Review of Merzdiscs  34/50

SCUM - Severances

Composed & Mixed by MA
MA plays tapes,turntables,electronics,drum kit,percussion,voice,metal percussion,bowed instruments,electro-shaver,motor,self-made junk, etc.
Recorded & Mixed at ZSF Produkt Studio,2 July 1989

 SCUMシリーズの一作。
 もともとはアメリカのレーベル"Discordia Concordia"からカセットテープでリリースされたと、メルツボックスのブックレットには記載されている。
 (同ブックレットのディスコグラフィーでは、秋田の個人レーベルZSFから発表となっているが・・・)

 ナパーム・デスが同時期に同タイトルのアルバムを出しているのは偶然とのこと。
 全般的にさまざまなコラージュ手法を使用したノイズ。
 編集センスを楽しむ作品だろう。実験音楽的な肌触りがする。
 メルツバウのサウンドによくある緊迫感は、比較的控えめな作品だ。

<曲目紹介>

1.UP Steel CUM (16:24)


 ラップ・スティールとタイトルにあるものの。実態はいきなりノイズがのたうつ。
 微妙に体表面を変えつつ脈動するさまが、ラップ・スティールなのかな。
 一分足らずで、ノイズのマグマが噴出した。

 だが、それもすぐさま変貌する。カットアップ的にさまざまなノイズがぐしゃぐしゃにミックスされては消えていく。 
 ときおり挿入される、秋田による切れのいいドラムも聴きもの。
 多彩な表情が次々現れ、飽きない作品だ。

 8分あたりで、がらりと音像が切り替わった。
 何かをすり下ろすような、甲高いノイズの奥でどたんばたんとテープ処理された騒音が暴れる。

 パーカッション系など実際の音と電子音が巧みに組み合わされ、メタル・パーカッションの音までが幻想的に響く。
 メルツバウのミックス力は特筆すべきものだが、さらに音像のイメージを膨らませるテクニックも素晴らしい。

 楽しい記憶のつまった脳みそに、指を突っ込んでぐるぐるかき混ぜたようなイメージがする。

2.Catabolism Variation Stereo No.1 (14:02)

 焦燥感があおられた。ノイズにエコーをかぶせ、ぐらぐら揺さぶる。
 空白が生かされたサウンドの中、シンプルな電子音が震えるのはかなり落着かない。
 手を伸ばしてもすり抜ける。解けてしまう。なかなか操れないもどかしさがある。

 ミニマルに繰り返される電子音は、ボコーダーを使っているのかな。おぼろげながら人声の面影があるような・・・。

 四方八方からキイキイ声のノイズ語が責め立てて来た。
 逃げ場を探してきょろきょろ見回すが、そこかしこに立たれて逃げることはかなわない。
 ふっと景色が開けた・・・だめだ。またしても新たなノイズが降りかかってくる。

 こんな風に、どっぷりノイズの世界で空想を遊ばせるとたまらなく面白い。想像力を刺激する作品だ。

 7分くらい経過したところで、いきなりキーボードの演奏が始まる。この場違いさはなんなんだ・・・。
 ノイズがかぶさり消してしまおうとするが、しぶとくスピーカーの片隅で生き残る。
 フィルターノイズにも負けず、シンプルな旋律を繰り替えすキーボードの演奏は、けなげでもあり頑固でもあり。

 10分半あたりでは、今度はリズムボックスのドラムフィルが登場する。
 現実の「音楽」と「ノイズ」の共存をわかりやすく提示した、メルツバウ流のミックス作品だろうか。

 今の耳だと、インダストリアル・テクノとしても聴けるなぁ。
 ちなみにこの作品、作られたのは1988年。今から10数年前だけど。

3.Dear Forever〜Wild thing〜Electric Shaver Forest〜De-Soundtrack Variation No.1〜Rap The Khabarovsk(31:01)


 メドレー形式のクレジットがされているけれど、どの部分がそれぞれの曲かは、いまひとつ謎。
 冒頭はシンプルなインストのロックンロールから始まる。テープ編集か、エフェクターをかけて歪んだ音飾になっている。

 わずかに彩りをつけるのが、電子の軋み音。メルツバウの名前にしては意外な感じだが・・・。
 ロックンロールの部分はスピーカーの奥へ押しやられ、テープコラージュ風に編集されている。

 「Dear Forever」とはモーターヘッドの曲らしい。ぼくはオリジナルを聴いたことなく、どう変調させているかは不明だ。
 つづく「Wild thing」はジミヘン。
 最終部分の「Rap The Khabarovsk」はロシアでのライブで収録された音源が元とクレジットされている。

 5分くらい経過したところで、ロックなドラムは引っ込む。
 次に登場してきたのは電子ノイズ。テープを逆回転させたような音色が、散発的に飛び交う。
 いつのまにか登場するドラムも演奏は秋田自身かな。オフ気味にミックスされて聴こえづらいが、手数多くノーリズムで叩きまくる。

 音楽はまたしても変容し、さらにテープコラージュの側面が強くなる。 
 散発的にさまざまな電子音が跳ね回り、消えていく。
 ノイズというより、テープ編集による作品の趣だ。
 サウンドの発想そのものはノイジーだが、メルツバウにありがちな「肉体感」がかなり希薄に聞こえる。

 ボリュームを上げれば音に迫力が出てくるが、現代音楽的な色合いが強いため、カタルシスに欠けるのは否めない。

 節目節目で各種リズムボックスが登場し、せわしなくビートを叩き込む。
 ただ、小節を感じさせる使い方はされていない。
 あくまでパーカッションとして連打され、つねに音像の奥でカーテンをかけられているようなもどかしさあり。 

Let`s go to the Cruel World