今お気に入りのCD(番外編)

CDじゃないけれど、見に行ったライブの感想です。

1999/12/11 吉祥寺ONAIR PLANET−K
   
 出演:割礼・捏造と贋作・RUINS・Harpy

 ライブに行くのは2ヶ月ぶりかな?以前ライブに行った時にもらったチラシのなかに、ヨーロッパ・ツアーを無事終了したRUINSが凱旋ライブ(といっても、対バンのゲスト扱いだけど)をやるのを見つけて、楽しみにしてた。
 ルインズはCD紹介の欄でなんども紹介してる通り、僕が大好きなバンドなもので。
 今日のライブを演るライブハウスは、東急向かいにあるドトールコーヒーの地下一階。フルスタンディングでキャパ250人とこじんまりしたところだ。本日の出演4バンドはいずれもベテランらしいので、動員を見込んでか椅子をすべて取っ払っていた。最終的な今日の観客は150人くらい。それなりに混んではいたけど、客席の前のほうは床に座り込んで楽しんでいた。
 僕は会場早々に入場したので、前のほうのスペースを確保できた。ビールを飲みながら開演を待つ。ジーンズを履いてたんで、床にぺったり腰をおろして座ったが、リノリウム張り(?)の床が冷たくて、尻が冷えてライブ後半は少々つらいものがあった。
 それにフルスタンディング(いや、立ってはいなかったが)のフリースペースだと、個人の感覚で自分の場所の確保方法が違う。きつきつに身体を丸めて、一人でも多くの人が座れるように気を使う人。傍若無人にかばんを使って、ひろびろ座ってる人。タバコの吸い方も、缶を灰皿代わりに使う人あれば、床に無造作に灰を捨てる人あり。色んなタイプの人がいて、人のなにげないしぐさが癇に障った。といっても別に注意するほどひどいわけではない。しかし目に入るたびにイライラするのは間違いないので、どうも精神的によろしくない。
 特に僕の斜め前の客だ。小さな録音機材を持ち込んでいて、いい音質で録音するためにスペースを取りたいのか、大柄な身体の上に大きなかばんを自分の前の床に置いてどっしり座り込んでいた。混みあってるって言うのにその人の前だけぽっかりスペースが空いてしまって、腹立たしいことこの上なし。ま、人それぞれだけどね・・・。
 余談が長くなった。ライブの感想に移ろう。
 さて、出演者のほうだけど。RUINS以外は、僕にとって事前の予備知識なし。どんな音楽をやるのかさっぱりわからず、不安と楽しみが半々だった。

 割礼
 このバンドは、ベース・ドラム・ギターの男三人組。帰って調べてみると、名古屋出身でメジャーレコードも2枚発表済み。1987年から活躍しているベテランバンドだ。
 開演時間の7時を10分ほど押して演奏が始まった。彼らの音楽は、重たいギターのカッティングを前面に出すノイズ的な演奏に、搾り出すように声を振り絞るサイケ・ミュージック。テンポは遅めをキープして、爽快感よりもあやふやでもやもやとした不安定さをかもし出す。
 PAバランスのせいで、voがよく聞こえなかったけれど、割礼の音楽性は少々ぼくの好みとは違った。
 もっとも最後の曲は面白かった。今までむっつりとベースを弾いてたメンバーがコーラスをとり、フォーク風のハーモニーを重たいリズムに乗っかって聞かせる。そのあとはギターソロだが、引きずるようなリフを繰り返すリズムの上で、ギターがノイジーなソロを延々と繰り広げる。混沌としたアレンジが楽しめた。
 でも改めて思ったのは、僕はやっぱりメロディを聞いてるんだなって事。
 PAバランスのせいで、ギターの音は固まりのノイズで迫ってくる。僕としては細かいフレーズやメロディを追いかけたくて楽しみたく、少々もどかしかった。
 音楽を聴くときに、たとえばメルツバウのように、完全なホワイトノイズの音楽であっても、僕はメロディを無意識に聞き取って楽しんでるんだなあ。もわもわした音の塊を、でかい音で執拗に生み出すギターソロを身体で浴びながら、ぼんやりと考えていた。

 捏造と贋作
 今度は男の二人組み。一人はきっちりとスーツにネクタイを着込み、キーボードでピアノ風の音を奏でる。もう一人のヴォーカルはTシャツにチノパンのラフな服装だ。うつむき加減で楽譜を見ながら冷静にキーボードを弾く横で、ヴォーカルはストレートの肩まである長髪を激しく振って歌う。歌う合間にパーカッションを無造作にたたいてみたり、木管や金管のマウスピースを長いゴムホースにつないだ手作りの楽器を、ぷかぷか吹いたり。メンバー二人の雰囲気を対照的に演出していて、見ている分には素直に楽しめた。
 でもこのバンドも、正直僕の趣味とは音楽性がちょいと違った。
 バックにテープで電気的な激しいリズムを流しながら、キーボードはクラシック風のメロディを延々と冷静に演奏する。一方ヴォーカルは途中でシャツを脱ぎさり上半身裸で熱演する。少々リズムのテープの音量が大きく、細かいキーボードのメロディが聞き取りにくかったのが残念。
 曲によっては、キーボードのピアノ音だけをバックに歌を聞かせる。
 演奏を聞いていて、音楽性豊かなのはびしびし伝わってきた。キーボードのほうはもちろん、ヴォーカルのほうも音楽的なアイディアはふんだんに披露する。
木管・金管のマウスピースを使い分けるのはおもしろいし(ただ、マイクの指向性がよすぎるのか、音を拾ってない場面もあったけど)、マイクを2本使い分け、一本はボイス・モジュレーターで加工して奇妙な雰囲気を作り出す。
 ヴォーカルの熱演はステージ慣れを感じさせ、小さいステージを右に左に歩き回り、見てて飽きることはない。
 要するに、ステージやアイディアはすごく面白いけれど、肝心の曲自体がアヴァンギャルドすぎて、どうもステージにのめりこめなかった。
 色々な要素がごちゃまぜになってるから、とっても面白そうなんだけどなあ。
 あ、それとステージの後方に配置したイーゼルにスクラップブックをのせ、一曲毎に曲名を表示してるのが印象的だった。ご丁寧なことに、ちゃんと専門にスケッチブックをめくる人まで準備してる。
 結局最後までMCはなかったけど、メンバー紹介のなかで「演奏者、だれだれ。曲紹介、だれだれ」とか言ったら面白かったろうな。
 ちなみに、帰り際に物販コーナーを見たらこのバンドのCDが一枚置いてあった。メンバーも描いてあり「上野耕路」と書いてある。
 それを見て、なんとなく自分の中でこのバンドの位置付けがついたような気がして、帰宅途中に「なるほどねえ」と妙に納得してしまった。これはこれで、バンドの音楽性を、僕自身の思い込みに押し込めてるだけで、恥ずかしいけれども。
 (上野耕路は元ゲルニカ。今日のライブのキーボードが上野氏かな?ゲルニカは戸川純が在籍したバンドで、細野晴臣・高橋ユキヒロがYMO後期に設立したレーベル「YEN」で、確か数枚レコードを出してるはず。僕はゲルニカをこれまで聞いたことがないけれど、なんとなくアヴァンギャルドで退廃的な音楽ってイメージがあったもので)

 RUINS
 僕的にはおまちかねのRUINS登場。吉田達也(ドラム)と佐々木恒(ベース)による怒涛のインストと怪鳥ヴォーカルで畳み掛けるアヴァンギャルド・プログレ・ユニット。一年前くらいに彼らの音を聞いてから、大好きになったバンドだ。
 ルインズは1985年から活動してるから、上の割礼に負けず劣らずのベテランといえるだろう。
 吉田氏のドラムは、多少は手癖でたたいているような気がしないでもないが、次から次へと繰り出されるリズムが実にメロディアスだ。ばかでかい音の嵐は耳だけでなく腰にもびんびん迫ってくる。
 基本的にルインズの曲はきっちり構成されてるけど、即興の要素だってもちろんある。秩序と混沌、爽快感と迫力とメロディ、色んな切り口で楽しめる。 
 さて、今日のステージだが、バンドチェンジのたびに、当然セッティングを変えなければならない。それに少々時間がかかるので退屈な思いをしてた。
 自分が弾く楽器以外は何も置かない割礼に対し、シンセやらサンプラーやら色々ステージににぎやかに乗せた捏造と贋作。そんでもってルインズはドラムとベース以外ないから、またシンプルなステージにもどる。
 視覚的なメリハリはついていいけど、バンドチェンジに手間が要るのは避けられない。それなりに客席は混んでるから、身体を伸ばすのをかねてあちこちうろつくのも気が引けたし。あぐらかいてる足は痛くなってきて居心地悪いし。
 でもこのときは、吉田達也氏がチューニングのためか早々にステージに登場し、ドラムをたたいてたので、それを聞いて「早くステージが始まらないかな」とわくわくしてて、待ち時間はそれほど気にならなかった。
 しかしこのライブハウスは、バンドの演奏が終わると間髪をいれずBGMがでかい音で流れ出し、思い切り興を削ぐのが困りもの。おまけにバンドが演奏をはじめるか、ステージ開始の合図を出すまで延々と曲をかけている。なんとかならんものか。
 さて吉田氏のドラムは、おなじみのカンカン・チューニング。ステージ準備中にウオーミングアップにたたくドラムから聞こえてくる音は、鉄板をたたいてるみたいで爽快だ。
 一方ベースは5弦ベースで足元にエフェクターがズラリ。
 僕はステージでルインズを聞くのは、去年の高円寺ショーボートのワンマンライブ以来だから、ちょうど一年ぶりくらいかな。
 ベースのセッティングに時間がかかっていたが、ドラムをたたく吉田氏をみたり、準備に余念がない佐々木氏を見たり。僕はまだかまだかと始まりを待っていた。
 ステージはあっという間に終了。もちろん満足した。曲は多分アルバム「ヴレスト」の収録曲と、それ以後の新曲(多分だけど・・。曲を全部覚えているわけじゃないので(^^;))すさまじい勢いでメドレー形式に曲が次々演奏される。
 吉田氏のヴォーカルも甲高く響き渡る。このときのPAは、吉田氏のヴォーカルがはっきり聞き取れるようにミックスされてた。一方で佐々木氏のヴォーカルが埋もれて聞き取りにくかったのが残念。
 ドラムはものすごい手数でたたきまくる。そこにベースが乗っかるけれど、エフェクターで音をさまざまに加工させ、なおかつ高音部分も使った演奏なのでギター的な要素も多分にあった。
 ルインズらしい、音の壁を分厚く築きあげる音圧だ。二人だけで演奏してるとは思えず、毎回不思議になる。しかも複雑なリズム・アレンジが恐ろしいほどにぴたぴた決まる。さすが一ヵ月半の間、ヨーロッパをツアーしつづけただけのことはあるなあ、とえらそうに考えていた。
 それにしても、今日のステージでルインズ目当てのお客は何人くらいいたんだろ。決して観客にこびることなく、ストイックにまくし立てるステージを見ながら、ふと考えていた。
 ステージで佐々木氏は激しく身体を震わせ、ぴょんぴょん飛び跳ねる。ベースを弾きつつヴォーカルで叫び、足はあわただしくエフェクターのスイッチを操作する。
 吉田氏も決して休むことなく、多彩なリズムを繰り広げる。
 二人の汗が飛び散る迫力のステージだった。
 ちなみに、今後吉田氏関連のステージが年内に3回、年明けには僕が知ってるだけで2回。平日にやる日もあるけど、仕事さえ許せば全部見に行きたいなあ。
 すばらしくかっこよくて、今後の活動がますます期待をもてるステージだった。

 Harpy
 ここまでで、すでに開演から2時間半ほど経過。いい加減お尻が痛くて閉口してたし、お目当てのルインズのライブも終わったし、よっぽど帰ろうか迷ったけど、せっかくだからとHarpyのステージが始まるのをまっていた。
 もともと、今日のライブは彼らがメイン。北米ツアーを終了させ、シングルのを発表記念のライブが趣旨だった。
 ところが入場前にヴォーカルが体調を崩して入院したとの紙が入り口に張ってあり、どうなることやらの不安があった。
 このバンドの経歴は、僕の知識不足でよくわからない。今までアルバムを2枚出してるようなので、数年以上の活動歴はあるんじゃないかな。
 まずはステージに登場したのは男3人(Dr・Gr・Key)。ヴォーカルの女性が入院したことを説明し「逆カラオケ」と称して、テープで彼女のヴォーカルを流し、それにあわせて演奏する形式でステージが始まった。
 その後ゲストが二人登場。一人はソプラノ・サックスで、もうひとりはサンプラーかな?小さい機械を操作して、電気的な音をパーカッション的に奏でていた。
 彼らの音楽は、ちょっとアヴァンギャルドな感じで、変拍子を使っての軽快なロック。多分ソプラノ・サックスが、本来ヴォーカルが歌うべきメロディを奏でてるんだろうけど、ヴォーカルがどこに入るんだろ?と思わせる器楽的な曲で一杯のステージだった。
 このバンドになったとたん、音量も小さめになり(それとも僕の耳が慣れたのかな?)それぞれの楽器のバランスも的確な演奏を聞くことができた。
 帰り際にCDを買いたくなるほどは惹かれなかったけど、いいバンドだと思う。アレンジは複雑なのに演奏は確実にタイミングを合わせ、しっかりした技術をもっている。一曲ごとに曲紹介をして、観客のさりげない興味を引かせるステージも好感できる。一曲を短くして演奏するので飽きることもない。
 さすが今日の主役のバンドだけあり、次から次へと1時間程度の演奏。
 アンコールはなく、あっさりと終わった。
 しめて3時間強。軽い耳鳴りが心地よい、楽しいライブだった。

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