Review of Merzdiscs  30/50

Crocidura Dsi Nezumi

Composed & performed by MA
MA plays envirromental drums,bowed instruments,paper pipe,plastic,woods,flute,insects,effects etc.
Recorded & mixed at ZSF Pridukt Aug 1987

except 3
MA plays bowed instruments,motor,Noise electronics
Recorded & mixed at ZSF Pridukt Aug 1988

 秋田によるenvirromental drums(「環境ドラム」って訳せばいいのかな)をフィーチャーした作品。
 envirromental drumsとは、ドラムでないものを叩いてパーカッションにすることらしい。
 ライナーによれば床、ガスストーブ、テーブルランプのフレキシブル・チューブなどがドラム代わりに使われたそうだ。

 その他にも、この盤ではさまざまなものが楽器代わりに使われている。
 バイオリンの弓はカセットケースや木の板を引っ掻き、輪ゴムをアコースティックギターの代わり。トイレットペーパーの芯はトランペットとなった。

 本人の弁によれば「アンプラグド・ノイズ」だ。

 曲タイトルはねずみの学名。タイトルの「Crocidura Dsi Nezumi」とは「西日本地ねずみ」のことらしい。
 
 とまあ、ライナーの孫引きをするだけで話題が尽きない盤だけど。
 全般的にサウンド・スケープのような作品。

 サウンド構造はメルツバウ流ながら、素材の音色が優しいため過激さは控えめに聞こえる。
 ゴミ箱王国のオーケストラって感じだ。

<曲目紹介>

1.Mastela Ermina Nippon
(23:00)

 紙を丸めるようなノイズの後ろで、山伏のほら貝風の音が響く。
 その他もろもろ、エコー成分の低いノイズがからころ重なっていく。
 電気ノイズを排除したことで、かなり親しみやすい(もしくは、耳ざわりになりにくい)音像がしょっぱなから産まれる。

 ところが数分程経過すると、破壊音らしきものが前面に登場し、ほんのり不穏な空気が漂い始めた。
 ランダムにさまざまなノイズがパーカッシブに鳴り、音を積み上げていく。
 
 いつのまにか、遠くでバスドラが規則的に踏まれ、音像が脈動を始めた。
 次第にパーカッションが過激になり、引っ掻き音は叫び声に変化。
 だんだんリズムが高まり、うねってきた・・・。

 こんな感じで、高まりと静寂を交互にはさみ展開していく。
 とはいえ構成には、ちゃんと気を使っているみたい。

 譜面があるとは思えない。
 でも気が向くままだらだらノイズを垂れ流さず、メリハリをつけようとしてるようだ。
 もっともメルツバウに爽快感を求めるぼくには、ちょっと退屈な作り。
 
 メルツバウの作品ではなく、クラシックで言う現代音楽の作品として聴けば好作品だと思う。
 さまざまなビートが絡まりあい、複雑なリズムを作り出すさまは、かなり楽しめる。

2.Mustela Sixasa Namiyei (23:50)
〜including:The Revenge of the son of monster magnet

 
 ズシンズシン響く低音が、ファンクな雰囲気を盛り立てる。
 その上で細かなビートが踊りだす。
 いきなりテクノっぽい、いかした演奏だ。

 だけど曲が派手に展開しないのがもどかしい。
 さまざまな曲のマルチからリズムトラックだけを抜き出して、一曲にごちゃっとミックスした感じ。

 ビートはさまざまにうねりを見せてかっこいいのに、曲全体を引っ張るメロディやパワーに欠けている。

 逆に、曲の瞬間瞬間はすごくいかしてる。
 猛烈なタムやボンゴにあおられ、ぐいぐい気持ちが高揚してくる。
 アフリカ風のリズムに影響を受けた音作りかな。

 上物もキイキイ叫んで自己主張するものの、やはりこの曲の主役はリズム。
 ポリリズムで突っ走るワイルドさが耳に残る。

 よく考えると、これはメルツバウの聴き方じゃないなぁ。
 すっかりテクノかファンクの聴き方だ。

 そのくらい、妙なポップさがある。
 この曲がフロアでかかって観客を踊らせたら・・・そんな妄想が頭をよぎる。
 もし実現したら、さぞかし素晴らしいけど異様な光景だろうな〜。

3.Strange Strings (16:16) bouns track

 ボーナストラックとして収録されたこの曲は、すっかりメルツバウ印。
 心なしか録音レベルも、他の曲に比べ高い。
 録音時期やコンセプトも他の曲とちょっと違うような・・・。
 弓を使ったって共通点で、本CDに収録したのかな。

 ちょっと聴いただけでは、電子ノイズを中心にしたサウンド。
 そこにバイオリンの弦で、いろんなものを引っ掻いた素材を重ねたようだ。

 二曲目の雰囲気を引っ張ってか、基調は淡々とした刻み。
 ときおり金属の咆哮が挿入される。
 しかし刻みは爽快感よりも、圧迫感が主眼になった。
 執拗に繰り返されるビートは、有無を言わせぬ迫力がある。

 そのビートはパルスのバックアップも受けて、どんどん音に現実感がなくなってきた。
 この曲ってなんか聞き覚えあると思ったら。
 ぼくが子供のころ熱を出すと、いつも見てた悪夢のBGMにそっくりだ(笑)

 馬鹿でかい鉄球に押しつぶされそうになり、迷路の中を必死で逃げまわる。
 そんな悪夢を、昔はときたま見ていた。
 目覚めると、いつも汗びしょになってたっけ。
 あの切迫した夢に流れてたのは、まさにこの音楽。
 なので個人的には妙に痛痒い感情がある。

 他の人は、この曲を聴いたらどう思うんだろう。
 耳の奥に飛び込んでくるパルスは、しこたま気色悪い。
 あの悪夢も最近見なくなったし・・・この曲をサウンド・トラック代わりにして、じっくり夢の世界を偲ぼうかな(笑)

Let`s go to the Cruel World