Review of Merzdiscs  27/50

Storage

MA plays bowed instruments with piano wires,percussion,tapes,effects,guitar
Kiyoshi Mizutani submitted some raw material for track 2
Recorded & mixed Feb-Apr 1988 at ZSF Produkt Studio

 ZSFから500枚限定で、1988年に発売されたLP。
 もっともこのCDはLPがマスター音源ではなく、カセットのマスターテープを再構成したうえで再発した。
 (LPはレベル(録音の?)が低く、不満だったとか) 
 
 当時のLPにはなかった曲タイトルを、今回「War Strage」とクレジット。
 秋田が本作を、こう呼んでいたためだ。

 時にスカスカに聴こえる音像だけど、秋田による多重録音だとすれば、めちゃくちゃ手間がかかっているはず。
 こまかなノイズの重なりが、すばらしく美しい。
 丁寧なつくりに、しみじみ感動する一枚。

 全般的に、静かなノイズが多い。
 小さい音で流してると、メタリックな蟲の声を聴いてる気分。

<曲目紹介>

1.War Strage pt.1
(23:02)

 金物をいくつかひっくり返すような音が重なり合い、静かに始まる。
 日常風、ガムラン風、ジャングルのSE風なイメージが瞬間的に浮かび、次の瞬間別のイメージに入れ替わる。

 しばらくすると引っ掻き音、金属製の唸る音が絡み合う。
 その裏で鳴る金物は、あくまでフリーリズム。
 そしてしだいに大きなグルーヴへと変化。
 不穏な雰囲気がじんわり高まる。

 10分くらいのところで音像が寸断。金物を引っ掻く、数本の騒音に切り替わる。
 何本ものノイズはあくまで奔放。てんでに自己のリズムを主張する。

 数分後に再びブレイク。
 パーカッションと引っ掻きノイズの対話へすりかわった。
 無造作に溶け合う二種類の音は、依然としてフリーだ。
 しかし。軽くリバーブのかかった音色でささやかに語り合うさまは、妙にキュートに聴こえる。

 16分くらいで、またもやブレイク。
 唐突にガムラン風のポップなノイズが登場した。
 その上で、数本の引っ掻きノイズが踊りだす。

 曲のオーラスは金属のパーカッション・ソロ。
 手数多いビートを叩き出し、フェイド・アウトしていく。
 
2.War Strage pt.2 (23:48)

 混沌としたノイズが、浮かんでは消えていく。
 つかみ所のない金属音が拡散しそうになりつつも、ギリギリのところで足を踏ん張る。

 7分くらいの所で、カットアウトを多用したミニマル・ノイズに変化する。
 ノーリズムで、さまざまなパーカッションが登場し、いきなり消えていく。
 本人はまったく意識していないだろうけど。灰野敬二のパーカッション・ソロを連想してしまった。
 さまざまな音色が、響きを自己主張しつつ高まっていった。

 洞窟の奥で起こっている何かの動きを掴み取ろうと、そっと耳を澄ましてる感じ。
 静かでリバーヴの効いた音像は、切なくも迫力がある。

3.War Strage pt.3 (21:08)

 空間をかき分けるハムノイズにのって、どんがらがっしゃんと金物が暴れまわる。
 一見、暴力的な舞台なのに。なぜか優しく聴こえる。
 
 一瞬たりとも立ち止まらず、音像は変化していく。
 けれども、ぼんやりサウンドに身を任せていると、ふわんとノイズの湖を漂っている気分にもなれる。
 変化と維持。
 ふたつの相反する要素が、なぜか同居して聴こえる不思議なノイズだ。

 ときおり裏で小さく聴こえる蒸気音風の唸りが、ドローンのようにサウンドの方向性を支える。
 中盤でぐぐっとパルスが膨らみ前面に溢れるが、爆発することなくしぼんでしまった。
 
 力任せに押しきることなく、奥に秘めたパワーで聴かせる1曲。

Let`s go to the Cruel World