Review of Merzdiscs 29/50
Collaborative - Merzbow + S.B.O.T.H.I
ドイツのS.B.O.T.H.I(Swimming Behaviour Of The Human
Infant)とメルツバウのコラボ作品が収録されている。
そもそも秋田が彼らとコンタクトを取ったのは、80年代半ば。
とても短い音色を戦わせる作品スタイルに、秋田は興味を持ったそうだ。
コラボ作品の最初は、当時の新興レーベル「エクストリーム」からリリースされた。
そもそも「メルツボックス」を企画したきっかけは、この作品のリイシュー。
さらにエクストリームの設立10周年記念を祝うためだったとか。
普段S.B.O.T.H.Iがどんなノイズを作っているのか知らない。
でもメルツバウと比較すると、かなりポップな感触がある。
ひたすら兇悪なノイズをばら撒くメルツバウより、色気があるっていえばいいかな。
シンセ(オルガン?)を使ったフリーでメロディアスなプレイが、妙に新鮮に響く。
クレジットを見る限り、全員そろってせーので作らず、それぞれの素材を自由勝手に料理したみたい。
そのため、逆におのおのの個性がくっきり見える。
ノイズを塗りつぶすメルツバウと、隙間を生かしたS.B.O.T.H.Iと。
ふたつのノイズユニットによる、対照の面白さを味わうのに適当な盤かもしれない。
<曲目紹介>
1.Joint (20:51)
Merzbow worked with raw materials submitted by Achim Wollscheid
Recorded at ZSF Produkt on 8 March 1988
複数の機械獣による低音の唸り声でスタート。まさにそんな感じ。
シンセのフリーなプレイが、音像に味付けする。
断続的にノイズはカットされ、パルス的に飛び散った。
S.B.O.T.H.Iらの演奏なのかな。演奏が妙にメロディアスだ。
基本はノイズだけど、そこかしこでフレーズの断片が顔を出す。
比較的安定した音像を破壊するのが、強力な電子ノイズ。
これは間違いなく秋田のプレイだろう。
クレジットから推察すると、S.B.O.T.H.Iが作った素材を秋田がまとめ上げた作品ってことかな。
きいきい軋みながら広がる高音をメインに、どちらかといえば隙間を生かしたアレンジが主導権を持っている。
そこへ唐突に挿入される異物がスリリング。
安定を嫌い、破壊を求めるかのように・・・咆哮する。
曲の前半は、どこか散漫な印象を受けた。
断続的にノイズが続く隙間が、中途半端に聴こえたせいだろう。
メルツバウによる音像を埋め尽くすハーシュ・ノイズを期待したせいかも。
10分程度たってから数分だけ続く音世界が、ぼくがイメージするノイズ。
さまざまな電子音が無秩序に立ち上がり、ノービートでうごめきあう。
個々のノイズはランダムなのに、全体を通して太いグルーヴに包み込まれていく。
メルツバウ単独のノイズほど緊張感はない。
S.B.O.T.H.Iの個性が全面に出ているのかな。
意識して「曲全体にメリハリをつけよう」としたみたいに聴こえる。
がらがらと表情は変化するけど、全体を貫くポリシーを感じにくい。
エンディングは、機械獣が檻にぶち当たる雰囲気で盛り上がっていき、ひょろろろんって鳴る電子音で締める。う〜ん、もうちょい爆発して欲しかった。
2.Code-Gerusch-aggregate (20:12)
Produced by Achim Wollscheid,1988
全面的にS.B.O.T.H.Iが、主導権を握った作品。
ミニマルなタッチで、静かに曲が展開していく。
カットアップを巧みに使いリズミカルに流れていくさまは、けっこうおもしろい。
前曲で聞けた豪音もテープ操作で断続的に登場。
まるで影絵を見てるみたい。
ハーシュ・ノイズを期待するともどかしいが、これはこれであり。
もう、これはS.B.O.T.H.Iの個性だろうな。
不連続性=ノイズって価値観は、ぼく自身は共感しづらい。
とはいえ作品(そう、まさに「作品」って感じがしてしまう)はかすかにビートも感じられ、聴いてて退屈はしない。
途中、数分続く無音部分はいまいちだけど・・・。
やはり聴いててカタルシスに欠けるのが、最大の悩みか。
せっかくノイズを聴いてるからには、ぶぉぉっと爆発したほうが気持ちよくないかな。
はじけそうなところで、むりやり止められるのはもどかしいぞ。
3.Jointed
(7:06)
Mixed by Masami Akita
MA plays tapes,metals,scratch,guitar
Kiyoshi Mizutani plays samples,gutar,balalaika,byan
Recorded at ZSF Produkt(live) on 1 May 1988
さあ、ここからは楽しいぞ。
秋田のミックスによるノイズがばら撒かれる。
素材は秋田と水谷聖が作っており、S.B.O.T.H.Iがどこに協力しているのかよくわからない。
タイトルから強引に想像すると「S.B.O.T.H.Iとコラボが終わり、彼らのカラーを盛り込んだノイズ」ってことかな。
この曲のイメージは前のニ曲を踏まえて聴くと、連続性を感じるから。
埋め尽くすノイズっぷりは、いつものメルツバウ。
でもほんのりカットアップを取り入れたり、メロディアスなシンセ音をぶちまけてみたり。
S.B.O.T.H.Iのノイズに、なんとなく共通性がある。
だけどもちろん、演奏するのはメルツバウ。
高速で奔放でせわしなく続くノイズは、ほかのメルツバウ作品と変わらぬ迫力だ。
さまざまな素材が多重ミックスされ、積み重ねていく頼もしさは何物にも変えがたい。
だけど、あっさり7分で終わってしまうのが物足りない。
この曲こそ、たっぷり20分聴きたかった。