Review of Merzdiscs  33/50

SCUM - Scissors for cutting Merzbow Vol.2

Composed & Mixed by MA
MA plays electronics,tapes,bowed instruments,percussion,metal junks,motormpiano wires,Noise generatormguitar,electric shaver,radio,effects etc.
Recorded & Mixed May-December 1988 at ZSF Produkt Studio and various rehearsal studios

 これも1989年のアナログ二枚組「SCUM」(500枚限定)を再構成したCD。
 今回再発にあたり、カセットからリマスターがほどこされた。
 4曲目が未発表曲。そして1・2曲目はロング・バージョンが収録された。

 音源は秋田の多重録音で作り上げられてはいるが、ベーシック・トラックだけは水谷聖(gほか)とライブ録音された。

 現在のインダストリアル・テクノを予言したかのような作品。
 メルツバウの的確な編集センスを堪能できる一枚だ。

<曲目紹介>

1.Music For Funk Arts No.1 (22:51) long version


 全体を通して過激なノイズは控えめ。さまざまな風景が切り替わっていく。
 いくつもの音の断片が、あるときはカットアップで。あるときはクロスフェイドで変化していく。
 
 ここでいうクロスフェイドは手法としてではなく、あくまで例え。
 実際には一瞬の隙を突いて、がらりと音の攻勢を変化させる。
 ごく自然に音像を変化させる、編集のセンスがすばらしい。

 パルス風にメタルが叩かれ跳ね回る後ろで、エレクトロノイズが吼える。
 もちろんメロディらしきものはないが、金属音の音程からミニマルなポップさが生まれている。
 はじめはコケティッシュに。そして数分後で猛烈に暴れ始めるノイズすら、どこまで行っても可愛らしい。

 4分を過ぎる頃で、一度ブレイク。
 回転音らしきノイズを主体とした音像に変化した。
 
 そしてまた、7分くらいで音像が変化。今のメルツバウをほうふつとさせる、神経質な金属音が散発的に炸裂する。
 この不穏な空気がたまらなく好き。
 かなり空白を生かしたアレンジで、迫りくるノイズから受ける切迫感も幾分控えめかな。
 
 「ファンク」と曲名に歌っていても、いわゆる"リズム"は希薄だ。
 ノイズのうねり続く中で、非常に長いスパンのグルーヴを感じさせるくらいか。
 ダンスミュージックとは言いづらいが、メルツバウ一流のセンスから生まれるビート感は、びんびん頭に響く。へたすりゃ、これで踊れるかなぁ。

 さまざまな素材をごちゃまぜにして、一気に最後まで突っ走る。
 メルツバウの先見の明はすごい。今聴いて、古臭さが微塵もないもの。

2.Music For Funk Arts No.2 (22:09) long version

 しょっぱなから豪音で始まった。
 エコーをたっぷり効かせ、そこかしこで鉄柱が足踏みをはじめる。
 超高速に早回しされたテクノを聴いてるみたい。

 ビートが細分化され、短時間に叩き込まれる。
 くるくるくるくるビートがきりもみしながら突っ込んできた。

 こちらは「No.1」とは逆に、ビート感をびんびん感じる。
 もっとも、踊らせることは初めから拒否。
 回転音をさまざまなタイミングでばら撒き、さまざまなテンポの金属音が重なり合う。
 ポリリズムとはちょっと違うけど。多層構造のリズムが快感だ。

 この曲も、兇悪さが少ない。比較的とっつきやすいノイズだ。
 でっかい音で鳴り響くフロアの片隅へ座り込み、ビールとタバコを楽しみながら聴いたら気持ちいいだろうな。

 ありあまるビートのアイディアを楽しんでるだけで、20数分が過ぎ去っていく。ま、決して聴きやすくはないと思うけど。

3.Great Nude Variation No.1 (12:05)

 音像を埋め尽くすハーシュノイズの彼方で、ごっそりとなにかがうごめく。
 牢獄の出入り口一面に張り巡らされた、ハーシュのバリアーを叩き壊そうと、腕や身体をぶち当ててのたうちまわっているのだろうか。
 一瞬、バリアーが途切れて、咆哮が聴こえる。

 じわり、じわり。身体をくねらせながら脱出への挑戦が続けられる。
 バリアーからバチバチ火花が飛び、眩しくて目を明けられない。
 鼓動が鳴る。力を溜めているようだ。
 一声唸りを漏らし、針金製の筋肉を膨らます。
 
 カメラは切り替わり、管制室へ。
 依然として体当たりを続けるさまを、一歩ひいた場所から冷静に見つめる。
 いくつも画面を切り替え、さまざまな角度から牢獄であがくさまをチェック。
 次第に暴れ方は激しくなり、ついに画面はホワイトノイズに包まれた。

 なにかが動き出した。
 腕がひらめき、バリアーの中へ飛び込む。 
 配線が寸断され、ショートしたらしい。身体が障壁を潜り抜けていく。

 とうとう牢獄を抜け出した。滴り落ちるのは血か。

4.Extract 5 (3:40)

 3曲目と同様のハーシュノイズ。
 うねうねと高速で揺らめく奥底で、ほんのりクラシカルなメロディが聴こえる。幻聴だと思うけど。

 唐突に始まったかと思えば、一休み。そして再びノイズが噴出しそうで噴出さない。
 4分弱と短い作品なので、もどかしさが残ってしまう。 

Let`s go to the Cruel World