Guided by Voices

"Of Course You Are" Robert Pollard (2016:Fire America)

Instruments Nick Mitchell
Vocals Robert Pollard

 新生ボブのソロ第一作に・・・なるか?
 "Fiction Man"(2004)から10年以上にわたり続いた、トッド・トバイアスにプロデュースとエンジニア、伴奏を全て任せた体制から、ニック・ミッチェルに同じ役割の相棒を変えたアルバム。録音は全てロバート・ポラードの地元な、オハイオで製作された。

 どの曲も2〜3分とそれなりの尺を持ち、むやみに小品を並べない。これは楽曲がきちんとアレンジされているため。往年のガイデッド・バイ・ヴォイシズが持つ投げっぱなしの無造作さは選ばず、きっちりと完成させたロックが並んだ。
 よく聴くと、ボブらしい一筆書きメロディが多発して、そうとうに酩酊感あるのだが。アレンジの明朗さがそれを分かりづらくして、とても親しみやすくなっている。すごい。

 今後、本体制で行くのだろうか。
 なんだかんだで怒涛のソロリリースを続けたロバート・ポラードだが、本項を書いてる時点で次のソロ作が出ておらず、よくわからない。
 
 本盤を発表後はメイン・ブランドであるバンド、ガイデッド・バイ・ヴォイシズを維持すること注力した。
 還暦を迎えてじっくりと活動する体制づくりなのか、GbVのアルバムは2018年に"Space Gun"(2018)一作と控える遠慮深さ(?)をみせた。

 だが2019年のGbVは"Zeppelin Over China"、"Warp And Woof"、"Sweating The Plague"と、アルバム3作のリリースを達成した。
 さらに2020年は"Surrender Your Poppy Field","Mirrored Aztec"とアルバム2枚を発売予定。ということで、相変わらずの旺盛な創作意欲は減じていない。

 さて本作だが。プロデュースのニックはRicked Wickyでのバンド仲間。
 ESP Ohioでも彼は録音を担当した。"Suitcase Four: Captain Kangaroo Won The War"(2015)でも数曲、録音に参加してる。
 ソロ名義盤の時系列でみても、ソロ23thアルバム"Faulty Superheroes"(2015)から、それほど間を置かず本盤の発表に至った。

 ボブがたった一人で多重録音にて再稼働した、GbV名義の"Please Be Honest"(2016)にも、ニックへサンクス・クレジットがあり。15年頃からボブの音楽制作にかかわってきたようだ。
 もしかしたらGbVを彼と二人のバンドで再始動を考えるも、結局は"一人で製作したバンド名義の再出発作"って、プロモーション的にインパクトある手法を選んだのかもしれない。
 その試行錯誤する製作方向性の副産物が、本作ではなかろうか。
 実際に、本盤から(1)(5)〜(7)(12)は2016年にGbVがツアー中、たびたびライブで演奏した。
 
 本作の方向性は、全体的に落ち着いている。老成ってわけではないが。曲がりなりにもGbV名義はライブ映えを意識し、リズミックなアプローチを根底に漂わせてる気がする。
 実験性や多様さはソロで発散させるとして。
 本盤にもその傾向があるが、八方破れさは抑えてる風に感じた。

 収録曲はどれも独特の猛烈なメロディアスさを持った、ポップなロックではあるけれど。なんだか手慣れて、まとまった作曲術が滲んでるように思える。齢60歳を控えて姿勢がかなり成熟してきたって風情な一枚だ。
 それともこういう、安定した伴奏作りがニックの特徴なのかも。

<全曲感想>

1. My Daughter Yes She Knows 2:34

 いきなりバンドっぽい仕上がり。だが演奏は全てニックの多重録音。ハイハット使いが幾分硬いけれど、達者な叩きっぷり。鍵盤でなくギターを中心のアレンジだ。
 ほんのり切ないメロディは、サビでさらに高まる。絞り上げるようなボブ節な旋律は、華やかでとてもポップ。

 しかし昔なら、もっと高らかにボブはメロディを歌い上げていただろう。こういうところに、しみじみと歳を感じてしまった。
 ただし楽曲はキャッチーで素晴らしい。最初にアルバムを聴いたときから、このかっちりと平歌からサビに行く構成が整った佳曲だと思っている。

2. Long Live Instant Pandemonium 2:23

 ざくざくと疾走するギター・リフが、シンプルで分かりやすい。縦の線がちょっとブレる気がするが、演奏テクニックゆえのご愛敬か。リズムの微細さで揺らぎを狙ったとは、ちょっと思えない。
 これも正直、ボブの年齢を感じた。いい曲なんだけど、疾走感がもどかしい。
 ブレイクから畳みかけ、賑やかにシンバルを鳴らす伴奏でボブはグイグイ攻める。だけど完全燃焼まで至らず、抑えた風情もあり。

3. Come And Listen 2:54

 チェロを中心とした弦楽カルテットが導く、コンパクトながらシンフォニックなアレンジ。これは生楽器じゃなく、シンセの演奏?白玉が伸びる響きが、妙にプラスティックだ。
 クレジットも見当たらないが、全ての弦楽器をニックが演奏ならば、それはそれですごい。リズム楽器を使わず、ピアノが軽くアクセントのフレーズを入れて幻想的な味付けを施した。

 この曲も穏やかな歌い方ながら、むしろ楽想にぴたり合った。少し寂し気でサイケなムードが、静かにじっくりと盛り上がる。弦とピアノのアレンジもぴたりハマった。

4. Little Pigs 2:27

 裏拍からコンパクトに刻む、リズミックで小気味良い曲。本項を書いた時点で、ライブで取り上げてない。まさにステージ映えしそうなのに。
 ボブは喉を張らず、ゆっくりと丁寧にメロディをなぞる。途中で出てくる、シンセっぽい音色のトランペットが中期ビートルズみたいな味わいを付与した。

5. Promo Brunette 2:23

 拍裏にアクセントを置いて、ボブ流のひねったメロディが広がる。ねっとりと絞るような旋律は、シンプルで少し引きずり気味な伴奏へハマった。
 サビでからりと明るく盛り上がるさまが素敵な曲だ。だんだん性急に盛り上がっていく。
 きっちりポップな構造を持ちながら、ボブの一筆書きメロディがカッコいい曲。
 この曲は2015年の4枚組な未発表曲集第四弾、"Suitcase Four: Captain Kangaroo Won The War"で既発だった。それは2015年録音らしいので、まさに本盤のデモ用か。
 デモ録音では少しテンポが遅い。アコギの弾き語りで、ブルージーにボブは歌う。時々途切れるのは編集かな。
 
 現在のアレンジに仕立てたのがボブかニックか知らないが、見事な料理具合。テンポを上げて本曲はグッと引き締まった。

6. I Can Illustrate 3:22

 これもステージ映えする歯切れ良い曲。軽やかにメロディが畳みかける。サビで和音もくるくると変わり、ポップでサイケな展開が良い。
 歌声はあまり叫ばず、抑え気味なのが歳を経たこの時点のボブらしい。高音も滑らかに出ているけれど。昔ならもっと派手に叫んでいたろうな。
 でもコントロールされたボーカルは、この曲に落ち着いた風味も加えた。

 終盤の伴奏もドラマティックなアレンジが素晴らしい。
 ギター・ソロからアコギのストロークにつなげるアレンジも抜群だ。シンセのブラスやチェロっぽい響きも実に見事。

7. The Hand That Holds You 2:40

 少しブルージーさを持った、ボブのメロディがじわじわと攻めてくる。曲自身はボブが一筆書き風にメロディを次々並べた風情ながら、オルガンも混ぜたバンド・アレンジが統一感を作った。
 ルーズな雰囲気ながらしっかりまとまった曲。これはもっと、早いテンポで畳みかけて欲しい気もする。しかし聴き込むうちに、この引きずるテンポ感も良いな、と思い始めた。

8. Collision Daycare 2:02

 これもライブ映えするスピーディな曲なのに、GbVDBを見てもライブで取り上げられた記録なし。残念。
 いかにもGbVらしい単音メロディのシンプルなリフに導かれ、ボブの歌がどんどん展開する。
 唐突な展開やとりとめない一筆書きなボブの作曲術を、ニックは抜群にポップな曲へ仕立てた。

9. That's The Way You Gave It To Me 2:55

 メロウなボブのメロディが素晴らしい名曲。これもライブでは未演奏らしいが、特にサビの60年代っぽい甘酸っぱい旋律が格別だ。
 シンフォニックなシンセが飾るアレンジも、シンプルで素敵。ボブの唐突な作曲術がニックのアレンジできちんと整えられた、典型的な曲。
 無造作なメロディが、ダブル・ボーカルやシンセの味付けでストーリー性を持っている。

10. Contemporary Man (He Is Our Age) 2:26

 この曲もニックの卓越したアレンジ術に唸る。(5)と同様に、本曲も"Suitcase Four: Captain Kangaroo Won The War"(2015)で、本盤用のデモが発表済みだった。
 そこではアコギの弾き語りでぎくしゃくする風情だったのに、本盤のテイクはシンセを強調して、きちんとロックしてる。もっともとっ散らかった印象はそのままなのが面白い。

 つまりニックは原曲のテイストを崩さず、アレンジに工夫で本曲を魅力的にしてる。終盤の濃密なサイケ色も楽しい。
 なお本曲はGbVDBだと"Suitcase 3"(2009)に収録の"I'm An Acting Student"とも類似と言及あり。たしかに和音感や拍頭で刻むパターンが似てる。

11. Losing It 3:07

 これもボブの思いつくままなメロディが濃厚に漂う。しかしニックは素晴らしい。さすがにエイトビートには仕立てなかったが、シンセをあれこれ配置することで、ゆったりした小節感を作った。
 幻想的な展開は、シンセの音色が古めかしくてチープさもあり。これまで、こういう曲は思い切り実験的な小品で終わっていそう。
 しかし伴奏を工夫して、それなりの構築美を作り3分のサイケなポップスにまとめ上げている。素晴らしい。

12. Of Course You Are 3:11
 
 アルバム最後は奥まった残響感を持つギターのイントロでもったいぶって始めた。
 歌が始まると、もっと生々しさあり。このイントロ付与がニックのセンスならば、感嘆する。
 ボブだとしたら、ミスマッチ感を相変わらず剛腕でまとめるな、と感服するところ。
 本曲も"Suitcase Four: Captain Kangaroo Won The War"(2015)で、本盤用のデモが発表済み。そこにはこんなイントロは無い。

 本盤のテイクはアルバムの最後を締めるにふさわしい、頼もしさを持つ。ダブル・トラックのボーカルも効果的に使い、シンプルだが力強いロックなコンボにアレンジされている。       (2020/1:記)
 

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