Review of Merzdiscs  43/50

Exotic Apple

Composed & performed by Masami Akita
MA plays tapes,Noise electronix,metals,guitar,EMS synth 'A',Roland TR 606
mixed at ZSF Produkt Studio

 92〜94年の音源を集めたCD。94年に録音された3〜5曲目が初登場音源になる。それ以外はコンピレーション盤へ収録された音源の再発。

 ライナーには「Arthur Lymonのサンプルを多用した」とある。そのミュージシャンの音を未聴なため、どの音か特定できず。すみません。
 
 ノイズの文脈で語ることに違和感はないが、かなり耳ざわりがよく、きちんと構成された曲が多い。
 今で言う音響派のはしりだろうか。

<曲目紹介>

1.Sunohara Youri Is Suzannna Erica (10:16)


 左右のチャンネルで電子ノイズが軽快に跳ねる。鋼鉄製ポップコーンの製造過程みたい。
 単音と長音をカットアップで使い分けた。
 がしがし畳込む単音で弾け、連続音で不穏さを表現。次第に二つの側面が混ざってゆく。

 一瞬の空白をはさみ、音像がさらにスリリングに。
 濁流をさまざまな角度から切り出して表現する。
 みりみりと膨らみ、押し流す。豪音に身を委ねてしまおう。 

 元は92年にイギリスで発売されたコンピ盤(詳細不明)に収録の音源らしい。

2.Moon Over The Bwana A (5:30)

 アメリカから発売されたコンピ盤"The land of the rising noise"で発表された。93年録音。
 アフリカの原初的なリズムが基調。こういうビートを聴くと、自然とわくわくしてくる。
 上モノでひょよよと流れる電子音が、ムーグのソロっぽい。まるでどっかのプログレバンドを聴いてるみたい。こういうポップなメルツバウって珍しい。

 リズム関係はサンプリング。これがArthur Lymonの音かな。
 実験音楽ではあるものの、ものすごく聴きやすくて面白い曲。

3.Apple Rock 1 (14:20)

 ここから94年に録音された未発表曲が続く。
 電子音を静かにばらまき、不穏に音像を彩る。
 単調に脈動するビートはセンサーの発振音だろうか。

 あたりは視界が悪く、よくつかめない。足場が悪く、ときおりがたつく。
 スコール?砂嵐?なにかが車外で吹荒れている。いや、ひょっとしたらここは水の中か?

 乗務員同士の会話。変調されて怪しく響く。
 風景がねじれ、足元がどんどん不安定になってきた。
 くるくると丸められ、違う場所へ運ばれてゆく。

 メルツバウによる音色のこだわりを感じる作品だ。
 爆音でひたすら埋め尽くすのではなく、さまざまな表情のパルスを繊細に絡み合わせている。

 8分前後でギター(?)により奏でられる低音の旋律が素晴らしくかっこいい。
 
 エンディングでは再びさまざまなビートが乱立し、不穏な空気の復活。
 聴き手をひきずり倒す暴力性より、足元をじわじわ溶かす禍禍しさを感じた。
 終盤でもういちど、いかしたギター・ソロがかすかに聴こえる。

4.Apple Rock 2 (16:17)
 
 性急にうねるさまがスリリング。
 わずかに電子音が震えつつ、しっかりと前へ進んでゆく。
 珍しく四つ打ちっぽくビートが刻み、膨らむ期待。
 多少喧しくはあるものの、フロアで流れたら充分踊れるテクノでは。

 微妙に音像は表情を変えるけど、いまひとつ刺激にかけるところが未発表になった理由かな。
 突き抜ける過激さが希薄で物足りない。16分という時間の長さが裏目に出たかも。長尺が得意なメルツバウに対して、特異な感想だが。

5.Apple Rock 3 (7:23)

 キーボードでフレーズのループが繰り返される。テンポやキーがところどころ変えられ、なんとも奇妙でアッパーなサウンドだ。

 ノイズは味付け程度に振りかけられるだけ。
 シンセをオモチャ代わりに作り上げた小品。他愛のないアレンジがサイケで面白い。
 
 ループは数分くらいで姿を消し、続いて登場はエレクトリック・ノイズ。
 やはりフレーズを繰り返す、ビートを意識した作り方。
 
 だが、マックで波形をリアルタイムで操作してノイズを作る、のちのメルツバウが取ったスタイルの原型ともいえる。
 ここでいう「アップル」とはなにを意味するんだろう。
 普通にリンゴ?それともマッキントッシュ?

 低音成分が控えめで、浮かれた雰囲気が気分転換するときにぴったり。

6.Apple Rock 4 (7:55)

 こんどはスピーカーを埋め尽くす電子音が中心な作品。低音がのしかかってくる。
 ねずみがそこらじゅうを走り回るような、せっかちなムードが漂う。

 ちょっとスケールがこじんまりかなぁ、と気を抜いた瞬間。
 ぐおっとノイジーに急変化した。

 この曲もビートがくっきりして聴きやすい。
 ランダムにパーカッションが打ち鳴らされ、カットアップで画面が切り替わる。
 メルツバウ流のDJスタイルな作品かな。
 めまぐるしくビートが変わるから、踊るにはちとしんどいが。
 最後にコーダっぽいアレンジがほどこされた。分投げたまま終わるのが得意なメルツバウにしては、新鮮な終わり方。

Let`s go to the Cruel World