Guided by Voices

"The Planets Are Blasted" Boston Spaceships (2009:Guided By Voices Inc.)

Bass,Guitar,Keyboards - Chris Slusarenko
Drums And Percussion - John Moen
Vocals - Robert Pollard

 (2)、(6)、(7)、(14)は1stツアーで既に演奏されていた。
 物語的には「ツアーを終えバンドの結束を確認、成果を作品へ昇華すべく改めてスタジオに入った」って流れがしっくりくるけれど。
 本盤の録音はバラバラ。ギターとベース、鍵盤はクリス自身、ドラムと鍵盤は別のエンジニアが立ち、歌だけトッド・トバイアスの担当とある。この辺、あんまりバンドらしくない。
 
 ちなみにこの演奏と歌が別録音の体制は前作の1stと同じ。いわゆるボブのソロ流に先にトラックだけ終わらせ、歌を乗せるかっこうだ。
 ボブがブレないのか、トッドへ強烈な信頼感あるのか。この辺、よくわからない。演奏の録音場所は1stと異なるため、1stと2ndで違うセッションっぽいけれど。

 アルバムの印象はむしろダビングを控えて3ピース・ロックを追求した盤だ。
 もちろんギター・ソロなどは被せてるが、前作ほどバラエティに富んだ感じはしない。
 アルバムのトータル性では1stよりよほど、本作の方がまとまっている。
 
 本盤リリース前にBostonは7"シングル"Headache Revolution"を08年末、ツアー終了後のタイミングでリリースした。ぼくは未聴だが、A面が本盤収録の(7)を先行発表、B面の3曲は本盤のみの発売に留まった。
 これらシングルB面曲を09年にまとめてアルバム"Tug Of War At The Faithful Center"で発表の計画もあったらしいが、企画は頓挫に至った。

 本盤はゲストを3人招いた。GbVの盟友Greg "Canned Food" Demosが2曲でギターを弾いている。The CribsのGary Jarmanが1曲で口笛、ドラマーJohn Moenの人脈で、The DecemberistsのChris Funkが一曲でペダル・スティールをかぶせてる。
 後者ふたりはまだしも、グレッグ・デモスの参加は意味深だ。GbV再結成の意味合いにおいて。それともスタジオへ単に遊びに来ただけ? 

 Boston Spaceshipsのバンド的には本作のあと、この年のツアーはお休み。翌年2010年はGbV再結成のツアーに出る。
 つまり。Bostonのツアーは08年が最初にして最後。既にバンドは瓦解してたのか?
 この後にBoston名義でアルバム3枚とEP1枚をリリースするのだが。

 ボブは本盤の前にソロ"The Crawling Distance"、本盤の数か月後にソロ"Elephant Jokes"発表、4枚組"Suitcase 3"の編纂と、Boston以外の活動も淡々とこなしていた。
 ちなみにCircus Devilsの"Gringo"、Cosomos名義の"Jar Of Jam Ton Of Bricks"の発表もこの年、2009年。

<全曲感想>

1.   Canned Food Demons 

 威勢のいいドラムで始まるこの曲は、ボブが声を伸ばすメロディ。わずかにピッチが揺れ、どうにも危なっかしい。サビだとコーラスに支えられ、頼もしいのに。
 平歌は伸びる歌声のふらつきで、どうにもやっつけ感が強い。サビを軸に他の曲と混ぜたらポップになったろうに。

2.   Dorothy's A Planet 

 電子音の蠢きがアコギに塗りつぶされる。ドラムはイントロこそメロディアスだが、歌が始まると途端に脇役へ。ハミングは効果的だけど、メインの歌が無いと座りが悪い。
 メロディ・ラインがきれいな歌だけど、どっかもどかしい。

3.   Tattoo Mission 

 キャッチーでシングルに合いそうな曲。裏拍のハイハットがざらついたムードを醸し出す。力強くストリングスが鳴り、ゴージャスさより頼もしさを描いた。
 同じ音程がタイで結ばれつつ、アクセントをきっちり拍頭で叩いてしっかりとボブは歌う。
 終盤のエレキギターの被せがグレッグかな。

4.   Keep Me Down 

 重たいドラムとベースの絡みがドライブする。歌が取ってつけたように、クリアな鳴りで響いた。サビのダブル・トラックなボーカルがいまいちバンドと溶けてない。
 ギター・ソロはその分離良さを強調するかのように、涼やかに鳴った。
 楽曲そのものはポップで、やはりシングルに適してる。ライブでその後演奏されないあたり、ボブはさほど思い入れ無さそうだが。

5.   Big O Gets An Earful 

 ギター数本が重なった弾き語り風だが凝ったアレンジの曲。どっぷりエコー掛けたローファイな響きの歌声がムードに合っている。サビでがっつり重たいバンド・アレンジをかぶせ、影のある沈鬱さをみせた。ドラマティックで演劇的な曲。
 こういう派手に「凝ってますよ」って曲は、意外にボブに無い路線だ。

6.   Catherine From Mid-October 

 すごいリバーブかかった歌声はポップなメロディを紡いだ。一応バンド・サウンドだがアコースティック・ギターを前面に出したフォーキーな響き。
 リズミカルなアップに仕上がりそうなのに、ドラムはむしろ裏方だ。最後に響くディレイのフレーズは何なんだろう。奇妙に思わせぶりな演出。

7.   Headache Revolution 

 シンバル連打の賑やかな瑞々しい曲。Bostonらしいと思う。パワフルでシンプルなドラム、まっすぐにメロディアスなベースが。
 ただ、ボーカルはけっこう少なめ。バンド・アンサンブルのほうが前に出てる。
 演奏もバンド一発取りではなく、ギターは数本重ねられ、ボーカルもダビングありと凝っている。この辺も、Bostonらしいかな。
 事前にシングルで発表されてるし、1stのアウトテイクかもしれない。

8.   Sylph 

 ワルツ形式のロックンロール。バンドらしく盛り上げず、逆にドライなボーカルと演奏の絡みが、この曲では良い方向に出た。さりげないペダル・スティールも効果的だ。
 バンドで無く録音作品とし、プラスティックな構築性がきれいな佳曲。

9.   UFO Love Letters 

 歪んだギターにブイブイ押すリズム隊の重ためなロック。ベースが存在感を出し、歌にオブリに目立ってる。
 高音で押し倒すボブの歌声とよく合ってるが、バンド的なダイナミズムが希薄だな。
 最終1分間くらいの一人掛け声の歌とバンドの馴染みは良いけれど。

10.  Lake Of Fire 

 ボブの一筆書き的な柔らかいメロディが聴ける。単音ベースがもどかしい。イメージを類型化してしまう。ストリングスが入り、ふうわりと跳ねるムードがきれいだ。
 Bostonでなくソロに入れたほうが映えたのでは。逆に、バンド的な必然性は薄い。

11.  Queen Of Stormy Weather

 歯切れ良いロックンロール。華やかさは無いが、キュートな名曲だ。ドラムとベースは頑張ってるが、今一つドライブしないのが難点。メロディは瑞々しいし、構成もシンプルでキャッチーなのに。
 いまいち、覇気が無い。サビでがっつり盛り上がるのはシンセとストリングスの力も借りている。

12.  The Town That's After Me

 アコギの弾き語りのイントロからバンドに変わるが、あえてBostonに入れずともソロで行けそうな曲。メロディアスなベースとしゃっきりしたドラムでBostonの音で鳴ってるが・・・。
 本盤を繰り返し聴いてるうちに、どうもバンドの必然性がアルバムが進むにつれ希薄な感じが強まってきた。

13.  Sight On Sight 
 
 ビートルズな風味が漂う、趣きあるメロディが魅力的。ことさらギター・バンドっぽい力押しをせず、隙間多いアンサンブルとクロスフェイドするアレンジで、物々しいサイケな彩りで飾った。
 本盤で唯一4分を超える。ブロックごとに違うメロディを置いた、組曲風味だ。したがってあまり大曲って印象は無い。ぼおっと流してたら、ごく短い曲がまとめて進んでるかのように聴いてしまう。

14.  Heavy Crown

 最後はしっかりとバンド・サウンドでまとめた。奇しくも(1)に通じる、平歌の末尾はボブが少々不安定に声を伸ばす曲調だ。
 ちょっと大味、かな。
 サビのメロディーは、ボブ流のポップで綺麗なものだ。
 

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