Review of Merzdiscs  17/50

Agni Hotra

MA plays distorted tape loops,metals,recorder,tape reel,percussion,shakujo,bells,NOise etc.
Recorded and mixed at ZSF Produkt,Asagaya.in 1984-85

 もともとは、メルツバウがスウェーデンのPsychoutレーベル(のちのMultimood)のために「Agni Hotra」のタイトルで作った作品。
 作品は現地に送ったが、リリースされなかったそうだ。
 もし発表されていたら、メルツバウの2ndLPになっていたとのこと。
 したがって、この音源は今まで未発表。今回のMerzboxリリースが初公開になる。

 本CDはその「Agni Hotra」に、アメリカのCause&Effectレーベルより85年にリリースされたカセット作品「Ushi-tra」をカップリングしたもの。

 (1)〜(4)がオリジナルの「Agni Hotra」のマスター。
 (5)が「Agni Hotra」のセカンド・マスターで、(6)と(7)は「Ushi-tra」に収録された音源だ。
 こうしてみると「Ushi-tra」は、かなり短い作品だったみたいだなあ。
 なお、(6)は当時発表されたものとは、別ミックスだそう。凝ってるなあ。
 
 サウンドの中心はテープ・ループ。いまならサンプリングで容易に出来ることなんだろうけど。
 規則正しいテクノ風な手法をもちいて、この作品ではにぎやかなノイズが跳ね回っている。
 CDとしての一貫性をレコーディング手法で統一して、それぞれの曲どうしの共通点はぴんと来ない。
 カラフルな作品をあれこれ詰め込んだ、オムニバス作品のような感触だ。

<曲目紹介>

1.Agni Hotra
(18:26)

 繰り返し繰り返し、工場の中にいるようなゴトゴト言うノイズが流される。
 サンプリング音をひたすら反復する、ミニマルな作品。
 いまなら簡単に出来るテクニックだろうけど、当時はぜんぶテープ操作でつくったんだろうなあ。
 
 単に一つの音素材をテープ・ループだけにせず、途中から爆発音のようなサウンドを、やはりテープ・ループで重ねる。
 テープ・ループだから、これらのノイズのリズムが有機的に変化したりすることはない。
 とはいえ重なり合う音に耳をずっと傾けていると、不思議に音が混ざりあって、ひとつの大きなノリを作り出しているように感じてしまう。

2.Asagaya in Rain (3:51)

 エコーを響かせ、金属音がゆったりとうねる。
 タイトルどおり雨音をミックスしているが、思い切り音が加工されているので、聴いたときの印象は一筋縄では行かない。
 さしずめこの曲は、どこか別の星の雨が降ってる日の異世界でまわしたテープってところかな。

 ある瞬間のサウンドと雰囲気・・・写真をノイズで現像したかのようだ。
 たぶん原音は雨の日の街中の、交差点でのノイズを拾ってきて、さまざまなゲート加工やエコー処理をしたんじゃないかな。
 ふあふあゆれる音が、ファンタスティックに響く、キュートな曲。

3.Swamp Metal (6:29)

 サイレンのようにGとFの音が不安げに繰り替される。
 このノイズをバックに、轟音が荒れ狂う。
 論理も必然性もない。
 めちゃくちゃなサウンドがあっけらかんと提示され、楽しげに暴れていく。

 こんないらつくノイズを聴いているのに、なぜこんなに気持ちいいんだろう。
 (1)とは違ったテンションでもって、反復による中毒性を感じる曲。
 でかい音で聴いていると、音に酔ってくる。
 ぼおっとした酩酊気分が、なんとも麻薬的だ・・・中毒にならなきゃいいけど(笑)

 エンディングで唐突に現れるノイズが、取ってつけたよう。
 なんであの音を盛り込んだんだろうな。

4.Loops in Flames (12:30)

 タイトルの通り、いくつかのノイズを多層的にテープ・ループさせた曲。
 それぞれの音は微妙にずれて、複雑な音色を楽しませる。
 ただ、音の重ね方は前曲などにくらべると、かなりうすっぺらいのが残念。
 そのせいかな・・・酩酊感は控えめ。

 12分の間に、さまざまな素材がループされては消えていく。
 ミックスは薄いとはいえ、そこはメルツバウ。
 重なり合う音色に漂っていて、楽しめるのは間違いない。

 エンディングまじかで流れる、重量感ある音が面白い。
 怪獣映画からでもサンプリングしたんだろうか。
 
5.Arbertus MaGnus (7:14)

 なにかの演説の音をサンプリングした、テープ・ループで幕を開ける。
 この曲の主ノイズは、いびきのように唸りを上げる音色だ。
 けたたましくバックで様々な音が騒ぎ立てる。
 その中央で、悠然と太いノイズが定期的に膨れ上がっては消えていく。
 このいびきをかいているマシーンは、そう簡単に目覚めそうにない。

 周辺のノイズは拡散したまま暴れていく。
 後半部では蝉時雨のようなヒスノイズが空間を埋め尽くし、とんでもなくここちよい。

 予断だが、虫の声を「風流」と感じるのは日本人だけ。
 他の文化の人間は「騒音」に聴こえてしまうとか。
 となると、この作品はまさに日本人にしかわからないノイズかもなあ。

6.Kunyan (7:52)

 せわしない断続的な電子音が、エコーを響かせながらぴょんぴょん飛び跳ねる。
 ノイズはするりとテープ・ループにかわっていった。
 執拗に繰り返されるノイズは、何かの歌が入ったテープを、力任せに引きちぎった瞬間の断片みたいだ。
 全体的には・・・残念ながらちょっと単調かな。

 後半部分でひゅーひゅー言う音色は、怪談のBGMを思い出す。
 執拗さを前面に出した構成は、苛立ちを表しているのかも。
 作り手の苛立ちか。それとも聴き手へ苛立ちを強いるのか。いったいどっちだろう。

7.Untitled Waves (6:45)

 最後に控えたノイズは、ぶっとい太さでたゆたう音色だ。
 大きなうねりをもって、ダイナミズムのふり幅大きくスピーカーを唸らせる。
 それほどの音像変化を見せず、エンディングまでひたすら淡々と進んでいく。
 ぼおっと聴いていると、眠くなっちゃった(苦笑)
 そしてノイズは何の前触れもなく、すぱっと幕が下ろされる。

(00/11/23記)

Let`s go to the Cruel World