Review of Merzdiscs  45/50

Red Magnesia Pink

Composed & performed by Masami Akita
MA plays EMS Synthi`A`,Noise electronics,metal,filters,voice
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,April-Aug 1995

 本CDに収録された曲は全て未発表。当時の各種作品のアウトテイクを集めたものだ。
 ライナーによれば"Red 2 eyes"(1996:V2/オランダ)、"Pinkream”(1995:Direct/アメリカ)、"Magnesia Nova"(1996:Nicholas Genital Grinder/ギリシャ)などのアウトテイクだそう。

 シンセを多用しスペイシーな肌触りの曲が多い。
 せわしなく音像が変化し、刺激的な作品ばかり。
 
 短めな曲が集まってるので、メルツバウの豊富なアイディアを力いっぱい堪能できる。
 しかしこれ、当初はどれもアウトテイクだったんだよな。うーん、もったいない。

<曲目紹介>

1.Minus Zero (5:57)

 猛烈に見通しのきかぬ電子のジャングルへ叩き込まれた。かすかにゴリラの喉咆えが聴こえる。
 ひっしにかき分け前進し、視界を確保を試みた。
 
 ぐにゃぐにゃと曲がったものばかりの世界に直面。じっと足を止め、目前の振動と対峙する。

 さまざまな要素がめまぐるしく降り注ぎ、眩暈するほど混沌とした一曲。

2.Etic (4:08)

 羽音。脈動。切削。抽出。
 最初から最後まで、解体されたさまざまなビートがランダムに提示される。

 裏でループされるクラシカルなフレーズが、違和感なしに音像へ溶け込んだ。
 低音成分が少なめなせいか、あんがい耳馴染みしやすい作品だと思う。
 テクノ要素もほんのりあり。特にエンディングあたりなどで。

3.Delta X (4:33)

 絞り上げられ、きゅうっと逃げ出す。断末魔の悲鳴?いや、そんな悲壮感はない。
 出口を締められ、わずかな隙間からひょろひょろノイズが搾り出る。

 シンセの太い音がコミカルに響く。次々だだ漏れな奔流は排泄のごとく。

4.Tremolo Man (10:27)

 ギターのエフェクター処理かな?上下をぶった切られ、ダブ風に左右のチャンネルを行き来させる音色がイントロ。
 さくっとシンセがかぶり、次第に厚みを増してゆく。

 この音色がタイトルで言う「トレモロ」なんだろうな。
 ビリビリ震え気弱げにふらつく。
 足場は危うく、落ち着いて立っていられやしない。

 2分程度経過したとこで、振動は付属物に。中央に芯を置き、その周辺で火花が散る。
 ささくれた部分はムリヤリ滑らかに研磨された。
 だがそれに倍する速度で尖がってくのも間違いない。

 右斜め35度辺りからのみ、削ってゆく方針に変化。たしかに一瞬力が殺がれ、落ち着きを見せた。

 だが再び力を放出。断続的に回転するのが6分くらい。
 複数の回転が多層的に聴こえる。このへんのミックスが楽しい。

 その後はゆっくり振動が高まりは、した。
 だがスピードは弱くなり静かに埋もれてゆく。

5.Euclids Pickel (13:48)

 電子を搾る音ってこんな感じか。
 冒頭部分はビートを一定、ぶちゅぶちゅねじり取られてゆく。
 リズムというにはあまりにせわしない。
 ひたすらパルスが拍を提示する。だが無論、小節感は皆無だ。

 うねりに埋没し、理性を磨り潰したくなるが・・・。残念ながら単調気味。
 中盤で急にブレイクが入り、左右を大胆に電子の塊がパンする。
 しかしそれも唐突さが先に立つ。

 あれこれアイディアを盛り込んだ作品だが、ちょっとぼくはのめりこんで聴けなかった。

6.Chameleon Body (9:18)

 絡み合ったノイズが一瞬スピーカーの奥へ身体をすっ飛ばし、次の瞬間には前面へ登場する。
 素早く位置を何度も変えた。タイトル「カメレオンの身体」の特徴である、色の変貌を音で表現してるのだろうか。

 いつのまにかサウンドは捩り合わさり、ひとつの太いノイズに収斂する。
 だが、皮膚の表面ではさまざまな変化がまだ続く。

 6分くらい経過したところで、またがらりと変化。
 左右のチャンネルをせわしなく飛び交い、野太いシンセの音が跳ねた。
 
 再びノイズの木々が葉を茂らせ、シンセのノイズは身体の色を変え溶け込んでゆく・・・。

7.Little Bang! (7:38)

 羽音のようなドローンと、ランダムに発散する電子音。
 けたたましくはあるものの、不思議と荘厳さを感じた。

 音が折り畳まれ、重なり、順序が入れ替わる。
 ジリジリ唸る音は歯軋りにも聴こえた。
 安易に炸裂せず、じっくりパワーを溜めてゆく。
 
 基調は電子ノイズが幾層にも重なっている。
 ノイズの多重構成を見事に使いこなすメルツバウだが、この曲でのアレンジは好きだ。

 激しすぎもなく、穏やかとは言えず。極端に走らないけれども、過激さを備えている。
 多層的なメルツバウの好例な作品ではないか。

8.You-Bahn (5:27)

 本CDを締めるこの曲は、前曲と同じテイストで始まる。
 前曲はきっちりカットアウトで終わり、1秒程度の曲間もあるが、聴いててメドレーみたいに聴こえた。

 ボトムが軽くて、音構造もいくぶんシンプル。
 なにかをこするように、執拗に同じノイズが繰り返される。
 どうやって録音したんだろう。サンプラーかなぁ。

 高音部分の発言力が強いため、スピード感がある。 
 せわしなくカチカチ刻むノイズがかっこいいな。

 5分程度はノイズに耳を傾けてるとあっというま。

Let`s go to the Cruel World