Review of Merzdiscs 24/50
Enclosure/Libido Economy
MA plays bowed instruments with piano wires,ring modulator,tapes,feedback
mixer,effects,percussion,turntable
Recorded &mixed in July 1987 at ZSF Produkt Studio
87年にZSFからリリースされたLP「Ecobondage」を録音した後、秋田はすぐに2本のカセットテープ作品を作ったそうだ。
本作はその最初の一本(1〜3曲目まで)。
二本目は本ボックスに収録された「Vratya
Southwards」になった。
どちらも音素材は、「Ecobondage」の音源を使用している。
4曲目以降は、88年から89年にかけて録音された作品。
時代ごとの音変化は、正直感じにくい。一曲一曲が個性をもっていて、ばらばらの感触。
だけど、ふしぎな統一感がある。秋田のノイズ・センスが、首尾一貫しているせいかな。
<曲目紹介>
1.Enclosure
(17:27)
複数のゴングをミックスしたサウンドから始まる。
ノイズは次第に変容し、大きな鋸を引くような鈍い音へ。
手触りはあくまで、鷹揚としている。
ずしんとしたエコー感を含み、ゆったりと広がっていく。
奥へ奥へ、とノイズはのたくりながら進む。
8分あたりで一度、音が途切れる。
そしてむっくり身を起こし、ぼわんと響く鐘の音をバックに、再び動きだしていった。
エンディング間近になると、金属製の鳥たちが口々に鳴き、にぎやかに盛り上がる。
とはいえ、どこか煮え切らなさが残るノイズだけれども。
2.Scarabe (5:33)
インディアン風ドラミングのバックで、薄くノイズが幕を広げる。
このドラムは打ち込みじゃなく、自分で叩いているはず。
人間っぽさがいっぱい残ったリズムだ。
アクセントに鳴るのは、ちょっとした金物を叩く音や電子音程度かな。
ドラミングはだんだん熱っぽくなっていくけれど、曲調は実に穏やかだ。
さりげなく肉体的なビートを強調した小品。
終盤になって、いきなり金属ノイズが自己主張する。
空間を切り裂きドラムを押しのけ、ゆっくりと宙に上っていって曲は幕を下ろす。
3.Interline no.1-3
(18:10)
さまざまな音色で、キイキイいう音がいくつもミックスされている。
基本的には金属ノイズ。
耳の奥を引っ掻く刺激音が多様に重ねられ、どかんと弾ける。
メルツバウにしてはおとなしめの音色ながら、複雑な展開が飽きさせない。
さらっと聞き流すこともできるし、じっくり腰を据えると多彩なアイディアを実感できる。
あっさりしているようで、かなり深い作品だ。
4.Itch (5:39)
勢いよくはじけるノイズが心地よい。
低音の連打が、ジャーマンテクノ風のビートを提示する。
さまざまな太さの針金同士が、ぶるんぶるん震えながら絡み付いていくようだ。
サンプリングしているような箇所もあり(当時はテープループかな)。
くっきりとしたリズムで、ダンスミュージックに聴こえたりもした。
これを聴きながら踊る人は、めったにいないだろうけど。
5.Libido Economy No.1
(5:39)
冒頭から、発信音が弾けとぶ。
ハムノイズ風の電子サウンドとミックスされ、さらにエフェクターで変調された声がかぶさっていく。
パワフルな聴感だけど、多層的にけいれんするノイズには繊細さも感じるなあ。
5分足らずで終わってしまうのがもったいない。
ひとときも休まずに音の表情を変えていく、メルツバウの本領を発揮した作品。
6.Libido Economy No.2
(5:32)
前曲から、ほぼ曲間なしでなだれ込む。
最初は高音のみを強調した神経質な騒音。
そこに、カットアップ的に低音のドボヂヂ・ノイズを挿入する。
(5)に比べると、おだやかなつくりだ。
あくまで、比較だけど。もし単独でこの曲を聴いたら、かなりにぎやか・・・っていうか、やかましいノイズだろう。
無音部分はない曲作りだけど、メルツバウにしては隙間を生かしたアレンジに聴こえる。
ドローン的にハムノイズが響く部分は、一息ついてるかのようだ。