Guided by Voices

"Space City Kicks" Robert Pollard (2011:Guided By Voices Inc.)

Producer, Engineer, Mixed By - Todd Tobias
Bass, Drums, Guitar, Keyboards - Todd Tobias
Vocals, Guitar, Written-By - Robert Pollard

 ボブのソロは観客を意識してるのだろうか。単なる日記みたいなものか。本盤のリリース意図を考えるが、謎が深まる。そもそもアルバムごとに音楽性を変えてるかも、謎だ。たしかにアルバムごとで微妙にアレンジや方向性は違う。しかし、それは狙いか。トッド・トバイアスの趣味やアレンジに、ボブのどのていど関与してるのか。歴代ソロ・アルバムの作成経緯を概観したインタビューを、読んでみたいものだ。

 本盤は11年の1/18に発売された。2ギターのロック・バンドなアレンジで、キャッチーなメロディの曲がいくつもある。変に密室に籠った実験性よりも、ライブで映えそうな楽曲が多い。
 サウンドそのものは、一人多重ながらバンド・サウンドを上手く演出する、トッドの多重録音が成功した。まさに本盤をひっさげてのツアーって、すごく楽しそう。

 ところが。GbVdbによれば、本盤収録曲がライブで演奏された形跡はない。本盤が発売される4日前、1/14を皮切りに「再結成Guided by Voices」のツアーが始まった。"The Hallway Of Shatterproof Glass Tour"と銘打たれ、断続的にこの年9月まで。 なのになぜ、1/18にソロを出す。なぜ、ライブでやらない。なぜ、GbVへ本盤の曲を提供しない。謎だ・・・。
 ビジネス展開とか、バンドの充実性とか、タイミングとか、一切無視してる。本盤が実験的でパーソナルな楽曲群なら、まだわかる。だけど本盤収録曲は、ステージで映えそうなのに。
 
 そしてボブはGbVリユニオン・ツアーの真っ最中、さらなるソロ"Lord Of The Birdcage"を、同年6月にリリースする。
 あまりにも本アルバムが不憫だ。もっと脚光を浴びるべく、じっくり売って盛り立てられたと思う。いがいと入門編にもふさわしい、良い曲が詰まったアルバムなのに。
 ボブの無頓着なソロ・アルバム遍歴として、いかにもな展開の盤だ。

 ごく短い楽曲ばかり、全18曲。ボブの溢れだすメロディ・センスを40分弱とコンパクトにまとめた。
 トッドが丁寧な多重録音のバンド・サウンドに仕立てたため目立たないが、デッサン集のよう。どうせなら後のgbvアルバムに正式収録する楽曲の素材にする、みたいな立体的に楽しむ方法も思いついたが、ボブはそんな方法論を選ばない。

 あくまでその時、作った曲をアルバムにまとめる。そんな感じ。曲そのものに統一感は無く、とっ散らかっている。
 それをアルバム一枚にまとめたのが、トッドの手腕。バンド・サウンドを本盤では丁寧に仕立ててる。ギター数本に鍵盤の6人組コンボを想定か。たまにバンド・サウンドを外れた多重録音や実験的なアレンジを混ぜて、流れにメリハリをつけるのも忘れてない。

 非常にプロデュースされ、かつオーバー・コントロールに至らない。繰り返し聴くほどに、丁寧な作りに感じ入った。

<全曲感想>

1.   Mr. Fantastic Must Die 

 本盤はアルバム構成も変だ。冒頭から、奇妙な耳ざわりの曲を突っ込む。もっとポップに行けばいいのに。この曲は性急に前のめりなビートが基調で、なんだかふわふわと漂うサイケなボーカルとニューウェーブっぽい抽象的なギターソロが飛び交う。
 さらに歌声よりもギター・ソロをメインに持ってきた。とっ散らかった本盤を象徴するかのよう。
 もっとも聴いてくと、この曲は丁寧にアレンジされたと分かるのだが。そのまま空中分解のように終わる。

2.   Space City Kicks

 アルバムタイトル曲。ブルージーに付点音符でリード・ギターがリフを刻み、オブリをサイド・ギターが入れる。サビはメロディ感の希薄な旋律だ。大サビでタイトルを高らかに多重ボーカルで歌い上げる。
 うっすらと鍵盤で厚みを出して、これまた一人多重ながら見事なバンド・サウンドに仕立てた。ポップさは控えめだが、ライブで映えそうな気もする。アウトロにはSEも混ぜた、やたらドラマティックな仕上がり。さすが本盤でも有数の長尺、"2分30秒"もかけただけのことはある。

3.   Blowing Like A Sunspot 

 前曲からメドレー風の本曲は、甘酸っぱいメロディの名曲。エレキギターの弾き語りっぽい演奏ながら、後ろに鍵盤を配置してドリーミーさを強調する。途中からドラムやベースも加わり、しっとりと盛り上げてく演奏も見事。
 なによりメロディが柔らかく素敵だ。途中からのダブル・トラックも効果的。

4.   I Wanna Be Your Man In The Moon

 これもライブで映えそうな良い曲。ポップで小気味よく、冒頭のAメロはシンプルなギターとドラムのみで軽く締めて、Bメロからバンド風に盛り上がるアレンジもかっこいい。
 流麗なメロディの断片だけつまみ上げたようなAメロと、多重ボーカルで爽やかに駆け抜けるサビの対照的な世界観もばっちりだ。シングルにもなりそうな良い曲。

5.   Sex She Said 

 ビートルズの"Sexy Sadie"をもじったようなタイトルだ。歪んだギターで呟くように歌う。決してポップな曲ではないが、本盤で最初に印象深く耳に届いたのがこの曲。
 なんだか途中で調子っぱずれなボーカルも、安っぽいリズム・ボックスも効果的なアレンジだ。
 この軽いつくりで行っても良かったが、中盤からきっちりバンド・サウンドに仕立てるのはトッドの律義さゆえか。

6.   One More Touch

 冒頭の爽やかなギター・ストロークで一気に歌の世界観へ持っていく。これも良い曲。呟き気味の地味なAメロが、背後のシンセと混ざって夢見心地な風景を描いた。シンプルなリフを積み上げ、疑似バンド・サウンドは奥行を創る。決してテクニカルではないが、深みあるアレンジが良い。

7.   Picture A Star

 ヘンテコな曲シリーズの一環。調子っぱずれな和音感で、アイディア一発風に、どっぷりリバーブにまみれたボーカルが強烈なサイケを描く。
 アレンジは面白い。ベースがやたら単調にスケールをなぞるような四分音符を紡ぎ、奔放なギターやドラムが暴れつつ、互いの周期がたまに合致して着地するかのよう。
 リズム的に複雑ではないが、疑似ポリリズミックなアプローチを感じた。

8.   Something Strawberry

 これまた名曲。甘酸っぱいメロディ・センスが炸裂した。ライブで、GbV名義で盛り上がりそうな曲なのに。結局ボブはこの曲を、本盤に埋もれさせてしまう。
 つんつんツマミながら、軽やかにメロディは跳ねていく。

9.   Follow A Loser
 
 重ためのギター・リフ。ポップさは控えめだが、これもボブ風のどこかねじれたメロディが前に出た一曲。ライブやGbV名義で映えると思うがなあ。
 曲調は比較的単調で、アイディア一発でできたかのよう。同じメロディをひたすら繰り返し、サビでわずかに変化させる。その捻った最後の旋律の配置が、独特で魅力的なんだが。
 ギター弾き語りで成立するが、敢えてトッドはバンド・サウンドに仕立てた。

10.  Children Ships

 ヘンテコ寄りの曲。フェイドインで始まるこの曲は、単調なタム回しと噴き上がるようなギターでイントロを作る。どこか性急なメロディをボブはじっくり歌う。
 サビあたりで一部の小節はビートを消して、リズムの希薄さやメリハリで不思議なムードを演出する。ポップではないが、この幻想的な世界もボブ、だ。

11.  Stay Away 

 ライブ映えしそうな曲。ドラムが威勢よく駈け、ハイトーンのボーカルがシンプルなメロディを繰り返す。ボブだからこれを一曲に仕立ててしまうが、普通のミュージシャンなら例えば、これを平歌やバックリフに配置にして、もっと複雑な曲にするんだろうな。

12.  Gone Hoping

 どっちかと言えば、ヘンテコ寄り。アコギな合間にドラムをずしんと混ぜて、落差の激しい世界観を交互に提示する。ドラマティックさでなく、唐突さや極端ぶりを演出のように。
 本来、呟くような小品がこのアレンジでちょっと目立った。アレンジの勝利か。

13.  Into It

 隙間の多いギターの爪弾きに、ベースがさりげなくメロディアスに加わり厚みを出す。
 穏やかなメロディの佳曲を、アレンジがさらに魅力増した。これも小品だが良い曲。弾き語りっぽい素朴な世界観を、柔らかなベースが頼もしく支えた。
 アウトロの小気味よい数音の刻みと、ベースの絡みも最高だ。

14.  Tired Life 

 ダルいムードのロック。ぼくは本来、この手の曲は苦手だが。ボブは比較的あっさりとやってくれるから有難い。とはいえ本盤最長の4分弱の大作だ。
 サビでの和音感が奇妙だったり、ドラムが変にモタッたり。どっちかと言えばヘンテコ寄りに仕上げた。
 ボーカルに寄り添っては離れ、多層的な音像を作るアレンジのセンスも良い。バシャバシャと荒っぽいシンバルの響きがちょっと馴染めないけれど。もっと柔らかく鳴らせばいいのに。

15.  Touch Me In The Right Place At The Right Time

 小気味よいロックンロール。シングルにぴったり。これもライブやGbV名義にハマりそうな名曲だ。長めのタイトルをそのまま連呼する歌で、構造はシンプル。
 しかしだんだん変化するバンド・サウンドのアレンジや、甘やかな世界観で聴かせてしまう。

16.  Woman To Fly

 イントロがやたら長い2分50秒の曲。エレキギターのシンプルなストロークを、空ピック風の刻みや鍵盤が彩る。おもむろに現れたボブは、丁寧にメロディを歌い上げた。たっぷりとリバーブを効かせて。
 ドラマティックなバラードを狙ったか。情緒や叙情性は消し、ドライな雰囲気だけども。耳ざわりは良いが、どっちかというとヘンテコ寄り。

17.  Getting Going

 ヘンテコ寄り。一筆書きメロディが炸裂した。着地点の見えない歌を、サイケにメリハリつけた重たいギター中心のバンド・アレンジが、違うストーリー性を付与して曲にまとめた。
 この辺は、ボブとトッドのコラボゆえの力技な技巧だと思う。ストーリーは無いのに、なんとなく盛り上がりを感じさせて面白い。細かく聴いたら、さらに楽しめる。

18.  Spill The Blues

 アコギの弾き語りで、やはり一筆書きな旋律のヘンテコ寄り。トッドは背後に唸るようなノイズを付与して、デモテープから一段ギアを上げたヒネってるロックに仕立てた。
 ボブのとっ散らかったメロディ・センスが明確に出た一曲。やっぱり本盤は、最初と最後をとっつき悪い仕立てだな。。

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