Review of Merzdiscs  18/50

Pornoise/1kg Vol.1

Composed&performed by Masami Akita
MA plays distorted Sony 464,feedback mixer,radio,lop tapes,Synare 3,rhythm box,ring modulator,devices
tracks 2-4 used taped typesetting machine Noise and taped synthesizer by Kiyoshi Mizutani with distorted process
Recorded & mixed at ZSF Produkt Studio,Asagaya Dec 1984

 オリジナル・リリースは、カセット5本組の形式で発表された。
 当初はメール・アートとして作り上げられたそう。
 その小包の中には、カセットのほかに日本のポルノからコピーしたものや、ポルノに関係する雑多なゴミが詰め込まれたらしい。
 タイトルの「1Kg」は、これらの「作品」がパッケージされた荷物の重さを表した。

 テープ・ループをあちこちに使っているが、本作ではメルツバウのサウンドは、電子ノイズがメインになっている。
 様々な電子音を複雑にミックスして作り上げる、分厚いノイズの板は快感だ。
 
 おそらくほとんどの人にとって、本作品は単純な騒音でしかない。
 だけどこのサウンドにいったん夢中になると、がらりと価値観がかわる。
 一時も耳を話せない珠玉のノイズがつまっていることに気づくはず。

 メルツバウの個性に触れるには、本盤はいいアルバムかもしれないな。
 案外聴きやすいかも。
 基調はノーリズムによる、電子ノイズの集合体。
 だけどところどころのテープ・ループがいいアクセントになって、聴き手にポップさを感じさせる部分だってあるから。
 ・・・いや、そりゃ全体のごくわずかな部分のみ、だけどさ。

<曲目紹介>

1.Industrial
(3:32)

 オッサンの声を加工した音色が、もごもごと声を漏らす。
 バックに流れるノイズは、テープエコーを中心とした破壊音のようなけたたましいもの。
 もちろんそれぞれの音色はさまざまに細かく重ねあわせ、重層的なノイズ空間を作り出している。
 
 個々のノイズはどんどん複雑になり、音像はダンゴのように丸まっていく。
 とはいえ細かい音の動きは、かろうじて聞き分けられる。
 ノイズ同士が手をつなぎ、テンションを上げて・・・フェイドアウトしてしまう。
 残念。このまま登りつめて欲しかったな。

2.Loop Fuck 1 (6:12)

 タイトルで期待させるが、単純にパルスノイズやホワイトノイズを積みあげた轟音ノイズだ。
 色気は皆無。冷徹なノイズをよじった音は、ストイックに響く。
 時になめらかに。時に乱暴に。
 ノイズは時間をかけて、ゆっくりスピーカーを愛撫する。
 そして、すみやかにフェイドアウトで消えていった。  

3.Loop Fuck 2 (5:39)

 しょっぱなから前曲のテンションを引き続いたノイズが、どたばた暴れる。
 この曲では断続的に、女性の喘ぎ声がサンプリングで挿入された。
 とはいえ、色っぽさを期待してはだめ。
 ノイズの好きな人なら、こういった音の流れそのものに快感を感じられるだろう。
 だけどノイズを楽しむ耳を持ち合わせていない人には・・・まさに騒音でしかない。
 
 この曲では、ノイズは一歩たりとも立ち止まらない。
 形を変え表情を変え。見る見るうちに変化していく。
 アイディア溢れる動きそのものが、すばらしい。
 5分くらいで終わってしまわず、延々と聴いていたいな。

4.Obituary 1 (5:15)

 今度はテープ・ループが基調。
 しゃくりあげる声を加工して、かろやかにリピートさせる。
 もちろん周辺は、吹き上げるノイズできらびやかに飾り立てた。
 直径300メートルの噴水の真中で、ずぶぬれになりながら楽しんでるような気分になる曲。

5.Obituary 2 (7:12)

 テンションは前曲と似ているが、ループがなくて小節感が希薄なので、さらに自由度は増している。
 微妙にビートこそあれ、基本的にはノイズがしなやかに変化する。
 そこに小節や楽譜の約束事は感じにくくて、かっこいい。
 あくまでメルツバウの好きなように、音色たちは形を変えていった。

 中盤で挿入されるキーボード(シンセかな?)のフリーな演奏がおちゃめ。
 ゴウゴウと唸りを上げるノイズのどまん中で、ふっくらとした手触りのきれいな音が、こんなにユーモラスに響くとは。
 キーボードのソロはノイズに翻弄されても、流されずにしっかり自己主張していた。

6.Night Noise White (31:24)

 まずはラジオからサンプリングした英語を、無造作にループさせてみる。
 二分あまりの淡々とした反復で、このサンプルに耳が馴染んでしまった頃、さりげなく電子ノイズがドボヂヂヂと滑り込んできた。
 ノイズはああっというまに膨れ上がり、数分後には轟音でわめく。

 そのまま混沌とした雰囲気で、風景は沈み込んでいった。
 「メルツバウの海中探検の巻」ってところかな。
 ごぼごぼ周りの空気を鳴らしながら、ノイズの海の底を動いていく。
 周りではみるみる音像が変わってしまう。
 窓から見える景色は同じように見えて、次の瞬間ではまったくちがう。

 ときおり、ふわっとノイズの魚が泳いでいく。
 ある時には電気ノイズの渦が自分を振り回し、包み込まれる。
 
 30分の長丁場を支配するのは、エレクトリックなパルス音が多い。
 ビートを感じさせる暇もなく、せわしなく空間を叩いていった。
 緊張感はあまりない。ゆったりとしたペースで進んでいく。

 このノリに身を任せていると、あっというまに30分がたってしまう。
 エンディングは唐突にカットアウトし、現実世界に投げ出されるぞ。

(00/11/23記)

Let`s go to the Cruel World