Review of Merzdiscs  37/50

Newark Hellfire - Live on WFMU,1990

MA plays feedback audio mixer,metals,electronics,electric shaver
Reiko A. plays metals,bowed instruments
Recorded live at WFMU Radio studio,Ney Jersey USA on 23 Sep 1990

 メルツバウ初のアメリカツアー音源。ラジオ用のライブが完全収録された。
 アルケミーからリリースされた"Great American Nude"に使用されたライブ音源も、このときのツアーから。
 
 メルツバウの本領発揮。秋田昌美とレイコ・Aによるノイズが、60分一本勝負でひたすら続く。いったんスタートボタンを押したら、あともどりできません。
 
 ブックレットで「当時、このライブはニューヨーク市内に放送された。ある人から「タクシーの中でこのライブを聴いたよ」と教えられた」と、秋田が述懐する。

 この音源をラジオでかあ。何時頃放送されたんだろう。
 もし真昼間だったなら。
 明るい日差しの中、ビルの間をタクシーで通り過ぎつつラジオで聴くメルツバウ。
 日常の空間を、豪音が駆け抜ける。

 ・・・なんて痛快なんだ。

<曲目紹介>

1.Newark Hellfire
(58:45)

 これは会場にマイクを立てて録音したんだろうか。
 情け容赦ないノイズに、ベール一枚かかってる風に聴こえた。

 まずはホワイトノイズ風にうなる電子音。表情はほとんどかわらず、音量だけがかすかに変化する。

 わっしゅ、わっしゅ。
 硬い音が割り込んできた。
 猛烈なスピードで連打し、焦燥感をあおる。

 ランダムなメタル・パーカッションにハーシュ・ノイズがまとわりついてきた。
 奥底で脈動が聞こえるのは幻聴かな。

 まがりなりにも打撃音があるせいか、最近のメルツバウで感じる圧迫感は控えめ。いくぶん祝祭的な表情がある。
 ノイズをばら撒くことでのカタルシス、まではいかないが・・・。
 多重ノイズによる野性の味がした。
 
 タイトルには「地獄の劫火」とある。破壊衝動の表現かもしれないが、メルツバウを聴くたびにもっと前向きなパワーを受け取っている。
 破滅ではなく、内なる衝動をはじけさせるテンションを欲しがっているのかもしれない。

 どの瞬間を切り取っても、けっして同じノイズを繰り返さない。
 膨大な情報量に支えられたメルツバウの「音」を聴くたび、どこか元気になる。

 15分経過。ぐいぐい音が前に出てきた。
 果てしなくメタルが叩きのめされ、そこかしこで電子音が噴出す。
 たった二人で生み出してる録音とは思えない。オーバーダブは多分してないと思うけど・・・。

 断続的に飛び散る。つねに豪音が鳴りつづけているものの、一方ではさまざまに炸裂。
 20分経過。いままでのノイズを全て吹き消すように、あらたなノイズが埋め尽くした。

 だがノイズのパワーは果てしない。
 埋め尽くしたノイズ・シーツのそこかしこがほつれ、突き破って再び暴れ始める。

 音源から、ライブそのものの肉体性は聴こえづらい。あくまで脳髄だけが四方八方に蠢くイメージ。
  
 がしがし金属を神経質にかきむしる。歯が浮きそうだ。
 ボジボジボジボジ吐き出される電子音のほうがよっぽど親しみやすい。
 ノイズは次第に、鋼鉄製レコードによるスクラッチ風サウンドへ変貌する。

 ぼんやり聴いてると眠くなってきた。
 音は確かに刺激的だが、変化の仕方が微妙だからだろう。
 小さな変化は常に発生しているが、基調となるノイズのアイディアは変わらない。
 いつのまにか変化して、10分前とはまったく違った音を出してることに気付くしまつ。

 比較的小さな音で、部屋にて聴いてるせいだろうな。もしその場にいたら、息苦しくなる音波に翻弄されてるだろうし。

 30分経過。ほぉら。
 さっきまで聴こえていたギシギシギイギイ擦る音はいつの間にか音色を微妙に変え、他のノイズの一要素へ消え去っている。

 メルツバウはけっしてはしゃがない。強烈なオリジナリティで熾烈な表現をしてるのに、いつも地にしっかり足がついている。
 また、息切れもしない。あふれるまま、果てしなくノイズが続いてゆく。

 いくつもあった音色がほぼ収斂されてきたか。
 野太い音へまとまってきた。トンネルの中を駆け抜けているみたい。
 おっと。あたらしいノイズが降ってきたぞ。

 だが、新要素は断続気味。えんえんハーシュノイズが荒れ狂う。
 風景がびゅんびゅん後ろへ吹き飛び、メルツバウ号はただただ走りつづけた。

 40分経過。
 感覚が麻痺してきたみたい。激しいノイズなのに、かなり穏やかに聴こえてきた。

 ラストスパートかな。40数分たったところで、再び激しくのたうつ電子音。
 シュオンシュオンと吹き荒ぶ。次第にスピードが速くなってきた。

 エンディングに向かって、さほど派手な展開なし。
 たまに太い音の噴出こそあれ、むしろ淡々と流れていく。

 コーダへ向けて音が収斂し、じんわりとノイズが着地してゆく。
 数度バウンド。そしてフラップが開きスピードが強引に落とされて消音。
 けっこうドラマティックなエンディングだ。

Let`s go to the Cruel World