Guided by Voices

"The Crawling Distance" Robert Pollard (2009:Guided By Voices Inc.)

Vo:Robert Pollard
Instruments:Todd Tobias

 ボブにしてはじっくり曲を練り上げた、傑作アルバムだ。
 GbVの瞬発力とも異なる、荒っぽいBoston Spaceshipともあえて、ソロで違う世界観へアプローチを変えたかのように。

 一曲を長めに数分単位で仕上げた。短い曲の寄せ集めと数分単位の曲集めを、たぶんボブは意識的に分けて、以降はソロの中でも別々に分けて発表していく。
 "Robert Pollard Is Off To Business"(2008)に続くコンセプトで、"Jack Sells The Cow"(2012)くらいまでのあいだだ。ちょうどこれはその真っ只中な時代のアルバム。

 演奏はトッド・トバイアスの多重録音、歌のみボブのソロではお馴染みなスタイル。
 名バラード(5)の印象が強く、ほんのりメランコリックなムードを持つ。
 Bostonのツアーで演奏された(4)以外、本作収録曲のライブ演奏は無いようだ。

 08年6月のソロ作"Robert Pollard Is Off To Business"ぶり、09年1月に本作は発表された。このあたりのボブの活動を時系列でまとめてみよう。

  08年7月:Carbon Whales名義の1st"South"
      9月:Boston Spaceshipsの1st"Brown Submarine"
 9〜10月にBostonでツアー
   10月:Circus Devilsの6th"Ataxia"

 09年1月に本作をリリース

   2月:Boston 2nd"The Planets Are Blasted"
   4月:Circus Devils 7th"Gringo"
   6月:Cosmos名義で"Jar Of Jam Ton Of Bricks"

      8月:ソロ"Elephant Jokes"
   10月:Boston 3nd"Zero To 99"
   11月:Guided by Voices "Suitcase 3"

 CircusとCarbon、Cosmosは別扱いとして、Bostonの活動まっしぐらの中、唐突にソロが挿入のかたちでリリースと分かる。たぶんBostonツアー終了後に本盤の録音だろう。それでもいきなりのソロ。短命に終わったBostonの音楽へ違和感が既に、ボブの中にあったのか。

 演奏録音はトッドに任せで、ある程度は並行作業で進んだかもしれない。とはいえせっかく作ったバンドへ集中し盛り上げるべきときに、いかにも不自然なタイミングだ。
 トッドの録音は本作でも多重録音と思えぬ、バンド的なドライブ感が全開になっている
 だから皮肉なことに、ボブは二つのバンドを平行し走らせてるように聴こえてしまう。

 そのうえトッドの手腕ゆえに、本盤はライブ盤のようなドラマティックさと(5)を筆頭のメロウさで、とても聴き応えある傑作アルバムに仕上がった。
 重厚な曲も高音をしゃっきり立ち上げ、歯切れ良いサウンドになっている。

<全曲感想>

1.   Faking My Harlequin

 一瞬の不協和音っぽいタメを見せたあと、おもむろに疾走が始まる。抑え気味のムードだが。
 シンセの白玉とギターリフでサウンドに厚みを出した。スネアのエコーを深くして奥行を演出、ライブの幕開けっぽいムードが漂う。これが本盤の最後で効き目出る。

2.   Cave Zone
 
 中盤でリズムを抜き、ペースの起伏を出すことでドラマティックさが際立った。さらに大サビでの高らかなシャウトがかっこいい。
 譜割がブロックごとに変わり、めまぐるしいメドレーのよう。かっこいい曲だ。 

3.   Red Cross Vegas Night

 アレンジが素晴らしい名曲。ギターのアルペジオが全面に出た、滑らかなバラード。語りかける柔らかな優しいメロディが良い。後ろでうっすらと響くシンセが柔らかく包んだ。しかも複数のフレーズを足し、複雑に聴かせる。
 唐突にドラムはいり、賑やかになるギャップも見事。ダブル・トラックで甘く鳴らすハーモニーも素敵だ。

4.   The Butler Stands For All Of Us

 Bostonの最初で最後の08年のツアーでも演奏された。なのにソロ名義に収録するあたり、ボブの感覚が良くわからない。アレンジの問題か。

5.   It's Easy

 名曲。ボブにしてはまっとうに、とろっと甘いバラードだ。メロウさゆえにソロ名義かもしれないが、Bostonでの名刺代わりに良かったのでは、と思う。
 リバーブどっぷりのギター弾き語りから初めて、だんだん楽器が増えていく。ほんのりサイケな色合いを混ぜたのは、トッドの手柄か。ぱさっと乾いたスネアの響きも効果的だ。 
 サビで雰囲気を少々硬めに軸足置きかえ、一曲の中で様々な表情を詰め込んだ。
 

6.   No Island

 しっかりドラムとギターでビート感は出してるが、これもどちらかと言えばバラード的なアプローチ。ちょっと頼りない歌声が上昇していき、"...again,"と落す。このリフレインが最後にキッチリ高く当て、サビへ雪崩れる。この作曲術が美味しい。

7.   By Silence Be Destroyed 

 ストロークとフレーズを左右でうまく組み換え、鮮やかな対比とスピード感を演出したイントロから、耳を惹く。ボブは言葉を次々畳み込み、サビでふっと譜割を広げて宙に舞う。
 サビでボーカルを幾度も重ね、パーティ的な盛り上げの直後で奇妙に上下するリフレインを加え、落ち着かなげに世界を揺さぶる。

8.   Imaginary Queen Anne 

 これまた美しいミドル・テンポのメロディな曲。キックを密やかに伴奏へ埋め込み、シンバルを強調しつつもドライブするドラムがキュートだ。

 甘やかな旋律は、一瞬の隙もない。小細工やおふざけなし、まっとうにボブは曲を紡いでく。サビ前のわずかに不安げな揺らぎや、中盤の声の震えすらも、楽曲の世界観構築に一役買っている。

 なによりも繰り返しで無闇に盛り上げず、一通り大きなヤマを作った後は終わらせる。そんな潔い創造主っぷりが素晴らしい。とても好きな曲。

9.   On Shortwave 

 弦が鈍く響き、リズム隊もいるがビート性は無い。空虚にぽおんと突き放す、プログレみたいなドラマ性を持った曲。
 中盤でオーケストレーション的なアレンジが、バンド寄りにシフトしてしだいに収斂していく。
 最後はフェイドアウトを長めに使い、収束させず消えて行った。

10.   Too Much Fun (Is Too Much Fun)
 
 ライブの終わりみたいな掛け声。アルバム・タイトルもここで叫ばれる。ドラマティックなアルバムの締め方だ。
 威勢のいいロックンロール。拍裏を多用した手数多いシンバルで賑やかさを出しながら、テンポを変えず譜割を緩やかにしたり、鍵盤アルペジオ中心に透明感を演出したり。
 トッドのアレンジ術も細かく気を配られている。
 

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