Guided by Voices

"Standard Gargoyle Decisions" Robert Pollard (2007:Merge Records)

Producer - Todd Tobias
Instrumentation And Noises - Todd Tobias
Vocals - Robert Pollard

 コンパクトなサイケ・プログレ集。1〜2分でドラマティックに仕上げるトッドのアレンジ力と、メロディをひたすら放出するボブの作曲力が詰まったアルバムだ。
 ロバートの過去作と比べても、爽快なロックより場面転換多い、ぬるぬると変化してく曲が多いように思える。そのぶん、つかみどころが難しい。猛烈な名曲が無い。

 "Coast To Coast Carpet Of Love"と同時発売の17曲入りアルバム。ネット上では本作を先に語られることが多いため、ここでも本盤を先に書こう。
 収録は約39分でLPにぴったりだが、数曲抜けば"Coast To Coast Carpet Of Love"と合わせCD一枚に収まったはず。
 たぶんボブはCDじゃなくLPにこだわってる。時代の流れは全く気にせず、膨大なアナログ盤で(ときにアナログ限定で)、ボブはリリースを続けていく。

 本盤も"Coast To Coast〜"も、"Silverfish Trivia"のオリジナル構想から外された曲を含む。その意味で、元は大きな一つのプロジェクトと見るべきだ。
 具体的には「06年ツアーで初演曲のアルバム収録と、その後の新曲発表集」として。こう書くと、あんまりプロジェクトっぽく無いが。

 本プロジェクトのしめくくりが07年12月1日のライブ。この手の曲が祭りのように、片端から演奏された。GbVDB上だと、この日にしか演奏されてない曲が多数。MP3でこの日のライブ音源が公式リリースもされてたが、いつのまにか閉鎖され入手不可能になっている。無念。

 時系列で整理する。ボブの創作力はとどまることなく、07年は凄まじいリリース・ラッシュだった。
 まず07年4月が"Silverfish Trivia"の発表。直後にボブは、新レーベルHappy Jack Rock Recordsを設立し『6月から月例7"シングル』構想を発表、実行した。購買ルートは自らのレーベル経由にて。

 本盤と"Coast To Coast〜"は、その合間にリリースされ、本月例シングル集のA面曲を収録する受け皿となる。なおB面は全てアルバム未収録。
 発表曲集をGbVDBからコピペする。☆が本盤、★が"Coast To Coast〜"収録。ほぼ交互/両アルバムから平均的にA面曲は選曲された。

[2007]
★June 22 - HJRR-1 Rud Fins b/w Piss Along You Bird
☆July 22 - HJRR-2 Spider Eyes b/w Battle For Mankind
★August 22 - HJRR-3 Current Desperation (Angels Speak Of Nothing) b/w Met Her At A Seance
☆September 22 - HJRR-4 Pill Gone Girl b/w Coast To Coast Carpet Of Love
   *本盤と"Coast To Coast〜"発表*
☆October 22 - HJRR-5 Shadow Port b/w Be In The Wild Place
★November 22 - HJRR-6 Count Us In b/w Sixland (John Shough Verison)
★December 22 - HJRR-7 Dumb Lady b/w Street Velocity
[2008]
★January 22 - HJRR-8 Youth Leagues b/w Spirit Of The Fly
☆February 22 - HJRR-9 Folded Claws b/w Speak Again
★March 22 - HJRR-10 When We Were Slaves b/w Battle For Mankind 2
☆April 22 - HJRR-11 The Killers b/w Revolver Tricks (Stanley West)
★May 22 - HJRR-12 Miles Under The Skin b/w Frostman (Long Version)

 ちなみに本シングル・シリーズ集は2013年に7"ボックス"Cock Blocking The Romantics"で再発された(ぼくはアナログ買わないので、未聴)。

<全曲感想>

1.   The Killers
 
 "Silverfish Trivia"のVer.3までは収録予定だったが、最後には外された曲。第11弾のシングルに選ばれた。06年ツアー時点で、一度だけライブで演奏もされた。

 トッドの一人多重バンド路線が抜群に効果的だ。賑やかに鳴るハイハットが目立つシンプルなドラムを、地道にベースとギターが支える。ドライブするギターのカッティングを、ちょっとドタバタなドラムが煽る格好だ。

 しかしフレーズのダビングでスパイスの挿入もトッドは忘れない。さらにシンセも背後で風をうっすらと吹かす。
 ひしゃげたボブの歌声とクロスフェイドでシンセも現れる。短いがメリハリ効いた曲。

2.   Pill Gone Girl 

 しゃっきり歯切れ良いリフのロック。エンディングのリフレインが甘酸っぱくて好きだ。 イントロの鋭さと違う。
 フィルター加工されたボブの声は、ギターと上手いこと溶け合い馴染んだ。楽曲全体はさらに細かくブロック分けされ、組曲っぽい。2分半の曲ながら。
 第4弾のシングル曲。

3.   Hero Blows The Revolution 

 これまたブロック分け組曲風の、大胆な構成。ためらいがちなブレイク・ビーツ風のイントロ処理から、暗いムードとパワフルな歌声へクルクルと世界観が変わる。
 むやみに冗長へ行かず、数分でまとめつつも逆に短さも感じさせない。この辺、トッドとボブのセンス勝ちだ。

4.   Psycho-Inertia 

 金属質なスネアとシンバルに誘われる、アップテンポ。パンキッシュなムードだが、リズムに軽やかさを持たせて余裕を見せた。
 サビ前後でテンポチェンジも入れ、ちょっとイギリス風味も。メロディが硬質で起伏の薄目さが、シンプルさも強調した。調子っぱずれに聴こえるが、実はメロディアスとややこしい。

5.   Shadow Port 

 第5弾のシングル曲で、バンド・サウンドで一転して甘く歌いかけるタイプ。本アルバムでボブの歌声は、曲ごとに細かく音色調整を施した。
 じわじわとテンポが落ちていくような、ポンピング・ブレーキ風のアレンジが気持ちいい。
 ボブはダブル・トラックで空気を揺らがせる。単音でシンプルに響くエレキギター・ソロから、左右の一人掛けあいリフレインの部分が耳に残る。

6.   Lay Me Down 

 凝ったアンサンブルのアレンジが聴きもの。所々、ユニゾンで決めまくるとこがナイス。メロディはアイディアを奔放に展開さす、ボブ流の一筆書き。
 ほんのりバグパイプみたいな音色のギターを軸に連打を決め、全休符からじわっと曲に戻る構成を、一人多重録音で自然なアンサンブルに仕上げるトッドの手腕が凄い。
 
7.   Butcher Man 

 喉を詰まらすボブの歌でエレキギターの弾き語りなデモ風のパターンをイントロに、がらがらと曲調が変化する。サビの晴れやかなメロディで行けば、いかしたロックになったろうに。
 ボブはすぐさま曲調を低くさげ、トッドが輪をかけて混沌の味をふりかける。
 単調なデモかと甘く見たとこで重く変わり、ポップに展開と期待させては沈ませる。古ぼけたジェットコースターみたいな曲。そこが、面白いけどね。

8.   Motion Sickness Ghosts 

 もそもそと噛み砕くような無骨さを持つ。ギターソロのどうどうさや、合いの手の掛け声でサイケにも聴こえる。
 鈍いキャッチーさだ。しかしトッドは曲ごとに細かく、シンバルのタイプやギターの音色を変えてるな。
 ここではオープン・ライドと硬質なハイハットの刻み。ギターはザクザクとざらつく。さらにオブリに数本を使い分けダビングする細かさも。

9.   I In The World 

 コロコロと弾むリズムが小気味よい。ひしゃげたボブの声に誘われ、バンドがドライブする。
 シンプルな構成だが、それゆえに耳に残りやすい。付点のリズムが鍵だ。ベースとギターのアクセント位置を変えウネリを基調に、サビで二つの楽器が寄り添い力強さを強調するアレンジが魅力。

10.  Here Comes Garcia 

 アイディア一発か。ずうんと重たいキメを幾度も繰り返しつつ、ボブが歌い散らす。サビのコーラス・フレーズも盛り上がりそうなのに、まったく大切にせずあっという間に次に向かう贅沢さが、ボブだなあ。
 ライブ映えしそうなのに、いまだステージで取り上げられておらず。

11.  The Island Lobby 

 これも曲自身が一筆書き風につぎつぎと表情を変えていく。トッドもバンド・アレンジはあきらめたか、ギター・コンボながらリフで強引にまとめず、曲に沿った展開を場面ごとに施した。
 ちょっと影をまとった物悲しさが曲からにじみ出る。

12.  Folded Claws 

 第九弾のシングル。つかみどころ無いミドルテンポの曲だ。
 場面転換を数度施すメリハリあるアレンジに、終盤での静かな雰囲気が醸し出す穏やかなムードを作った。ギターのウネリを筆頭とした空気の揺らぎが耳に残る。さりげなく歌い上げるボブの節回しが涼しげに響く。
 だが聴いてるうちにエンディングへたどり着いてしまう。

13.  Feel Not Crushed 

 雄大な世界を複数、重ねたギターの広がりで表現した。曲そのものは前曲同様に一筆書きなボブ流のサイケな世界だ。
 ギター・アルペジオを背後にダブル・トラックで声を電気加工した歌の部分と、しっかりしたエイトビートとギター・ストロークを背後にカラッと歌う部分が一つにまとめられた。
 これらを平歌とサビ、と区別してもいいが、曲聴いてると複数のブロックを強引に一曲へまとめたってイメージの方が強い。

14.  Accusations 

 息止めて水の中を泳ぐようなスピード感ある冒頭から、テンポがガラガラ変わって緩急決める構成に翻弄される。ゆっくりめのコミカルなポップさもボブの味。
 ここまで聴いてきて、ビートルズに代表される60年代英国ポップらしさが、そこかしこで滲む。ボブは基本的にパーティ・ロックを基調に、奔放なアイディアを強引に詰め込む豪快なアメリカンの両面を綺麗に出したタイプと思ってた。

15.  Don't Trust Anybody 

 フラットな歌声へダビングした声が茶色い彩りを添える。テンポ一定だがコード変更の瞬間に風景変わる爽快さあり。そのくらい、シンプルな構成。平歌はベースが動きつつ単調なギターのリフが続く。
 ボブのコード進行のセンスと、鮮やかな物語性を付与するトッドの腕前が見事。
 楽曲的に、本盤では地味なほうだが。

16.  Come Here Beautiful

 呟く弾き語りをリボン・シンセや鍵盤がドリーミーに色づけた。穏やかなサイケ・バラード。
 ボブは籠り気味の録音であっさり歌う。このタイプの歌が本アルバムで、本来は並んでたんだろう。
 トッドはアレンジを味付けに留め、なにも加工しない。だから本盤でのボブの素朴な作曲術が見事に広がった。

17.  Spider Eyes

 第二弾のシングル曲。豪快、ここに極まれり。二つのブロックを組み合わせた瞬間は、トラック自体別の作品を結んだくらいの強引さだ。
 サビでのパンキッシュな爽快感は格別のキャッチーな曲。
 しかし強引な構成が本曲をいびつな異物感をプンプンと漂わす。
 

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