Guided by Voices

Crnival Boy/Tobin Sprout(1996:Matador)

Tobin Sprout - all songs

except:
Kevin Fennell - drums
Robert Pollard - guitar on 3
John Shough piano on 14

 第一期GbVで、作曲家としても大きな役割を果たしていた、トビンのソロアルバム。たぶん、第一弾だ。
 このアルバムは、なにからなにまでトビンの配慮が行き届いている。
 作曲や演奏はもちろん、半数の曲では録音にかかわり、プロデュースだってもちろんトビンだ。おまけにアルバムのジャケットになっている油絵もトビンのペンによるもの。
 
 このアルバムの構成は、トビン自身の4チャンのテレコを使った宅録と、ちゃんとしたレコーディングスタジオで録音した曲を、ほぼ交互に収録している。
 宅禄の荒っぽさがもつ勢いやパワーと、スタジオで練りあげられた録音の両方が楽しめる仕組みだ。
 そんなトビンの二面性を堪能できる好盤といえる。

 GbVのデビューから、トビンがこのソロアルバムをリリースするまで、かなりの年数がたっている。
 ロバートほどじゃないとはいえ、トビンもかなりの多作志向だとにらんでいる。だから、このアルバムを作るまでに、アイディアはいっぱいあったと思う。
 ソロアルバムをリリースするチャンスをつかんだトビンが、ここぞとばかりにわくわくするメロディを並べ立てたんじゃないかな。そんな想像を、ついしてしまう。
 あふれる才能をふんだんに使い、ロックンロールとポップスを混在させて見事にまとめ上げた、刺激的なレコードだ。
 

 <各曲紹介>

1)The Natural Alarm

 ふくらみのあるビートに、それぞれの楽器が微妙に絡み合うアレンジ。そのうえにトビンの甘いヴォーカルがのっかるナイスなポップ・ソング。
 トビンはシャウトすることなく、淡々とメロディをなぞっていく。
 じっくりとリズムを刻んでタメたあとに、ぶっとくぶちかますギターがかっこいい。
 しっかりと一歩一歩刻んでいく、着実なイメージの曲。
 アルバムのしょっぱなから、一人で多重録音したとは思えないほど深みのある演奏を聞かせてくれる。

2)Cooler Jocks

 ひずんだキーボードをバックに、ブーストされた声がつぶやく。
 ぐしゃっとしたミックスだけど、裏で小さく聞こえるハーモニーがきれいだ。
 ノイズ成分を含ませて、デモテープ風味をねらったのかな。
 一分強と短いけれど、ちゃんと構成されている。
 ここらへんのまとめ方が、ロバートとの大きな違いだと思う。
 ロバートなら、作曲しっぱなしでほおりだしちゃうから。

3)E`s Navy Blue

 ギターによるブレイクを効果的に使っている。
 ダブルヴォーカルがかもしだすハーモニーが、重なることで現れる深い味わいが心地よい。 
 メロディは甘いけれど、ちょっと単調かな。
 何本も重ねた、ほんのりノイジーなギターが、アレンジのアクセントになっている。どのギターがロバートの演奏なのかなぁ。

4)The Bone Yard

 シンプルなギターリフにもう一本のギターが絡み、まとわりついていく。
 つむぎだされる音が、螺旋構造のようにくるくると回りつづけるインスト曲。
 ・・・いや、冒頭のギターのリフが、単音で上下するギターのフレーズを守っているようにも聞こえる。こうして感想を書いていて、思わず深読みしたくなってしまう。
 
5)Carnival Boy

 アルバムのタイトル曲は、エコーの効いたドラムが、シンプルなリズムをミドルテンポで決めている。
 ヴォーカルはオフ気味にエコーをかませ、静かにメロディを確かめていく。
 歌声の合間には、ギターがサイケに踊り、もやもやとした雰囲気を強調する。
 この曲のビートの決め手はバスドラだ。薄い録音だけど、耳を澄ますと常に一定のリズムを提示している。
 サビでゆっくりと演奏の膨らむ瞬間がいい。

6)Martin`s Mounted Head

 ヒスノイズばりばりのデモテープ風だ。宅録だからしかたないのかも。
 声がちょっとブーストされている。もっとも、狙った効果なんだろうな。
 最初から最後まで同じリフが流れていく、ワンコードソング。
 そのリフにのって、演奏が現れては消え、盛り上がっては退いていく。
 リズムはわずかに性急だけど、全体としてはゆったりとしたノリが漂う。聞いていて、おもわずのんびりしてしまう。

7)Gas Daddy Gas

 アコギの微妙な音もくっきり聞こえる弾き語り。トビンは低音から高音まで使ったフルレンジの歌をしっとりと聞かせてくれる。
 改めて、トビンの歌いっぷりを堪能できた。
 この曲では、新機軸のアレンジは狙ってないみたいだ。
 ギターと声だけで飾りっけなし。だから、しみじみと曲を味わえる。

8)To My Beloved Martha

 前曲とはうってかわって、重たくギターを引きずった曲。
 でも、歌声に耳をかたむけて欲しい。多彩で魅力的なメロディがつぎつぎにあふれ出てくる。
 アレンジがシンプルなのがもったいない。もっともっと、このメロディを強調した派手な曲にすればいいのに。
 さりげなくトビンは歌うけれど、けっこう練って、この曲を作ったんじゃないかな。

9)WhiteFlyer

 荒っぽいローファイな小品。こうしてこのアルバムを通して聴くと、トビンが考える、本格的なレコーディングスタジオと、宅録の役割分担を推測したくなる。
 まず最初に宅録でデモテープを作って、勢いがあるなと思ったら、そのまま宅録で完成。
 まだまだ練り上げられる、と思ったらスタジオ・・って風に使い分けてるんじゃなかろうか。
 
 この曲は、高音も低音もブーストされたぱしゃぱしゃする音だし、ヴォーカルも強引だ。
 でも、これをきっちりスタジオで録音したら、この性急な雰囲気がかもしだす緊張感はなくなっちゃいそう。

10)I Did`t Know

 この曲もメロディが魅力的だ。甘いメロディがしょっぱなから耳をひきつける。
 ちょおっとギターソロが単調なのが難点。
 ブレイクをかまして、ギター一本でリズムを支えるってアレンジが、何度も繰り返される。
 中間部で、ギターがわずかによれる。多重録音だから、その場のノリを意識したってのは考えにくい。
 ここまできっちりアレンジされてるから、事前にフルスコアまでまとめた演奏だとしてもおかしくないもの。
 ラフな雰囲気で破綻した部分も作って、隙を見せたかったのかな。

11)Gallant Men

 ぽわぁんと弾むギターのコードストロークが楽しい。
 同じフレーズが何度も繰り返されているけれど、ぜんぜん飽きやしない。
 もっともっと長く聴いていたいな。
 一分半ほどで終わってしまうのが惜しい、サイケなインスト曲だ。

12)It`s Like Soul Man

 GbVの"Under the Bushes Under the Stars"にも収録されている。
 こちらはトビンのソロバージョンだ。GbVバージョンはアルビニのプロデュースのせいか、ぐしゃっとしたミックスだった。
 それに比べ、トビン版は、すっきりしたミックスになっている。

 こいつはシングルにぴったりだと思う。すくなくとも、僕はこのメロディが大好き。
 サビで歌い上げる瞬間がたまらない。
 大サビがなくて、一つのメロディを何度も繰り返すだけなんだけども。
 メロディが力強いから、聴いていて少しも飽きやしない。
 軽快なリズムに、高音を聞かせて歌うヴォーカル。アレンジだって、よけいな飾り立てをせずにすっきりしている。
 なのに、あと一歩。もう少し疾走感があれば・・・惜しい。
 ほんの少しだけ、この曲にビートがのれば、とんでもない名曲になるのに・・・。

13)Hermit Stew

 またもやエコーもやもやの中での、ギターによる弾き語り。コーラスやうっすらとオルガン(かな?)はかぶせてるけど。
 GbVでもその片鱗を見せた、トビンの吟遊詩人ぶりがあらわれた名曲だ。
 長い物語の一瞬を切り取ったようなドラマティックなメロディは、聴いていてうっとりしてくる。
 ストリングスをかぶせて厚化粧しても良く似合うと思う(予算があるかはさておいて)。
 だけど、こうしてすっきりした曲に仕上げるあたりが、トビンのセンスってもんだろう。

14)The Last Man Well Known To Kingpin

 アルバムの最後をしめるのは、いかしたロックンロール。
 リズムがちょっと歯切れ悪くて、もったりした雰囲気になってしまうのはご愛嬌。
 でも、この曲もしっかりアレンジされている。
 バンドサウンドっぽい統一感がちゃんと出来上がってるもんな。
 ヴォーカルがちょっと弱いけど、素敵な曲だと思う。
 
 アルバムの頭と終わりに、こういうしっかりした曲を持ってきて、かっちりとまとまった印象を与えようとする意図だろう。
 トビンが自分の音楽を、客観的に意識しているのがよくわかる。

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