Review of Merzdiscs  39/50

Stacy Q,HI FI Sweet Leaf

Composed & performed by MA
MA plays metals,Noise electronics,tapes,scratched CD,radio,sound effect records,guitar,etc.
Recorded & mixed at ZSF Produkt

 本盤は91年にextreamから発売されたCDの再発かな。
 ライナーには"Crash for Hi-Fi"(1991),"Wing over"(?)の元素材だ、ともある。

 そして、ぽつんと記入された"編集なし"の文字。

 1曲目は91年4月、2曲目は91年5月。おそらくどちらも、秋田昌美の自宅で録音された。

 さまざまなレコードが素材として使用されているようだ。「ステイシーQやブラック・サバスを多用」と、秋田がライナーで述べている。
 
 コンセプト先行ではなく、あくまでメルツバウがアイディアを積み重ねた作品って気がする。
 いわば日記のような作品。

 めずらしくビートがくっきり存在した部分が多い。
 いわゆる「売れ線」ノイズ?・・・言い方が極端か。

<曲目紹介>

1.Decomposed Cockoo
(26:29)

 戦場からの実況中継みたいに、ズシンと響く低音が連打される。
 あたり一面、銃弾が飛びかう。どこかと通信する声が、かすかに一瞬だけ聞こえた。

 だが、全ては豪音に押しつぶされる。舞台が変換。
 急に低音がどこかへ行ってしまい。降り注ぐ電子のシャワーに突っ込まれた。
 消毒。消毒。
 各種音波で、雑要素が削ぎ落とされていく。そして寸断。

 規則正しくうねるパルスに覆われ、こねまわされる。
 純化完了ボディに、新たな情報を挿入開始だ。
 揺らぎが激しくなり、中央部分から新たに練り直す。

 だんだん思考回路が兇暴に変化。ぐいぐい前のめりへスタンスが変化した。
 研ぎ澄まされた電子音が一面を覆いつくす。
 ここから先は問答無用。

 ひたすらシャワーが降り注ぐ。自らもシャワーの一要素に変貌した。
 今の目的は、体の形を変えて急降下すること。
 次なる「何か」をこの世界の規範にそって洗い治すために。
 すり潰そう。細かな粒子に。

 そして、元の世界へ戻っていく・・・。
 転送先は、銃弾に囲まれた戦場らしいが。どこか様相が違う。
 サイレンが響き、弾幕よりも光線が飛びかう頻度が高いようだ。
 新たな世界に立ち尽くした。逃げ場はない。

 サイレンが四方八方から飛ぶ。

 聴きようによっては、デステクノとしても成立するポップな作品だ。
 ビートがくっきり提示される部分もあるし。フロアでもつかえるのでは。
 踊れるシロモノかは保証しませんが。 

2.Stacy Q,HI FI Sweet Leaf (26:28)

 まずはゆったりしたうねりが主体。かすかにぶくぶく破裂する。
 いつしかカットアップ風の音像へ変化する。
 だけど断片は極小に切り刻まれ、元の音は片鱗しかない。
 
 規則正しく刻むパルスが、ポップでありつつもメルツバウらしくないと感じるのは、ぼくだけだろうか。
 硬直したリズムに、音楽の断片が絡みつきポリリズミックになる。

 主体はあくまでパルス。
 ところがさまざまに揺れる、ウワモノの誘惑に負けたか。ビートがあやふやになってきた。
 だいぶテンションが前倒しになってくる。

 叫び声らしき音も断続的に挿入される。ただし音色は加工されて、響きの海に塗りつぶされるが。
 この使い方はサンプリングとはいいがたい。 
 
 メルツバウの狙いはどこだろう。
 音源の解体でもなく、ビートの再構築でもなさそうだ。
 まるで「情報の無作為抽出による消費」のような・・・。

 元の音楽の意味が剥ぎ取られ、混沌の一要素として使いこなされる。
 「この音楽でないとダメ」の必然性が感じられないところが、ヒップホップのサンプリングとは大きく違う。
 
 ぐしゃめしゃにリミックスされた音像は、ひたすら「鳴る」だけだ。
 これを楽しめるかはその人次第。
 ただ、他のメルツバウ作品と比べて聴きやすいと思うけど。

 ぼくはもっとノイジーな作品のほうがいいな。
 ビートもなく、個々の要素もわからないほど複雑にミックスされたサウンドが好きだ。

Let`s go to the Cruel World