Guided by Voices
MOONFLOWER PLASTIC/Tobin
Sprout(1997:Matador)
Tobin Sprout - Vocals,Guitars,Bass,Drums,Piano,Organ,Casio&Tambouring,except
as indicated
Jim Eno - Drums(by mail)on 1
John Peterson - Drums on 3&7&11
Billy Mason - Drums on 6
Kevin Fennell - drums on 10
Todd Robinson - Headphone on 10
Joe Bueen - Drums on 13
トビンのセカンドアルバム。本盤のメインテーマは「切なさ」かなぁ。
さまざまな魅力を持った曲がてんこもりになっているけど,どこかはじけない。
あと一歩、感覚を解放すればパワフルになるだろうに、ためらって立ち止まっているような気がしてならない。
このアルバムは前作同様にトビンの多重録音が基本だが、ドラマーだけは大勢呼んでいる。
総収録数14曲に対してゲストが5人。トビンをいれて6人だ。多彩なリズム感を味わえるのも、この盤の特長だ。
ジャケットももちろんトビン作。カバージャケットのコラージュはローラ・スプラウト(奥さんかな?)の手によるものだが,素材のイラストはトビン作。
またデジパックの中ジャケとバックジャケは、スニーカーの拡大部分(中ジャケ)と洗面所の流し台(バックジャケ)という、日常的な風景を写実的に切り取ったイラストになっている。
どちらもちょっと影がある色使いだ。ジャケットにも切なさが多少漂っているかに感じる。
本盤でのアレンジは、ピアノが前面に出てくる曲が耳に残る。
GbVではほとんどキーボードが使用されないが,トビンのピアノを使うセンスもいかしてる。
そのうえほとんど宅録で録されているわりに、音がくっきりきれいなのがすごい。ここはエンジニアの腕前やマスタリングの配慮にかかっているんだろうな。
丁寧な手作り感が全体的に感じられる、落ち着いたいいアルバムだ。
<各曲紹介>
1)Get out of my throat
シュワシュワした発信音をまえぶれに、ギターのアルペジオが滑り込んでくるイントロで始まるミドルテンポの曲。
曲調は重たい雰囲気を感じてしまうが、サビの部分は切なさが漂って好きだ。
8トラックで宅録されたわりに、個々の音がくっきり粒だっていてびっくり。エンジニア(ジョン・ショウ)のテクニックが際立っているのかな。
ちなみにドラムはジム・イーノが叩いている。(by
mail)とクレジットされているから、郵便でマルチを送りあって録音したのだろう。
シンバルの音が生々しく響き、タムもしっとりとはねる、いい音で録音されているのがうれしい。
2)Moonflower plastic(you`re here)
アルバムのタイトル曲は、トビンのピアノがメインに置いたアレンジだ。
GbVではロバートの趣味なのか、キーボードがほとんど使われない。
だからこうしてピアノの音が流れただけで、妙に新鮮な気持ちになってしまう。
演奏はすべてトビンの手による。
とつとつとしたピアノにドラムが着実にのっかって刻む。
歌声はかすかにかすれ、時に多重録音のコーラスを駆使してやさしくスピーカーから溢れてくる。
甘さに寂しさをちょっとふりかけたメロディが、とてもきれいな佳曲だ。
3)Paper cut
本アルバムふたり目のドラマーはジョン・ピーターソン。バスドラを高めに響かせ、安定したリズムを叩く。ところどころでさりげなく挟み込むリフが効果的。
エンディング近くなって奏でられる、トビンのギターソロが聴き所といえる。
全体的に目線を下にした曲調を盛り上げるべく、おずおずとトビンはギターを引っかいている。
4)Beast of souls
再びすべての楽器演奏はトビンにゆだねられる。
リズムボックスの着実なビートをバックに、軽快に歌う。
もっとも完全に脳天気に騒いだりしない。どこか影があるんだよな。
曲は最後まで、一本調子で流れていってしまうのが残念。
5)A Little odd
40秒足らずの掌品。オフ気味の録音で、アコギをかきならしながらダブル・ヴォーカルがメロディをなぞる。
とはいえ、たかだか数十秒。Aメロを歌っただけでブツッと切れてしまう。
「これからサビなのに〜」ってもどかしさがつのる曲だ。
6)Angels hang their socks on the moon
この曲のリズムはビリー・メイソンがつとめる。
とはいえ、冒頭はピアノの弾き語り。わずかにエフェクトをかけたヴォーカルで、交互に歌っていく。
やさしいメロディがとても心地よい。
そして静かに滑り込むハイハット。リズムは歌声を優しく支えていく。
これだけでも、充分に素敵な曲なのに。トビンはこの程度じゃ満足しない。
太いギターソロが流れ込んでくる。オフ気味の演奏がもったいないほど、この曲はダイナミズムにあふれている。
本盤の中でも、一・ニを争う名曲だ。
7)All used up
軽快なロックンロールなのに、はじけずに立ち止まってしまうのがもどかしい。
ドラムは(3)に続き、ピーターソンが勤める。左右にシンバルを散らしたミックスで、派手にリズムを飛び交わせている。
8)Since I...
8チャンでさりげなく録音された一曲。サビの切なさがたまらなく素敵だ。
ピアノがひしゃげぎみながらも甘くかぶさってくる。
ドラムはトビン自身だろうなぁ。着実でドラムマシンみたいなプレイだ。
いや、これもしかしてリズムボックスかな?
多重録音した歌声が、曲の魅力を何倍にも広げている。
9)Back Courus
今度は4チャンネル。そうとう前に録音されたデモらしい。
リズムマシンをバックに、ピアノの弾き語りでトビンが歌う。
メロディはとっ散らかりぎみだけど、とてつもなく優しい。
10)Curious things
ドラムはGbVでの盟友、ケヴィン・フェンネルだ。
重苦しい雰囲気のこの曲を、淡々と演奏している。
メロディはなめらかなんだけれど,テンションの低さが気になってしまう・・・。悪い曲じゃないんだけど,どこか違う。
11)Exit planes
ドラムはジョン・ピーターソン。パシャパシャ賑やかなドラムを聴かせる。
トビンの歌声は,ブートされて影を出す。薄布一枚向こうで歌っているかのようだ。
ギターで音の壁を作り,優しく聴こえつつもどこかかたくなな雰囲気を感じさせる曲だ。
ところが、歌声は次第に激しくなり,最後で熱っぽくシャウトする。
この叫ぶ瞬間の迫力は,なかなか捨てがたい。
妙に尻切れトンボに終わるのが難点だ(笑)最後でちょっと聞こえる太いシンセの音が、このあとの盛り上がる展開をすっごく期待させるんだけどなあ。
12)Little bit of dread
あらゆる演奏はトビンによる。メロディはきれいだけど,憂鬱な雰囲気がどこか漂うサイケデリックなタッチの曲。
特に聴きづらいところはないのに,何回聴いてもこの曲の魅力がピンとこない。なんでだろう。
13)Hit junky dives
アコギの弾き語りから始まり,ヴォーカルにエコーを軽くかけた美しい曲。
この曲でのドラムはジョー・ブーエン。自己主張に走ることなく,アレンジの一役として裏方に徹するドラムだ。タムにかかったエコーがきれい。
たびたび鳴らすシンバルがきらびやかに響く。
スローテンポで静かに動く雰囲気が、なんとも繊細ですばらしい曲だ。
4分間の間、うっとりとトビンの作り出す音世界に酔える。
14)water on the boaters back
アルバムのトリは8トラックによるトビンの宅録でしめる。
ピアノを前面に出している。
ヴォーカルは所々かすれるけれど、そのつたなさもが魅力に変わる。
トビンの自宅にはこんなすばらしいデモテープが、山のようにころがってるのかな。宝の山だ・・・。
さりげないポップスでありながら,見事にアルバムの幕を下ろすパワーを持ち合わせている。