 低音が不穏に蠢き、いくつかのノイズが空間を漂う。
 どのノイズもくっきり分離してエッジが立っている。全体の見通しもいい。
 普段はスピーカーを埋め尽くすタイプの作品が多いので、けっこう新鮮。
 
2.Oldenbergs Soft Gun (18:39)

 がらがら音像が変わる、せわしない作品。
 ただしメルツバウにしては珍しく、これまたシンプルな音像だ。
 アイディアをつぎつぎメドレーで羅列したよう。
 過激さが控えめで、ハーシュを期待すると拍子抜けする。

 初手から野太い爆音が降り注いだ。
 何重にも積み重ねたアンプに悲鳴をあげさせたようにも聴こえるな。
 
 いつしか響きは押しつぶされ、ぐしゃっとブーストした音へ切り替わる。
 それを包み込むように新しいノイズが登場。
 せわしなく表面の輝きが変化した。
 
 3分ほど経過すると、シンセ風の丸まっちい音が現れた。
 ノイズの奔流でひよひよ流されつつ、ゆっくり音の舞台そのものが変化する。
 いつのまにかうねるグルーヴが産まれていた。

 ビートはある瞬間、たしかにノイズを押しのけ自己主張する。
 ノイズが堰き止められた。ときおり音を揺るがせつつ、くっきりビートが鳴る。
 トランペット・ソロまっさかりの、ビッグバンドらしき音が恐る恐る顔を出した。
 左右のチャンネルを不安げに行き来する。
 
 だが、そんなコラージュもつかのま。
 高らかに電気ノイズの霧笛が鳴り、音像が一変。
 ぶっとい音色がぼこぼこ沸き立つ。
 
 じわり、じわり。
 小さく煮える音の上で、デジタル電話のプッシュ音らしき音が矢継ぎ早に繰り返された。
 
 12分前後で、風船をこするようなノイズが頼りなげに踊る。
 ここらへんの音使いが面白かった。

 だがそれも数分して、静かな電子ノイズの沼に沈んでしまう。
 ん?これは栓抜きの音?
 そしてラストはぐしゃぐしゃな音がスピーカーをまたしても埋める。
 
 実際は全てシンセで作った音かもしれない。
 だが妙に生々しい音を連想する音使いばかりだった。

3.Spider Nest Castle Pt.1 (12:26)

 ノイズ・ラジオのチューニング中・・・。
 なかなか目差す局が見つからないのか。
 ホワイトノイズの中で、あちこちツマミをひねってみる。
 断片的なハーシュ・ノイズが浮かんでは消えた。
 
 作品のコアを聴き取ろうとしてるうちに、エンディングを迎えてしまう。 
 構造は緻密だ。けれどぼくは、音のイメージをどうもうまく表現できない。

4.Un Br Che (11:25)

 不穏に脈打つ低音。その上をシンセがすささっと動く。
 唐突にノイズの柱が幾本も立つが、奥の奥で低音がずっと鳴り続けて聴こえるのは幻聴か?

 Reiko.Aの悲鳴のような吐息が浮かんでは消え、ノイズの嵐にまぎれた。
 鋭い音色の音程を声に合わせられ、イメージがあいまいになる。
 
 ふっと低音が消えた。確かに。
 風に漂う響きは、声なのか電子音なのか。
 
 再びぼこぼこが回り、本体は前へ進みだす。
 
 歌声で船員を迷わすのはセイレーンだっけ?
 声を巧みにノイズへ取り混ぜた、ストイックな音像に惹かれる。

5.Yosef Voice (2:12)

 二分間一本勝負。
 声を変調させてるのかな。

 しょっぱなからテンション高く、猛烈に突き進む。
 左右でそれぞれ高音が鋭く鳴り、中央には底光りする低いノイズ。

 さほど展開はないが、スリリングで楽しめた。
 こういう曲をCMソングにするようになったら、世界も少しは味わいぶかくなって面白いのに。

Let`s go to the Cruel World