Review of Merzdiscs  42/50

Sons of Slash Noise Metal

Composed & performed by Masami Akita
MA plays metals,Noise electronics,scratched CD,radio,tapes etc.
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio

 1992〜93年の未発表テイクを集めた、お蔵出しアルバム。
 ディスコグラフィーによれば、この2年間には20枚近くのアルバムをリリースしている。(4枚組の"Metalveldrome"を含む)
 にもかかわらず、まだ未発表テイクが残ってるとは。底知れぬ創作力だ。
 
 ライナーによれば(1)と(3)は同時期にリリースしたアルバムの素材に、、(3)の一部は"Metalveldrome"に使われたそうだ。
 (2)も当時の断片らしい。

 全曲が4chマスターからのリミックスで、編集はなされていない。

 統一感には欠けるものの、秋田昌美の日記を見てる気分。
 アイディアの豊富さに圧倒される。
 どの曲も似たような部分がない上、ひとつの曲の中ですら、立ち止まらないんだもん。

 全体として緊迫感は控えめ。メルツバウの音像にたゆたう快感。

<曲目紹介>

1.In-A-Gadda-Da-Veddah
(16:53)

 表題はアイアン・バタフライ「イン・ア・ガダダヴィダ」へのオマージュかな。録音は92年。

 しょっぱなから底鳴りする電子音が噴出す。
 だが一分半くらいで一息ついて、ぶくぶくと泡立ち始めた。
 次第に加速し、はじける瞬間がたまらない。

 電子製の天ぷら鍋にほおりこまれたみたい。そこかしこで超高速パルスが飛び交う。

 不思議と緊張感を強いない音だ。どこか余裕を感じる。
 するっと聴き流してしまう一曲。
 ぶおん、ぶおんとうねるグルーヴが気持ちよい。

2.Cross Toad (10:57)

 炸裂する金切り音。滑る。滑る。
 広々した氷上をまっすぐ突き進むよう。
 冒頭すぐに左チャンネルから繰り出される低音がすごい。じわっと耳が蓋される。

 ときおりノイズが震えるものの、基調は音像を埋め尽くす圧迫感。
 大音響で聴いたら、音圧に押しつぶされるだろう。

 氷上がいつのまにか砂利に変わった。上下に揺すぶられる割合が多くなる。
 あちこちが軋み始めたぞ。
 
 よし、また違う足場へ移動できた。今度は水上だろうか。 
 しぶきがあたりいちめんに拡がる。
 推進機関が安定しないな。火花が飛んでるか?このまま壊れずに進めれば・・・。

 エンディングは素直にフェイドアウトする。93年2月に録音された。

3.Slash Embryo (32:34)

 小品と大作。どっちもよさはあるけれど。ぼくはこういう大作の方が好き。
 彼のライブを見たせいかも。1時間程度かけて、ひたすら音を紡ぎ盛り上げる今のメルツバウを味わうと、長時間の作品に真髄があるような気がしちゃう。

 さて、この曲は93年3月収録。
 冒頭は高音を強調したハーシュ・ノイズをぶちまけたところから。
 ブオーンと一音、ホーンらしきものがなった瞬間、頭にタンカーみたいな巨大船のイメージが浮かんだ。

 スクリューでかき回す水の風景。軽やかに進む風切り音。いくつもの風景がミックスされている。
 ときおり挿入される、ぶっといシンセの音が面白い。
 規則性はなく、まったくランダムなので油断できない。心待ちにしつつ、耳を傾ける。

 ぐううっと盛り上がってきたのは8分を過ぎた頃。
 いっきにノイズがぶちまけられ、頭の上からずぶぬれになる。うーん、心地よい(変かな・・・)。

 こまごまと音が変化を続け、ふかふかの絨毯を転がるような安定感がある。
 とはいえ溢れる音は、すさまじく不安定な電子ノイズだけど。
 特にビートらしきものはない。でも微妙に震えるノイズの重なりがノリを産む。

 ゆっくりと隅から溶かされてゆく。削られ剥がされ、次第にでこぼこが滑らかに変化する。
 音の風呂ってこんな感じかな。
 四方八方からむちゃくちゃ細かい粒子がぶつかる。

 いつのまにか音像が切り替わる意外性も聴きもの。
 エンディングは一気に音数が減り、生々しく響く。妙に物悲しい。

Let`s go to the Cruel World