Review of Merzdiscs 44/50
Liquid City
Composed & performed by Masami Akita
MA plays Noise electronix,metals,EMS,voice
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,Dec1994-Jan 1995
もとは"Scatlo barroque"なるタイトルのCD−R企画用に準備された音源だそう。
ところがブックレットによると書籍のアイディアは「88年出版の『アナル・バロック』で発表済」とある。
音源録音が94年だから、時間軸が合わない。
88年に企画があり暖めていたノイズのアイディアを、94年になって録音したって意味かな。
一曲を除き、このアルバムで初登場な作品ばかり。
阪神大震災の日に作られた曲など、なかなかドラマティックだ。
作品的には、埋め尽くすハーシュノイズの轟きが耳に残る。
<曲目紹介>
1.Liquid City 17-1-95
(19:11)
あの阪神大震災の日に録音された曲。
しょっぱなから砂嵐の奔流が圧力をかける。
かすかに奥で電子音。サイレン風に淡々と響いた。
後ろの味付けは微妙に変わりつつも、全体像の嵐は果てしなくうねる。
これは地鳴りか、揺れつづけ収まらぬ人々の心境か。
あえて中心を設定せず、包み込むようにわめき散らすノイズ。
は耳を澄ますほど、細かく気を配りながら多層的にミックスされてるとわかる。
ボリュームも曲者。ちょっとひねり音を大きくしたとたん、違うニュアンスの音隗として楽しめる。
シンプルなアイディアと思わせ、実に多彩な表情を内包した丁寧な作品。
11分くらいでぽんぽん跳ねる軽快なビートが提示され、一分くらい経過時点で再びハーシュノイズへ塗りつぶされる過程が、妙に迫力あった。
ラストにねずみみたいなシンセ音が登場し、元気に走り回る。
そしてフィニッシュは静かな電子音の脈動。
次の瞬間、再び激しく揺り返しの予感を見せ、一気に叩き切られる。
2.Dalitech Filters (21:09)
イントロはコミカルなシンセのソロ。そして・・・。
視界をふさぐ音の網。銃の連射らしき音が聴こえた。
網は次第に粘着力を増し、ずるずると行動力を奪われそう。
じりじりと機械のボディを溶かされてゆく。
表皮が剥き出しになり、神経節が寸断され火花を散らしはじめた。
情け容赦なく、"網"は身体を蝕む。
ときおり尖らせた先端が、ぐいぐい突き刺さった。
一段落ついた頃。一気に体制を整え、リズミカルに押し揉む。
計器はめちゃくちゃ。もう何もまともに表示しない。
ボディの反撃。"網"を吹き飛ばし、冒頭の形状へ逆戻りさせた。
優位を取ろうとせめぎあいが続く。
溶解されたボディが急激に自己修復され、"網"の攻撃を許さない。
表面をむなしく滑ってゆく"網"。
"網"は攻撃の方法を変えた。
身体を丸く整えよ。ヤスリのごとく表面を削れ。
ボディは防戦に移った。景気よく磨り潰す"網"がリズミカルに跳ねる。
だが。ボディは表面の組成変更に成功。上滑りが随所で起こった。
怒る"網"。一段と激しく追及を行う。
瞬間、人の声が聴こえたのは幻聴か。傍観者である"人"が痺れを切らしたのかもしれない。
"網"とボディの攻防が続く中、右チャンネルの一部で、男のつぶやきが断続的に漏れた。
さまざまな軋む音が急ピッチで溢れた。
すうっと音が一瞬消え、緊張感を煽る。
ラストはメタリックっぽい音を前面に出してカットアウト。
この曲も複数のノイズを微妙に絡ませ、物語を作り上げた。
リズムもビートもないが、メルツバウ流のグルーヴを堪能できる一曲。
派手な飛び道具こそ使ってないが、秋田の天才的ミックスが味わえる。
3.Tiabguls (9:16)
この曲のみ、RRRからリリースされたコンピレーション、"Entertainment
through pain"で発表済み。
じわじわと脈動し、絞り込む。
あまり変化が無く冒頭の数分は進んだ。ときおり震えるスピードが速まり、咆哮し軋むノイズと関連する。
ぼおっとしてる間にエンディングへたどり着いてしまった。
しゅるるっとねずみ花火みたいに収斂するエンディングが面白い。
4.Cheese Car Commando
(7:35)
ビリバリ空気を震わせ、ひたすら振動する。
左右のチャンネルを楽しそうに駆けるシンセ。
そのおかげでバックのノイズはベタっと足を止め、重心を低く構えた印象だ。
3分を経過したあたりで微妙にバックのサウンドが変化する。
うねり、首をもたげる。駆けるシンセを追うようだ。
ちょっかいは激しさを増し、飛翔するものも余裕がなくなった。
ぎしり。ぎしり。鈍いノイズを挿入。一部は齧られ、削られたか。
まだしぶとく左右のチャンネルを駆けるが、もはや欠片のみ。
中央のふっくらしたところはズタボロになり、かろうじて外形だけを保っている。
喰ったバックは生き生きとし、胎内へ吸収した音色を前面に出し、奮えてみせる。
そしてサイレン風に高々と吼えた。
収斂。そして・・・残骸。