Review of Merzdiscs  41/50

Brain Ticket Death

Composed & performed by Masami Akita
MA plays Noise electronics,metals,turntable,bass,guitar etc.
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,1993

 1993年に録音されつつも未発表だった曲を集めたCD。
 傑作です、これ。

 4曲目に収録された"Brain Ticket Death"はもともと、アメリカのレーベル(?)"Mother Savage"用に録音されたとか。

 また、ドイツのバンドBrainticketやNURSE WITH WOUNDのダブル・ミーニングでもあるらしい。
 Brainticketはタイトルに織り込まれてるからわかるけど、NWWはどういうニュアンスなんだろう・・・このジャンルは詳しくなく不明。
 ご存知なかた、ご教示お願いします。

 とにかく前半3曲のスピード感にしびれる。
 一刻も休まぬノイズを、わくわくしながら聴いてたらあっというまに時間がたった。
 シングル・カットされてもおかしくない。濃密な時間帯だ。
 そんなシングル、ヒットチャートを駆け上るかは別にして。

 4曲目の長尺曲も、かなり聴きやすい。
 インダストリアル・テクノが好きな人に、自信をもって薦められる一枚。

<曲目紹介>

1.Metal Of Doom (6:36)

 地鳴りと金属を打ち鳴らす音。しょっぱなからいきなり緊張感あるノイズ。
 吹荒れる豪音が爽快だ。

 工場風のサウンドが、無常に響く。
 切り刻まれ、押しつぶされ、変形され。
 金属製のオブジェを切り出し、組上げる過程を録音したかのよう。

 サウンドの変換はあるものの、ドラマ性よりも「変貌」を意識した感触がする。
 たとえば宇宙船の組み立て工場。
 さまざまな音が絡み合い、中央の「何か」へ収斂してゆく。

2.Electric Peekaboo (3:45)

 カットアウトで終了した前曲から、すぐさま始まる。
 録音機材が同一なんだろうな。音の質感は良く似てる。
 だが曲のムードは当然違う。この豊富なアイディアっぷりは、さすがメルツバウ。

 こちらはブブブブッと細かくはじけるノイズが中心。
 前曲が収斂ならば、こちらは拡散。
 中央にコアの存在を想像させるが、あくまで動的な存在。

 せわしなくパルスを噴出しつづけ、4分弱の時間をあっという間に駆け抜ける。
 全貌を見届ける前に過ぎ去っていったかのよう。

 エンディングですぱっと切り落とすいさぎよさがかっこいい。

3.Iron Caravan (5:33)

 これまた前触れなしに唐突な始まり。イントロって存在するんだろうが、編集で切り落とされたみたい。それも聴いてみたいな。
 ザッパと同様に、メルツバウにも「編集」の要素が欠かせない。
 くっきりと起承転結がない音楽だから、始まりと終わりを決めるのはあくまで秋田昌美、本人だ。

 聴いてて浮かんだイメージは、大河の濁流。「鉄の隊商」ってタイトルからの連想もあるだろう。
 ノイズにひとつの方向性を感じる。混沌さはそこかしこにあるが、常に流れつづけている。

 ときにするっと穏やかになりはするけれど。
 ひたすら呑みこみ、前へ流れてゆく。

 そう、後ろ向きな方向性じゃない。
 かなり当りは厳しいが、強い意志をもって進んでゆく。
 この曲も聴いてて、時間がたつのがあっという間だ。

4.Brain Ticket Death (34:01)

 コラージュ風に始まるが、サンプルは猛烈に解体・変貌され何がなんだかわからない。
 連打する猛烈なビートがすてきだ。
 高速なデス・テクノを聴いてるみたい。

 断続的なビートにいったん変化するも、再度ノイズがぐうっと覆い被さる。
 そして始まるリズムは、ちょっと軽め。スピードはずっと保持する。

 ときどきパターンを変えつつも、基調は高速ビート。ここまでくっきりとリズムを前面に出した作品は貴重だ。
 
 ドラマーでもある秋田のビート感が炸裂したか、すばらしく躍動感あるリズムがいっぱい。
 さらにそれを各種電子ノイズが味付けしてるから堪らない。

 30分以上の長尺作品ながら、まず退屈さを感じないと思う。
 いくつか音像ががらりと変化する辺り、DJのミックス・テープを聴いてるみたい。
 メルツバウのフロア対応作品?・・・まさかね。

 大音響で聴きたい、これ。踊れるかどうか別にしても、すごく気持ちいい瞬間を味わえるにちがいない。
 アレンジの主眼はパルスであり、打音の連発。
 
 そっけないし、情け容赦もないけど。
「身体を動かせ」ってメッセージを確かに感じる。
 
 23分くらい経過したところで、あがりっぱなしのテンションが下降ぎみになった。
 これがメルツバウ流のチルアウトかな?
 アンビエントとはほど遠い、圧迫感が健在だ。

 重厚な豪音に包まれて、ゆっくりと浮上してゆく。
 カットアップ風に、視点は外と中を切り替えながら。

 ドラマティックな展開で、すさまじくわくわくできる名曲。
 30分もの時間をかけてこそ理解できる説得力だ。

Let`s go to the Cruel World