今お気に入りのCD(番外編)

CDじゃないけれど、見に行ったライブの感想です。

1999/12/28 渋谷 ラ・ママ
 「摩崖仏プレゼンツ・変拍子で踊ろう vol.7」

 出演:ルインズ・是巨人・高円寺百景

 素晴らしい夜だった。
 「変拍子で踊ろう vol.7」と銘打って、吉田達也(dr)が率いる3つのバンドの演奏を一度に楽しむ趣向の、豪華な企画だ。
 この欄で何度も吉田達也関連のCDを紹介しているように、吉田が作る音楽が大好きなぼくは、休暇をとっていそいそとラ・ママへ向かった。
 やはり予想通り大勢の人。数日前にコブラを聞きにラ・ママへ行った時に、開演前の待ち時間の間、寒さに思い切り悩まされたので開場時間ぎりぎりに到着した。ところがすでに開場が始まっているというのに30人程度が並んでいた。
 開演してからもつぎつぎ観客が入ってくる。最終的には全体で250人くらいはいたのだろうか。超満員とは言わないまでも、満員とは十分にいえる盛況だ。
 受付では恒例の物販。CDがほぼすべて千円だ。安い。しかしすべて持っている。くやしい。僕が散々探して、新宿の小さなレコード屋で見つけた「メインライナー」のCDまであるよ。あああ。こういうパターンが一番悔しいな。

 さて、最初にぼくが並んでいる時は席の確保が心配だった。ラ・ママは観客席中央にぶっとい柱があるので、見づらいポイントしか取れないかなと心配したのだ。中に入ってうろうろすることしばし。無事に前4列目くらいの椅子席を確保。オールスタンディングじゃなくて、体力のない僕はほっとした。
 ぼくの席はステージ右側に位置していて、普段はタムに隠れて見えないドラムの手さばきが見える位置だ。偶然とはいえラッキー。

 Ruins(7:10〜7:40)
 
 さて、開演時間を10分程度押して登場したのが、まずルインズ。これは意外だった。吉田達也のメイン・バンドだから、てっきり大トリに出てくるのかとおもっていたから。
 観客席からは、なぜか彼らが出てきても拍手のひとつもなし。こういうものなんだろうか。
 本日はゲストに菊地成孔(as)を迎えている。もっとも彼の紹介すらせずに、いきなり演奏が始まったが。
 今日のルインズの演奏は非常にストイックだと思った。
 佐々木(b)も過去に何度か見たときほど暴れずに、淡々とベースを弾く。菊地は楽譜を見て、無造作に演奏を続ける。吉田も手数はいつも通り多いが、冷静なイメージだった。このあとの演奏を控え、抑えているのかな?
 吉田のdrの音はカンカン響く硬いチューニング。今回はPAの音量が低い気がして、個人的にはうれしかった。ドラムやベースの細かい音まで聞き取れたから。

 曲は多分5曲くらいをメドレー形式。佐々木のベースは、時にギターのようにメロディアスにフレーズを奏でる。変幻自在のベースを聞きながら、改めて佐々木の確かなテクニックを実感した。
 菊地のサックスははじめて聞くが、しっかりとした音色で安定した演奏だ。そして吉田のドラム。激しく複雑なリズムを叩くのが、いつも通りの事ながら実にかっこいい。ある意味今日一番吉田のドラムを楽しめるのが、このバンドかもしれない。ぼくの席はドラムの手さばきがよく見えるので、しばしば吉田の手元に見入ってしまった。
 この時ぼくは、開演前に飲んだビールがまわってきて、実にいい気持ち。
 夢心地で吉田のドラムに乗っかって、ぼおっとしながら演奏を楽しんでいた。
 この演奏だけで、今日きた甲斐があるというもの。

 是巨人(8:50〜9:40)

 お次は是巨人。ぼくがこの欄で初CDを紹介したバンドだ。ライブをみるのは初めて。それにしても、今日はなぜかこのバンドのステージでアクシデントが多かった。
 まずルインズの終演後5分くらいすると、ふらっと鬼怒無月(g)がステージに登場。ギターをいじり始める。あっさり演奏をはじめるのかと思うと、どうやら他の二人がどこかに行ってしまってる様子。鬼怒はアコギでピンク・フロイドの「wish you were here」(かな?)を、BGMにあわせて遊び弾きしていたが、他の二人が登場しないのに痺れを切らしたのか、一度楽屋へ引っ込んだ。
 数分後に吉田と鬼怒が登場。でもナスノミツル(b)が行方不明のまま。時間調整か5分程度の即興演奏をふたりではじめた。これが思わぬプレゼント。吉田がキーボード・パットでパーカッションを叩き、アコギで鬼怒があわせる。拍手やホイッスルのような硬い音を使った、たたみ込む鋭角的なリズムとやさしく早いフレーズを奏でるギターのデュエットがきれいだった。

 さて、いよいよナスノが登場し演奏開始。こちらはルインズのようなメドレー形式ではなく、一曲毎にしっかり終わらせて曲間をあけていた。「on reflection」、「four holes in the sky」、「careless heart」などファーストアルバムの曲をつぎつぎパワフルに演奏する。今回は鬼怒が譜面を見ながら弾いているせいか、明るい照明を中心とした色作りのさわやかささえ漂うステージだった。
 ルインズを聞いた後で続けて聞くと、是巨人では吉田の役割がルインズとくっきり違うことに初めて気づく。吉田はリズムをキープする役割をしばしば引き受けている。前回CDを聞いてた時は、つい僕はルインズとの共通点を探す聞き方をしてしまっていたが、二つのバンドの音楽的相違点を、いまさらながら感じて楽しかった。まあ、本当にいまさらだが。
 このバンドはメロディがきれいで、聞いていて楽しくてしょうがない。今日のテーマでもある変拍子を使ってはいるんだろうけど。そんなことはあんまり意識しないで、いつのまにかリズムを身体でとりながら聞いていた。

 ステージは中盤で吉田がキーボードに、鬼怒がアコギにチェンジ。ステージの冒頭にちょっとやった構成に加え、ナスノがベースとハイハット・バスドラを担当し、即興演奏が始まった。吉田はダンドゥット・ボンゴのような音を中心に演奏する。指先を使ったパッドなのに、ドラムそのままの手数の多い激しいリズムなのが、一貫性があって実にすがすがしい。終わり際に鬼怒がこぼれて「あれ?」てな感じで演奏が終わったのがおかしかった。
 この即興は数分程度で終わる。鬼怒は再びエレキ・ギターに持ち替えたが、途中で熱演のあまり弦が切れ、交換タイム。その間に再び即興演奏。こんどはナスノがエフェクターのかかりまくったベースをひき、一方で吉田は激しくドラムを叩く。ほどなく弦交換が終わり、そのママ曲演奏になだれ込むところがかっこよい。夢中になって演奏を聞いていた。
 最後にぼくが大好きな曲「poet and peasant」を演奏して、ステージが終わり。いやー。すばらしい。

 高円寺百景(9:55〜10:45)

 大トリは高円寺百景だ。なんでも3年ぶりのステージだそう。ぼくは今回見るのが初めて。voにゲストとしてさがゆきが登場していた。
 ここまでぼくは大ボケをかましていた。彼らがステージに登場するまで「高円寺百景」を「大陸男VS山脈女」(このバンドでは、吉田はbを担当)と勘違いしていたのだ。
「最後のバンドで吉田がベースか。やっぱり3バンド掛け持ちで、あの激しいリズムを叩くのはきついんだろうなあ」とか考えていたけれど。ステージにあがったメンバーを見て「あれ?なんでベースがいるんだ?ツインベース?」と一瞬悩んでやっと思い出し、苦笑してしまった。

 さて、ステージには最後に吉田が登場し、いよいよ演奏が始まった。まずは新曲を4曲。しかし、この音の大きさには往生した。今日の3バンドを聞いていて、しり上がりに音量がでかくなっていった気がする。最初の一音をバンドが炸裂させた途端、すぐ横のスピーカーから鼓膜に音が飛び込んできて、頭が一瞬「すびゅっ」と揺れた。
 その後もヴォーカルがシャウトするたびに、鼓膜がビンビン揺れているのを実感する。そのわりに身体には低音がそれほど響いてこない。前の観客に吸収されてるのかな。いや、別に楽しいからいいんだけどね。ただ、CD中心に音楽を聞いてるぼくとしては、もう少し細かいフレーズを楽しみたかったな、と。ライブハウスの音響特性もあるんだろうけどね。
 耳をふさいでみると、細かい音使いがよくわかる。もっとも、いつまでも耳をふさいでるわけには行かないので(はたから見たら、あまりにも失礼だもんな)、すぐにやめたが。
 今日の3バンドの中で高円寺百景が一番、吉田がリズム・キープにまわってるような気がした。普段のリード・ドラムでなく。このバンドの魅力は、バンド全体が複雑なリフを自由自在に変化させていく、多彩なテクニック。時にはユニゾンで、時にはアンサンブルで音楽の景色を変えていく。破壊的な迫力と疾走感がたまらない。

 新曲4曲につづいて、過去の曲を「quidom」「avedomma」など3曲。MCのあとに「rissenddo rraimb」をぶちかまして圧倒的なステージが終わった。
 さらにアンコールが一曲。「sunna zarioki」で激しい演奏を聞かせる。さがゆきが身体を折り曲げシャウトし、大熱演だ。吉田がステージを去り際に「よいお年を」とぼそっと言って、今日のライブが幕を下ろした。

 きんきん鳴る耳も心地よい、満腹したすばらしい夜だった。
 またぜひ、こういう企画をやってほしいな。

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