Review of Merzdiscs 14/50
Mechanization Takes Command
Composed&performed by Masami Akita
MA plays Pearl drum kit,various percussion,tapes,TV,Synare3,voice,tabla,Dr.Rhythm,ring
modulator,guitar,feedback,synthsizer,recorder,scrap metals,devices,
Recorded at original Merz-Bau studio,Machida & ZSF Produkt
Studio,Asagaya 1982-1983
この作品から、秋田の個人レーベルの名称が変化したそうだ。
ここまでは「Merzbow Lowest Music & Arts」。
そしてここから、現在まで続く「ZSF Produkt」へ。
秋田の個人作品以外のものもリリースしたくなったのが発端。そのため、レーベル名を汎用的なものにしたそうだ。
もっともどのくらい他の人の作品を、リリースしているんだろう。
そのへん、残念ながら僕はよく知らない。詳しい方がおられたら、ぜひご教示をお願いいたします。
なお、これらの作品で使われているシンセ・ドラムの「Synare-3」は、雑誌の「売ります」コーナーで購入したらしい。
誰が売ったかは知らないが、ここまでメルツバウの音楽に貢献できたんだ。力いっぱい誇っていいと思う。
ちなみにこの「Synare-3」は、最後には90年以降のライブ中に、BARA(パフォーマー)によってぶち壊されたとか。
録音は町田の「メルツバウ・スタジオ」と阿佐ヶ谷の「ZSFスタジオ」にて。
阿佐ヶ谷の方はたぶん秋田の自宅だろうけど・・・。
町田の方はどんなスタジオなんだろう。謎だ。
肝心の音のほうは、バラエティに飛んだつくりになっている。
テクノ風のビートを効かせた曲から、暴力的なノイズを充満させた音まで。
さまざまなメルツバウの要素をまとめたショーケースであるとともに、どの曲もテンション高く暴れまわっているので、とてもたのしい。
前作でなくこっちの作品こそ、LP化して多くの人に聴いてもらえばよかったのになあ、っていまさらながらに思う。
<曲目紹介>
1.Electric Pygmy Decollage
(14:12)
ギターの音と、ドラムの音をベースとして、テレビの声などが挿入される。
ビートはあるにはあるが、どんどん加速されて緊迫感を盛り上げる。
ギターはメロディなんか何にも弾いてないのに、とてもロック風の勇ましさを感じられる。
感触はワイルドで楽しい。混沌としたノイズは、聴いていてわくわくする。
ちなみにこのテレビの声、以前に他の作品でも使われた素材じゃないかな。
「じゃあ、帰って髪でも洗うわ」とか「なにすんのよ」って日本語が、聞き覚えのあるイントネーションで飛び出してくる。
そんなノイズが、親しみを込めて耳に残っている。
それにしてもこういった喋りって、どのドラマから取ったんだろう。
・・・もんのすごく古臭く感じる(笑)
エンディングは、英語の会話を軽く挿入し、さくっとカットアウトする、さわやかな終わりかた。
2.Mechanization takes Command
(11:01)
どたばたした印象が、まず残る。
アコギのほかに、列車のようにごとごと唸る電子ノイズ、それに発振音が数種類。さらにギターノイズもかぶさってくる。
この曲では、継続性を意識的に回避しているようだ。
カットインによる音の変化をそこここに織り込み、聴き手に意外性をつねに与えるようにしている。
すぐさま終わってしまうのがもったいない。もっともっと、このノイズを聴いていたいな。
この作品は、当初はカセットでリリースされた。
時間制限がそれほどうるさいわけじゃなし、好き勝手に音を垂れ流すことだって自由自在のはず。
なのに、こうして比較的コンパクトに納めるあたり、秋田のいさぎよさを実感する。
3.Peaches Red Indian
(10:46)
テンポいいビートにのって、いくつかのノイズが踊ってみせる。
インダストリアル・テクノとしても、飛び切りの出来だと思う。
最後までテンポが変わらないので、家で聞いていると退屈になってくるのは否めない。
とはいえ、これってライブハウスなんかで、爆音にして聴いてたら楽しいんだろうなあ。
・・・家で聴いていると、どうもそこまでボリュームを上げられない(笑)
4.Sahara (5:44)
タイトルはサハラ砂漠のイメージなのだろうか。
音を聴いている限り、そんな光景も耳に浮かんでくる。
ハムノイズを小さな音でドローンにして、ゆったりめのタイミングで重たいノイズが時を刻む。
あとは高音のノイズがいくつも絡み合って、スピーカーを埋め尽くす。
メルツバウの音は、時に風景を感じさせる。
根本的にはノイズの集合体なので、あからさまにその風景が伝わってくるわけじゃない。
あくまで僕が、音からそんな雰囲気を思い起こしてるだけ。
だから、「耳に浮かぶ」って表現を使いたくなる。
スピーカーからこぼれる音が耳に流れ込み、ふっとある景色が浮かびあがってくるから。
秋田はこういう聴き方はどう思うんだろう。
「意味を感じるな。とにかく、ノイズを味わえ」って言うのかなあ。
5.Iggy (3:15)
タイトルから真っ先に思い出すのはイギー・ポップ。ただ、僕は彼の音楽を聴いたことがない(苦笑)
とにかくこの曲はポップだ。
けたたましいビートは、ファンキーな感触すらある。
(3)と同様に、BPMもリズムパターンも変わらないから、延々と聴いていたら飽きるだろうけど。
3分強と短い時間だけに、物足りなさと同時に終わってしまうところがいい。
飢餓感を残すくらいが、ちょうどいいのかも。もう一度聴き返したくなるしね。
この曲、短い上にポップなビートなので、つい「シングルカットしたら面白いだろうな」って妄想が頭に浮かぶ。
こういう曲がオリコンで大ヒットして、巷に流れまくったら・・・悪夢のような世界だろうけど、それはそれでおっもしろい街になるだろうなあ。
6.Suicidal Machine
(14:17)
基本的にはビートがあるようだ。ただ、それほどリズムを感じさせないのは、前面に出てきた電子ノイズの自己主張が激しいからかな。
吹き荒れるハーシュ・ノイズは、形を変えて膨らんでくる。
今のメルツバウにつながる方向性を見せた曲だ。
耳に浮かんでくるのは、台風みたいな音の嵐。・・・陳腐なイメージしか浮かばないや。
問答無用で飛び回るメルツバウのノイズに翻弄されるのが、いちばん楽な聴き方だ。
僕が好きなメルツバウは、まさにこの音。
文章表現がものすごく難しい電子ノイズが飛び交い、絡み合っては消えていく。
そんな音の流れに身を任せているのが、とてつもなく快感だ。
普段の僕は、メルツバウはBGMに使っている。こんな自己主張の強い音楽だからこそ、僕はBGMに使いたい。
単に耳障りがいいだけで個性がない音楽は、聴いていても印象に残らないもん。
それにしても、この曲は聴いていて妙な安心感がある。なんでだろう。
あんまりひやひやしないんだよね。不思議だ・・・。
7.Ai-Da-Ho (10:19)
音の感触は(6)と似ている。ただ、こちらの方は、もう少しスペイシー。
耳なじみのいい音をいくつか取り混ぜて、多少穏やかな感じだ。
ウイウイッと唸る音は、全体の音の感触を和らげて、ユニークさをかもしだす。
(6)を聞いた後だと、かなりおとなしめ。
(6)が急流だとしたら、こっちは穏やかな流れ・・・ってところかな。
重心の位置をさらりと変え、体が浮かび上がってる気になってくる。
とはいえ聴き所を探していて、あっという間に終わってしまうところあり。
いまいち物足りないぞ。くう。
(11/12記)