Guided by Voices

"Zero To 99" Boston Spaceships (2009:Guided By Voices Inc.)

Bass,Guitar,Keyboards - Chris Slusarenko
Drums And Percussion - John Moen
Vocals,g - Robert Pollard

 バンド・アンサンブルが決まったのに、余分な要素を足してしまったアルバム。
 しれっと年内に発表された3rdな本盤のサウンドは、全体的に妙な軽さあり。スカスカにハイを強調したミックスで、やたら威勢がいい。

 これまでBostonでは歌をダビングのみだったボブが、2曲でギターを弾いている。バンドとして不思議じゃ無いが、ボブの録音スタンスだと何だか珍しい。
 詳しくは楽曲感想で触れるが、別の数曲ではダビングにサブ・プロデューサーを立てたりゲストを招いたり、さまざまな方向性に向かうバラエティさも垣間見える。

 しかも本盤には、5曲の再録音曲あり。うち4曲は"Suitcase"(2000)で発表の焼き直し。ボブはきっちり録音管理していそうだし、そもそも"Suitcase"テイクと本番で、大幅な違いは感じられない。明らかに意図的なもの。
 つまり、どうにもやっつけ仕事感が漂う。別に契約の縛りは無いはずだが、過去の没曲(かつ、デモを発表済の曲)まで、なぜ引っ張り出した。試行錯誤としか思えない。

 なお、この盤収録曲はライブ演奏の記録が無い。Bostonのツアーは前後に存在しなかったが、その後のGbVツアーでも本盤の楽曲は無視された。
 1stの手探りアンサンブル、そして2ndのバンド一体感を強調。どちらも散漫さがちらつき、成功したとは言い難い。

 ボブは既にBostonを持て余し気味だったんじゃなかろうか。

 奇麗に言うとクリスを再生工場になぞらえ、ソロ名義のトッド工場の楽曲とは別の方法論で、Bostonで新鮮な創作力の可能性を模索してたのではないか。
 本盤からはMVも残ってる。ビジネス的なヒットもソロと異なる方法論で、ボブ(か、スタッフの誰かが)さまざまなアプローチを試してたと想像する。

 今聴きかえすと少々、上滑りさも漂う盤だ。個々の楽曲は楽しめるのだが。
 一分半程度の小品が6曲、3分以上の曲も4曲(うち1曲は2:59)と16曲入りながらバランスは意識して曲を並べてるようだ。

<全曲感想>

1.   Pluto The Skate 

 ボブがエレキ・ギターでもクレジット。GbVDVによればアルバム"Power Of Suck Demos"(1995)にて既に存在した曲らしい。なお本盤はデモのみで企画は立ち消えたという。
 コラージュのように複数のブロックが明確に表情を変える。高音の爽やかなブロックと、歪んだギターの重たいフレーズが交互に登場した。ストリングスが崇高なムードを盛り立て、すぐさまディストーションで汚す。このバランス感が面白い曲。

2.   How Wrong You Are 

 当時、MVも製作された。https://www.youtube.com/watch?v=3q3_qp2EU78
 確かにシングル並みのかっこいいキャッチーな曲だ。普通の4拍子だがフレーズの譜割が拍マタギっぽく、ドライブ感が強調された。
 とはいえ今一つ演奏に覇気が無い。なぜだろ。ドラムのタイトさがバラついてるせいか。

3.   Radical Amazement 

 ぱしゃぱしゃとリズムボックスみたいなドラムに誘われ、ファルセット気味にボブが歌う。一筆書きメロディが炸裂した小品・・・と言いたいが、実際は3分半弱かけてじっくりと演奏された。
 淡々とミニマルな展開に馴染めるかどうかで、本曲の評価は変わる。

4.   Found Obstruction Rock N' Rolls (We're The Ones Who Believe In Love) 
 やたらシャキシャキと高音強調で、元気いいロックンロール。歌とリフの掛け合いで疾走してく。ライブで映えると思う。
 リフはサイケ風味まき散らし、ふわふわと浮かばせるアレンジやミックスなど、曲構成のシンプルさに比べ、録音は凝っている。

5.   Question Girl All Right 
 
 基本、弾き語り風の綺麗なバラードだ。穏やかにメロディを置いて行くボブの歌声が心地良い。Bostonでの必然性は薄いけれど、さりげない名曲だ。
 よほどボブも気に入ったのか、本盤最長の4分17秒に仕上げた。2コーラス目からバンドが入り、しだいに演奏は厚みを増していく。
 サビですっと音が減り、やがて復活するアレンジが個人的には凄い好み。

 アレンジが丁寧だ。曲調は平歌とサビの繰り返しだが、演奏は同じ編成を繰り返さず、フィルや楽器編成も場面ごとに細かく変え冗長さを注意深く回避した。ボーカルも後半でハーモニーを混ぜている。

6.   Let It Rest For A Little While

 R.E.M.のPeter Buckや、Keene Brothersでボブと組んだTommy Keeneがギター・ダビングで参加した。
 この録音にはR. Walt Vincent とThe Young Fresh FellowsのScott McCaugheyがダビングのプロデュースでクレジットあり。Robyn Hitchcock & The Venus 3名義で、Peter Buck/Scott McCaugheyが同じバンド仲間の関係か。
  この曲もMVが製作された。 https://www.youtube.com/watch?v=iuAHYSskskY

 ギター数本を分離良く、音数多い割にすっきりとミックスしてる。サビでボブの高らかに歌うところも効果的だ。本盤で群を抜いて丁寧な録音仕事だ。ローファイな耳ざわりだが、明らかに音の質感が違う。ちょっと軽めだけど。

7.   Trashed Aircraft Baby

 数奇な曲、かもしれない。"Suitcase"(2000)で Bus Of Trojan Hope名義の"Trashed Aircraft"でまず発表。1992年の録音とある。
 その7年後、"Hardcore UFOs"(2003)にて"Do the Collapse"(1999)のアウトテイクとし、デモ・テイクが再び発表された。
 17年の歳月を超えてついにリリースの本テイクは、"Suitcase"ver.とさほど歌詞の違いない。ギター・リフも一緒。曲への不満じゃなく、単に折々でリリースしそびれただけ、、か。

 メロディアスなベースが、さりげなくオブリを混ぜる。ドラムはしゃっきりと野暮を両立させる。Bostonらしいサウンドだと思う。歌メロは一筆書き風味なボブの味。
 
8.   Psycho Is A Bad Boy

 このアコギもボブの演奏。生々しくざくっとかき鳴らす響きは、たしかにスリルある演奏だ。
 メロディも演奏も力が籠ってる。シンセのホーンで味付けした小品。意外と好きになる。
 
9.   Godless 

 エレキのシンプルなストロークに、リバーブたっぷりの歌声を載せる弾き語り風の曲。
 オブリを弾くギターとシンセをダビングし、清らかなムードを演出した。これも良い曲。

10.  Meddle 

 この曲も"Suitcase"(2000)にてBen Zing名義の88年に録音なデモが発表済。新たにドラムのイントロを付けて録音し直された。
 拍頭にアクセントを置き、次々畳み掛ける譜割が力強い。といってマッチョなロックに仕立てず、どこか宅録風の寛ぎを出すボブのセンスはさすが。
 軽やかに体が動く譜割を、ドラムがきれいに後押しする。これもBoston風の典型的なアンサンブル。

11.  Go Inside 

 こちらもScott McCaugheyが鍵盤と共同プロデュースでクレジットあり。マスターを送ってダビングは相手任せ、したがってプロデュースのクレジットも必要って事情ではなかろうか。
 歌の譜割は最初に8分音符で一節、次に4分音符を強調と半分にテンポを落し、さらに次のフレーズでは8分音符を復活させる。つまり一曲の中でメロディがテンポを揺らす工夫を施した。
 演奏ビートは一定のため、したがって妙に淡々としたバッキングの上で、メロディが躍動するムードが出る。

12.  Mr. Ghost Town 

 これもきれいにバンド・アンサンブルが決まってる。ライブで映えたろうに。
 はっきりとメロディが全面に出た。ボブはシャウトせず、無造作に歌っていく。ハイトーンの伸びやかさもボブの魅力だが、ここでは煮え切らない。
 安っぽいオルガンが加わるあたりから、60年代ポップス風の瑞々しさへ音風景が変わって楽しかった。

13.  Return To Your Ship 

 英国風のメロディをエレキギターの弾き語り風味でアレンジした。背後でごおっとノイズ風の響きが味わい添えてる。この世界観はユニークだ。Bostonで無く、ソロでやったら、とは思うが。
 リフレインの3連コーラスも面白いし、ねっちり盛り上げて欲しかったぞ。

14.  Exploding Anthills

 再録音の一つ。92年録音でGrabbit名義のテイクが"Suitcase"(2000)に収録されている。
 ローファイさはそのままに、くっきり聴けるよう仕上げた。中間部は転調かな?奇妙な浮遊感が楽しい。これもバンド・アレンジがきちんとハマった。
 ただし声のオブリなど細かいダビングも施して、ちょっとねちっこいアレンジなためバンドのみ、な印象が薄れてしまってる。

15.  The Comedian 

 QuasiのSam Coomesがギター・ソロでゲスト参加した。終盤のソロがそれか。
 伸びやかなメロディがサビ前で畳み掛ける作曲術がかっこいい。これもアンサンブルがハマっている。テンポはきっちり出されてるが、ビート感がなんとなく希薄とユニークな印象を受けた。

16.  A Good Circuitry Soldier

 この曲も91年録音がEric Pretty名義にて"Suitcase"(2000)に収録。
 穏やかに盛り上げていく構成で、基本は弾き語りに肉づけだ。ただしメロディアスなベースとドラムのコンビは、ここでもきれいにまとまっている。
 サビでさらに風景が変わる、ボブの作曲も素敵な一曲。
 

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