Review of Merzdiscs  10/50

Solonoise

Composed&Mixed by Masami Akita
MA plays electronicw,ring modulator,violin,voice,treated tapes,acoustic guitar,Nil Vaginia Tape loop,treated percussion Synare 3,TV,styrofoam
Kiyoshi Mizutani plays violin and electric piano on track 1
Recorded&Mixed at Lowest Music&Arts,1982
Mixed at Junktion Music Works,1981

「Solonoise」は当初、Geroge Batailleの小説「Anal Sun」にインスピレーションを受けた「Solar-Noise」がコンセプトだったとか。
 Solonoise名義では、「1」と「2」の二作が過去に作られている。
 本CDに収録されているのは、(1)と(2)が「1」から。(3)が「2」から選曲されている。

 音源は「Nil VAgina Tape Loops」(本BOX12枚目に収録)のためにとられたテープを使用しているそうだ。
 そしてミックスは、水谷が演奏するヴァイオリンやエレクトリック・ピアノの即興演奏と同時に行われている。
 そんなライブ感覚を見事に盛り込んだ快作。
 ノイズが荒れ狂うメルツバウの魅力がたっぷりつまっている。

<曲目紹介>

1.Solonoise Pt.1 (23:55)

 これこれ!この聴いていて不安になってくる緊張感こそが、メルツバウのいいところ。
 さまざまな金属ノイズが破裂する。ヴァイオリンやギターの音も混じってくるが、音楽を感じさせる隙はかけらも見せない。
 あらゆる音が騒音の一部として、油断なくミックスされている。

 最初から最後まで、とくに構成的な盛り上がりは感じられない。
 ある瞬間に唐突に新しいノイズが現れ、すぐさま変化していく。

 洗面器に水を張り、一滴の墨汁をぽとりと落とす。
 その黒い異物は、ひとときも休むことなく形を変え、透明な水と混ざり合っていく。
 この作品で聴けるノイズを文章で表現しようとして、僕が思いついたのはそんなイメージ。

 あ、でも秋田が提示する音色は、さらに乱暴だなあ。煮えたぎる溶岩の中に、金属の塊をぶち込んで、溶けていくさま・・・ってほうがぴったりかもしれない。

 めまぐるしく雰囲気を切り替えて、退屈する暇なんかない。
 今聴いても、とてもとても刺激的な作品。

2.Solonoise Pt.2 (23:42)

 基本的な音のトーンは(1)と同様。
 ただ、テープを早回ししたような音色を多用しているので、軽やかでポップな印象がある。
 せわしなく転がりまわるノイズは、ときにユーモラスだ。

 7分前後では、エレキギターとノイズが互いに攻撃しあう。
 音色を緩ませ、三味線のようにほややんとした音なのに、スピーカーを埋め尽くすハーシュ・ノイズと五分に渡り合っている。

 もう一つ印象に残ったのは16分あたり。低音で静かにメロディを奏でる瞬間が、ぞくっとするほどかっこよかった。
 
 とはいえ、こういうサウンドは、ごちゃごちゃ深く考えないほうが気持ちいい。
 肝心なのはとっかかり。
 ある瞬間に、自分の耳をメルツバウの感覚にシンクロさせる。

 それができたら、あとはただ音の奔流に耳をゆだねればいい。
 メルツバウによる騒音官能美の世界へ、ぐいぐいと力技で引きずりこまれる。

3.Solonoise Pt.3 (22:21)

 しょっぱなから、アフリカ風のリズムボックスによるビートに乗って、ひしゃげたノイズが駆けだす。
 ポリリズムで繰り出されるビートは、脳みそをかろやかにかき混ぜる。

 数分後にカットアップで現れたのは、ラジオノイズ風の甲高い騒音だ。
 ブルブル震える音色の手触りは、不思議と柔らかい。
 歯医者の治療具みたいに、騒音がどんどん上に素早く駆け上っていくのに、その印象は不思議と変わらない。

 音は次々に変容していく。
 基本として鳴っているのは、金属ノイズ。
 あるときは暴力的に、あるときはコミカルに。
 鳴らす楽器を持ち替えては、さまざまな音色を提示する。

 もう一つのポイントは、秋田のミックスにおけるセンス。
 秋田はつねに一つのノイズに、さらにノイズをかぶせる。
 音色の魅力に取り付かれて、単なるノイズを垂れ流したりはしない。
 
 いつも一歩ひいて冷静になり、今この瞬間に鳴っている音に新しい要素を付け加える。
 そんな秋田の視点の高さが、ありありと伝わってくる。

 この曲では、かなりカットアップを何度か使用している。
 ノイズの表現テクニックとしてのカットアップじゃない。
 音色の編集テクニックとして、カットアップを使ってるって意味だ。

 延々とあるノイズが鳴りつづき、聴いていて気持ちよくなった瞬間に、すぱっと秋田は音色を切り替えてしまう。
 新しい音色が現れるたびに「どきっ」と刺激を感じてしまうのは僕だけかな。

(00/11/3記)

Let`s go to the Cruel World