Guided by Voices

"Lord Of The Birdcage" Robert Pollard (2011:Guided By Voices Inc.)

Producer, Engineer, Mixed By, Bass, Drums, Guitar, Keyboards - Todd Tobias
Written-By, Vocals, Guitar, Artwork [Collages], Layout - Robert Pollard

 本盤の発売もやはり、謎のタイミングだ。前ソロ作から短期間でリリースされ、なおかつ再生GbVが初の"The Hallway Of Shatterproof Glass"ツアーの真っ最中。
 どうせならGbVへ新曲投入し、充実した仕上がりが欲しいのに。溢れんばかりの創作欲か、何も考えていないのか。
 GbVdbでは前盤と同じく本盤収録曲も、やはり当時から今に至るまでライブで演奏記録がない。アルバムに埋もれさすには惜しい曲もあるのだが。

 とはいえ本盤は前作とは異なり、若干だけ密室的な曲が集まった。よりパーソナルな仕上がり、かもしれない。とはいえサウンドはトッド・トバイアスのコントロールで、どこまでボブの意志があるのやら、とも言えるが。
 前作から曲をグッと絞って、全12曲。数分単位の曲を並べ、比較的じっくりと一曲に向かい合った盤だ。
  ギター・バンド一辺倒でなく、鍵盤を前面に出したりとバラエティに富んだアレンジを採用した。

<全曲感想>

1. Smashed Middle Finger

 軽やかなアコギのストロークと、静かなドラムのキック。トッドは楽曲により、明確にドラムの叩き方や音色を変えている。フォーク寄りの柔らかなメロディを、オルガン風の白玉シンセがふんわり飾った。
 前作と一転、とてもさわやかなアルバムの幕開けだ。大サビで跳ね、高まっていくメロディのきれいな風味がボブの味。

 そこで留めず、エレキギターの刻みとバシャバシャ鳴るシンバルで、ロック風に盛り上げてく展開のダイナミズムがトッド風であり、ボブの真骨頂。
 組曲のようにメロディが次々変化していく。前作ならば3曲くらいに分けたアイディアを、一曲にまとめたかのよう。フェイドアウト間際でメロディアスに鳴るベース・ラインもかっこいい。

2. Aspersion

 シンプルなバンド・サウンド。GbVに提供しても良かった。1番と2番をつなぐインスト部分の展開もシャキシャキ盛りあがって魅力的だ。比較的抑え目なメロディを、ぐいぐい押していく。
 いったんブレイク、終わりと思ったら3番に行く。そしてサビへ。前半はひとつながり、後半は断片的。アレンジのアイディアはトッドだろうか。曲構成にまで踏み込むアレンジだから、ボブの作曲段階で既にここまでとっ散らかってたのか。どっちだろう。

3. Dunce Codex 

 イントロ長めでしっとり始まる。弾き語りをバンド・アレンジに仕立てたかのよう。
 盛り上がりが無いまま、次々とメロディが現れて曲が進行していく。一筆書きメロディのボブ節だ。

4. Garden Smarm 

 さっくりとキャッチーなギター・リフ。ベースを主軸にギターが絡むアレンジが小気味よい。メロディもポップで、ライブが映えそう。サビでいったん音程が下がり穏やかな盛り上がりを見せる構成が良い。さらに"one more time♪"って歌詞も、ライブにぴったりだ。・・・しかし、ライブ演奏の履歴はGbBDBに見当たらない。残念。

5. You Can't Challenge Forward Progress 

 ちょっとトリッキーな構成。メロディともつかぬ断片が、全休符をはさみながら幕開け。このまま空白交じりで進む合間に、ギター・バンドの重厚な場面を挿入し、ぎりぎりでロック的な趣きを作るのが、トッドのセンスか。Bメロでメロトロン風のゆるやかなメロディをオブリに、少しポップに盛り上がる辺りはさすがだ。

 終わりと思わせ、じっくりの休符のあと冒頭に戻る構成が、やっぱりトリッキー。

6. In A Circle

 アコギの爪弾きで素朴な歌が紡がれた。サビで高らかに駆け上がり、甘酸っぱいフォーク・ポップに仕上げる。シンプルなコンボ編成だが、大音量だとドラマティックで雄大な風景も、この曲から見えてきたと思う。ライブ演奏の履歴は無いんだけどさ。
 ゆったりしたテンポに誘われ、温かく柔らかいムードを漂わせた。

7. You Sold Me Quickly

 重ためのアレンジだが各楽器がシンプルなフレーズを積み重ね、バンド全体で奥行ある響きを作った。うっすらとボーカルはエフェクタで潰され、迫力を狙った。
 メロディはドライであっさりと。比較的長めな曲が多い本盤では、2分に満たない小品だ。

8. The Focus (Burning)

 ドリーミーなアコギ数本による伴奏。うっすらと鍵盤の白玉も。呟き気味にボーカルが、エコーを聴かせてメロディを置いた。ゆったりと間を取り、涼やかに。
 2コーラス目からベースや奥のアルペジオで連続性を出し、より親しみやすいポップスに。メロディはさほど複雑ではないが、佳曲だ。終盤のミニマルなリフの連続に、サイケ風味も。

9. Ribbon Of Fat

 ここから中庸ロック4連発が始まる。ライブで映えそうな気もするが、ちょっとパンチ力が物足りない。この曲は唸るギター・リフと地に足ついたドラムを軸に、サイドギターが彩りを添える。キャッチーなメロディながら、ちょっと地味。
 スタジアム・クラスの大会場で、盛り上がるには良いかも。

10. Silence Before Violence

 最初は実験的に断片がつながって行き、じわじわと盛り上がるメロディの曲。シンフォニックな鍵盤は意外とボブの作品では新鮮だ。ミドル・テンポのギター・ロックに埋もれるボーカルは、サビ以外は地味。畳み掛けるベースは盛り上がるけど。
 産業ロックっぽいアレンジも感じさせるが、最後のところで跳ねずに係留する重たさが、この曲の特徴だ。アイディア一発で終わらせず、丁寧に楽器を使い分けるアレンジはさりげなく凝っている。

11. Holy Fire

 2分弱の小品。重たくも芯の抜けたドラムが着実に刻み、ギターも軽やかにかき鳴らす。全員でコード・チェンジしていく流れがカッコいい。といっても、トッドの多重録音だが。
 ボーカルが青白くひとしきり歌い、ベースがリフの主役へ。余韻漂わす響きで幕を下ろす。シンプルなメロディだが一筆書きっぽい展開だ。
 
12. Ash Ript Telecopter

 パンチあるメロディと威勢いいバンドの盛り上がりで、ぐいぐい突き進む。サビで若干メロウにとどまるが、全体はライブ映えする威勢良さとパワーを持った曲。
 ぶんぶんと腕を振るような力強いAメロのノリが、リフの四角いフレーズと対比を出した。丁寧なバンド・サウンドのアンサンブルといい、埋もれさすには惜しい曲。ちょっとメロディが単調だが、中盤で転調し華やかに盛り上がりから一転サイケに浮かぶ瞬間の響きが凝っている。
 

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