Guided by Voices

eyesinweasel ”Wrinkled Thoughts” (2000:Luna)

Tobin Sprout - vo,g,p,harpsichord,tambourine,b on 3 and 9,ds on 3
Nick Kizirnis - g,steel,theremin,vo on 6
Dan Toohey - b
John Peterson - ds

John Shough - b on 7, back vo on 8


 トビンの新バンド、アイズインウィーゼルの1stアルバム。ミュージシャンクレジットは上記のとおり。
いちおう4人組のバンドで、ジョン・ショウがゲスト扱いかな。

 作曲は当然、基本的にトビンのペンで、例外が(6)。この曲のみニック・キジミス(と読むのか?)の作曲。
 このバンドでライブもやってるし、いちおうパーマネントなバンドみたい。

 ちなみにブックレットのイラストはアレックス・アバジャンなる人の絵。トビンのデザインは、裏ジャケのコラージュでのみ楽しめる。
 トビンの作品はいままでジャケも含めてデザインされていたので、ちょっと戸惑ってしまった。

 録音はほんのりこもりぎみ。デモ録音で自然にラフな音質となったわけじゃなく、多少本人ももこもこっとした音像を狙ったみたい。
 60年代サイケ・ポップスあたりの、素朴な一体感あるサウンドだ。

<各曲紹介>

1.SEVEN AND NINE


 せわしないギターリフが駆け下りていく。
 シンプルなアレンジで隙間を極力なくそうと、総力戦でバンドのメンバーが刻む。

 パンキッシュなアレンジが妙に新鮮なロックンロール。
 メロディはほんのり切ない感じかな。あまり曲は展開せず、ワンアイディアで最後まで疾走した。

2.DUSTING COATTAILS

 前曲が唐突にカットアウトし、そのままこの曲へ切り替わった。
 一転してミドルテンポののどかなギターポップ。
 アレンジは特筆するほど珍しい部分なし。オーソドックスなものだ。
 ライブでの演奏を意識して、トリッキーなとこは削り取ったのかも。

 作曲時にもう一歩踏み込んで欲しかった。旋律がこじんまりとまとまっている。 

3.SLOW FLANGES

 オルガンのふぁふぁした音色で始まる。トビンはキーボードを多用するほうだが、こういう牧歌的でサイケなアレンジは珍しい。

 たあいのない曲だが、ぼくはこういうメロディが好み。
 足元が定まらず不安定にたゆたうのを聴くと、不思議となごむ。
 サビの部分でハモる部分が、特にいいな。

4.MARRIAGE INCORPORATED

 一転して硬質に。1曲目あたりの雰囲気に戻った。
 ただ、今度はいくぶん隙間を生かしたアレンジだ。
 サビで群唱するセンスはかっこいいのにな。やはり一歩、パンチ力に欠ける。
 ギターポップとしては及第点だが、耳をひきつける新鮮味がたりない。

5.PURE FLESH

 再び好みなタイプの曲。ハーモニーをさりげなく生かしたメロディが耳に残る。
 キーボード中心で楽器編成にメリハリをつけ、有機的なノリを作り出している。

 力任せに押し切らず、手駒の組み合わせで駆け引きするアレンジが聴いてて楽しい。
 ボーカルにところどころエコー処理をして、サイケな色合いを強調している。 

6.PREFERRED COMPANY

 スケール大きい典型的なアメリカン・ロックンロール。スタジアム級のでかい所で演奏したら似合うだろう。

 現実の人気はともあれ、箱庭的なイメージがチャームポイントなGbVには、こういう路線へ走って欲しくないものだ。
 
 いまさらだけどトビンの持ち味も、もっとひねくれたとこにあったはず。となると、このeyesinweaselって、そうとう一般受け狙いなコンセプトなんだろうか。
 イメージ戦略まで考えてバンド活動してたらたいしたもの。

 エコー感をたっぷり含んだ大味なロックは、最初は耳に残るけど。こうして感想書きながら繰り返し聴くと、どうにも評価に困る。
 個人的にこの手のサウンドって、あんまり好きじゃないからな。

7.DAUGHTERS OF THE MOON

 アコギにピアノに・・・後ろでほんのり聴こえるのはバイオリンかな?
 アコースティックなほのぼのソング。
 かろやかに音が弾み、トビンが甘く歌いかける。
 さりげないながらも味わい深いポップスだ。

 大サビでの展開が弱くて惜しい。
 アナログ盤では、これがA面最後の曲。

8.THERE SHE GOES AGAIN

 低い位置からじんわりと盛り上がる。
 サビで聴けるハーモニーが心地よい。いっそのこと全面的にコーラスを強調して欲しかった。

 ざっくりとしたノリで、一つ一つを丁寧に演奏する。
 トビンの声質にはこのタイプの唄はあってないのかな。なんか上滑りして聴こえるぞ。

9.LITTLE BORED

 名曲の登場!輪唱風にボーカルがおっかけっこして、きれいな旋律をらせん状に盛り上げた。
 
 バックはギター・ストロークにベースの連打。いたってシンプルなアレンジだ。
 せわしなく次の音符へむかうあわただしさが楽しい。
 気のせいかな。テンポも微妙にラッシュしてないか?

10.JEALOUS MANTLES

 バックの演奏はミドルテンポの、オーソドックスなロックンロール。
 ところが歌声が演奏へ乗るか乗らぬか微妙な線で、ラップ風につぶやく。
 高らかに朗読するような旋律が、ほんのり奇妙な雰囲気を生んだ。

 だからこそ、サビ近くできっちりバックにのってメロディを踏みしめるところに味がある。
 全般的にこもったミックスで音が団子なのも、いいほうに働いた。
 ごしゃっとした音像で、むりやり一体感を作ってるかのよう。

11.HINT #9

 パンキッシュにかきむしるギターがメインの曲。
 サビでさりげなく使うハーモニーで曲へ彩りを与えている。
 力任せに盛り上げる雰囲気は一気に聞かせるが、曲のアイディアそのものはシンプルすぎかな。
 もうちょいひねって欲しかった。

12.HANDS AND COVERS

 一転して静かな展開。このまとまりのなさは、いかにもGbV直伝っぽい。
 ダブルボーカルや多重コーラス(?)を駆使した、甘酸っぱい展開は僕好み。
 こういう曲ばっかりやってくれたら、むちゃくちゃいいアルバムになると思うんだけど。
 
 トビン自身はこの手のアレンジは単なる引き出しのひとつで、(11)みたいなライブで映える曲が趣味の本線かなぁ。
 ライブ盤を聴いてて思ったけど。

 中間部分も丁寧に作った、できのいいポップス。
 ポール・マッカートニーあたりの影響をかなり受けてそう。
 シングルにするには、メロディがちと弱いか。
 聴きこむと深い完成度をもっていて、アルバムの一曲として埋もれさすには惜しい佳曲。

 ロバートほどではないにせよ。早々と曲を終わらせがちなトビンには珍しく、4分以上かけてじっくり聴かせる。

13.SLOW FLANGES (REPRISE)

 「リプリーズ(繰り返し)」と銘打ちながら、(3)よりも長く4分くらいかけている。
 こちらはギターのアルペジオ中心のアレンジ。
 素直なミディアム・ロックになっている。

 デモ録音ではなく、きっちりとスタジオでレコーディングされたテイクだ。
 トビンはよっぽどこの曲が気に入ったのかな。
 地味なイメージながら、優しく歌うトビンから思い入れが伝わってくるようだ。

14.KETILING PARK

 アルバム最後の曲は、ラフなバンドセッション風の曲。
 セッションの垂れ流しではなく、ギターの弾き語りにリズム隊が加わっていくアレンジだけど。
 どこか荒っぽさを感じる演奏だ。

 大サビで繰り返されるメロディがいとおしい。
派手に盛り上がることなく、リラックスしたまま幕をゆっくり下ろした。
 ラストでインストとなり、きっちりコーダへ向かう。
 大騒ぎするほどでもないアレンジながら。
 こうしてアルバム一枚通して聴くと、味が染み出てくる。
 
 雑多な表情の曲を混ぜ合わせた、五目味アルバムなのに。
 この曲で全ての要素を包み込み、見事な余韻を感させた。

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