Review of Merzdiscs  4/50

Colection Era Vol.1

MA plays tapes,ring modulator,violin,tabla,voice,guitar,percussion,drums,radio etc.
Kiyoshi Mizutani plays drums on track 1,percussion on track 2,and organ on track 3
Recorded at various locations
Mixed at Ylem/Gap works,Tokyo,3 June 1981

 「Colection Era」シリーズは、もともとはインディレーベルのYELM向けに製作された。
 実に46分テープ10本分の、聴き応えがある大作だ。
 多作を誇るメルツバウの旺盛な創作心が、片鱗を見せ始めた作品と言えるだろう。
 今作では水谷聖が製作に協力し、それぞれのトラックで秋田といっしょに即興演奏を行っている。

 このシリーズは、リリースまでに紆余曲折があったようだ。
 まずは最初に46分テープ5本分を、YELMレーベル(母体はGAP WORKS)のスタジオで録音する。
 YELMレーベルは「AWA」というタイトルの二枚組コンピに収録してリリースした。これがメルツバウにとって初のアナログ盤リリースになる。
 
 ちなみに、このMerzboxに載っているディスコグラフィーには、本コンピは記載されていない。
 Studio Voice 00年3月号にある、秋田本人のディスコグラフィーでも無視されている(ちなみに、後者はかなり不完全なディスコグラフィーのようだが)
 なぜだろう・・・。

 ともあれ、YLEMレーベルはすぐに活動を停止してしまった。
 当然ながらその後の「Colection Era」シリーズの残りの分も、リリースは中止される。

 そこで秋田は残りの46分テープ5本分の作品は、秋田の自宅で作成。
 自主レーベル「Lowest Music &Arts」から、カセットでリリースした。
 このCDは、(1)と(2)がシリーズの1巻目。(3)はシリーズ2巻目から(A面分かな?)が収録されている。 


<曲目紹介>

1.Electric Enviroment (24:00)

 水谷聖が演奏するドラムの音を中心において、バックに様々な生活音や鳥の声、はたまた日常生活で発せられる音を、コラージュで差し込んでいる。
 基本的にはビート感が希薄なドラムの即興演奏だ。
 
 テンションがかなり高くて、手数の多いドラムは聴いていて楽しい。
 演奏には次第にギター・ノイズも割り込んでくる。
 フレーズは意識せずに、フィードバック風のサウンドが中心だ。
 ドラム演奏と絡み合って、大きなうねりが作り出されていく。

 おとなしめの演奏に感じてしまう瞬間もあるが、基本的には緊張感をたもった演奏をキープする。
 金属的なノイズが続くあたりは、現在のメルツバウの音を思い出すなあ。
 ノイズ演奏が基調になっていると思うけれど、前のCDと同様にこちらの即興演奏も、フリージャズのセッションを聴いているような気がしてくる。
 現在のメルツバウに比べると、とても人間くさいノイズ演奏だ。

 どの程度の部分に対して、セッション後にダビングや編集をしているのかは不明だが、一瞬たりとも立ち止まらずに表情を変えていく、刺激的な音像をつくりだすアイディアの豊富さは素晴らしい。
 アイディアの豊富さは、なにもこの盤だけでなくメルツバウの音楽すべてに言えるけどね。

2.Untitled Material Action (23:57)

 テープを裏返して、今度は電子音が中心のノイズ演奏になった。
 カセット時代なら、メリハリがついた作品になってただろうなあ。
 CDだと連続して聞いてしまうから、その辺がちょっとみもふたもない。

 この曲ではテンションは低めにして、静かで継続性を意識したノイズだ。
 とはいえ、同じノイズを繰り返してドローン効果を作り出すのが目的ではないらしく、微妙に違うノイズになるよう変化させている。
 手弾きによる演奏に聴こえるから、もしかしたらメルツバウの意志とは別に音色が変化してしまう部分があるのかもしれないが。
 
 ころころ表情を変えていく音、かすかに震えては変化するリズム。
 ときにリズミカルに、ときにのんびりと電子音が飛び交う。
 かろやかに弾むさまざまなノイズは、ユーモラスに聴こえる。
 眠りを誘うBGMにいいかもしれない。
 まぁ、この盤を大音響で聴いたら違う感想を持つだろうな(笑)

 パルスが連続して続く部分は、インベーダーゲームのSE風でもある。
 このころはゲームセンターでさまざまなゲームが生まれて、家庭用ゲームウオッチが全盛期な頃になるはず。
 どのくらいそういった電子音をメルツバウは意識していたんだろう。

 20分前後が過ぎたあたりで、ひずんで歪んだテクノ風の音が前面に出てくる。 ゲーム音楽をほうふつとする、安っぽくて耳につく電子音だ。
 かなり当時のとんがった電子音には、思い入れを持ってたと考えてもいいのかな。

3.Telecom Manipulation (18:18)

 ごぼごぼ言う電子ノイズやラジオのコラージュをバックに、引っかくようなヴァイオリンがかき鳴らされるのがイントロ。
 ぶかぶかと鳴らされるオルガンを、水谷が演奏している。
 数分単位でがらっと音世界が変わっていく。
 クロスフェイドではなく、カットアップ風に鮮やかな変換をするので、小気味よさを感じた。
  
 音の場面転換を繰り返しながら、なんどもヴァイオリンの即興が挿入される。
 ああ、だからタイトルが「遠距離通信操作」なのかな。
 様々な要素をゴチャッと折りこんで、音の印象を切り替えていくのが、この曲の主眼だろう。
 で、ヴァイオリンの弦を通信のケーブルに例えてる・・・ってのは、うがちすぎな見方かな。
 とはいえ、今のメルツバウを知っている耳では、どうにも物足りない。
 だって、すっごく優しくて静かなつくりなんだもん(笑)

 一瞬過激になる瞬間はあるものの、基本的には穏やかなノイズを多用している。
 ・・・とはいえこの程度でも、安易に人へ薦められる音楽でもないんだよなあ。残念。

 最後は電子音が重なり合っていき、盛り上がっていくところで唐突に切り落とされる。
 あまりに終わり方がいきなりすぎて、最初に聴いたときはとまどってしまった。

Let`s go to the Cruel World