Guided
by Voices
"Our
Cubehouse Still Rocks" Boston Spaceships (2010:Guided By Voices
Inc.)
Robert Pollard -
vocals,Acoustic Guitar [Finger Tap] on 14
John Moen - drums, percussion,
Saxophone on 16
Chris Slusarenko - guitar, bass,
keyboards
Charlie Campbell -
Performer [The Gimmick] on 4
Nate Query - Cello on 5
Dan Adlaf -
Flugelhorn on 6
Jenny Conlee - Keyboards on 6
Jenny Conlee - Accordion on
7
Doug Gillard - Guitar on 9
Sam Coomes - Guitar on
13
バンド活動を模索した一枚。しかも本盤はまるで二つのバンドがいるかのようだ。
聴き逃すには惜しい曲が詰まってるのだが。
バンド・サウンドってなんだろう。抽象的な"グルーヴ"、それとも確固たる独自なサウンドか。メンバーのせめぎ合いか。
振り返ると、GbVすらバンドっぽさは希薄だ。アルバムごとにメンバーは変わり、ロバートの個性が強固に目立ってた。しかしGbVがバンドだったのは、トビンをはじめとしたメンバー同士のせめぎ合い。さらにライブを踏まえたギター・ロックなアレンジのおかげだ。
しかしボストンはライブの蓄積があまりにも少ない。結局ツアーは、結成当初の一回だけ。ロバートと肩を並べるほど、他のメンツのキャラクターが立ってるわけもない。
唯一、サウンドだけ。うねるように上下するベースと、溜め気味にドンスカ鳴るドラム。この味わいだけが、ボストンの個性たりえた。
ところが一曲だけとはいえ、本盤は旧友ダグ・ギラードらのゲストを数人も招いた。なぜ。バンド・サウンドに集中せず、あえて外の血をいれるのか。
つまりボブは気づいたんだろう。おそらくボストンはバンドでなく、ユニットだと。
本盤ではぎりぎり、バンド的なサウンドを目指してる。とはいえロバートは一体感ある録音は諦めた。理由は分からない。
とにかくもはや、バンドは崩壊の道を選んでいた。
本盤の録音場所はバラバラ。サウンドはオレゴン州で録音はクリスの仕切り。ボーカルはオハイオ州でトッド・トバイアスの仕切り。ゲストのダグ・ギラードのギターは、NYで録音とある。テープだけがメンバーの間を移動したかのよう。
録音時にバンドの一体感があったかすら、怪しい。
ボブ流のアルバム手法ではあるが、そのせいか本盤収録曲が、その後にボブがライブ演奏した痕跡もない。
そして本盤では、ドタスカと野暮ったいアンサンブルと奇麗にアレンジされた演奏の二面性が、曲ごとに聴ける。
具体的には野暮ったさがバンドらしさ、整ったサウンドはボブのソロ。そんなちぐはぐさが本盤にある。
本盤のどっちつかずさを最後に、ボストン・スペースシップスは墜落した。続く最後の5thアルバムはもはやゲストを大勢招いた寄せ集め、もしくはロバートのソロでしかない。
とはいえボブの作曲を集めた本盤は、楽曲のクオリティがさほど悪いわけではない。
そこがちょっと、座りが悪い。楽曲をもう少し大切にして作りこんでも良いのに。
本盤は当初、5/25の予定を遅らせ同年9/7に発売された。この数か月、ボストンの内部で最後の試行錯誤があったのかもしれない。
なおタイトルはジョイスの"フィネガンズ・ウェイク"から取られたそう。「まだ、ロックしてる」。そんな意味合いを込めての引用か。
録音が高音カチカチで痩せて聴こえるのは、ぼくのステレオ環境のせいか。ローファイとは別次元で、ちょっと首をかしげるマスタリングだ。
<全曲感想>
1.Track Star
ロバートの呟きで地味に幕を開け、バンド・アレンジに雪崩れる。ウネるベースとドタバタ鳴るドラムで混沌なサウンドへ、どこまでも伸びやかな歌声だ。
一筆書きっぽいメロディはボブの高音を強調した、涼しい雰囲気を強調する。
イヤフォンではまとまりも感じたが、スピーカーだととっ散らかった感じもした。
最後の最後、一声高らかに叫ぶボブの声が、蛇足。きれいだけどね。
2.John The Dwarf Wants To Become An Angel
ベース・ラインが浮遊するボストンらしい音。ドラムのモタりが楽曲のノリに致命的な係留さを出す。滑らかなロバートらしいメロディが前に進もうとするのに、ドラムがしがみついて抑えてるかのようだ。
楽曲としては、メロディの起伏とベースのフレーズが競い合うようにウネリ、不思議なノリを出してて楽しい。
3.I See You Coming
バンドとボーカルが異様にドライな雰囲気だ。じわっとバンドが迫り、ボーカルはするりと前へ出た。
ねっとり繰り返される旋律が、静かに進行する。歌の起伏が少なく、バンドでわずかに色を出すアレンジ。中盤のひずんだギターが加わる辺りで、音の厚みがハマってくる。
なお鍵盤やパーカッションなど、細かくダビングが施されている。
4.Fly Away (Terry Sez)
楽曲は素晴らしい。旋律は溌剌として、鮮やかに輝いた。バンドは特にドラムが別人のような乾いたノリ。クレジット上は変わらず、ジョン・モーエンだが。
ベースもあまりフレーズを遊ばせず、丁寧に八分音符を連打するアレンジっぷり。
ハーモニーも丁寧にかぶされ、すべてが書き譜のようだ。
本盤を代表する名曲。しかしボストンっぽいかと尋ねられたら、首をかしげる。
5.Trick Of The Telekinetic Newlyweds
これもアレンジが見事な一曲だ。ゆるゆる弦っぽい響きと剛腕ギター・ロックのアレンジが、場面ごとで交互に現れる。弦やチェロもふんだんに投入し、バンドっぽさとは無縁。
静かなメロディが朗々と歌われる。ロバートのサイケ好みがきれいに表れた一曲。
6.Saints Don't Lie
急にドラムのノリが後ろ寄り。シンプルなバンド・アレンジに寄り添うメロディ・ラインで平歌が進み、サビでするりと歌が前に出た。
すっと重心を軽くしたり、ドラムが派手に鳴ったり。サビ前でバランス変えるミックスも良い。
シンプルに繰り返されるメロディは、派手じゃないが、魅力あり。オルガンをバックにダブル・トラックで着実に走る、サビらしき場面が特にかっこよかった。
7.The British And The French
ギターの畳み掛けが心地良い曲。終盤でシンセが足されアンサンブルに厚みを出した。シンプルな構成だがキャッチーなメロディが繰り返され、親しみやすい。
8.Unshaven Bird
数本のギターを重ね、ボーカルも多重のエコーまみれ。切々と歌うボブの立ち位置は、バンドの必要性をあまり感じない。だがサビでリズムが加わり、一気にバンド・サウンドに。このアレンジはしびれた。サビ明けでぐっと音が狭まり、かすかに響くハウリングの音も素晴らしく効果的。メリハリやダイナミックな曲の流れが、見事に構成された名曲だ。
9.Come On Baby Grace
ここからがアナログではB面。ここでDoug
Gillardがゲストで加わった。スネアが妙に響き線を強調して軽く響く。
サビでハイトーンを絞り出すボブの歌声が爽快だ。さらに大サビっぽいフレーズに流れ、ギター数本のオブリがクイーン風に鳴る。この曲もアレンジが丁寧な仕上がり。サビでギターリフのみに絞ったブレイクから、バンド・サウンドに戻る流れも好み。
10.Freedom Rings
高音強調した明るいイントロから、場面展開し低音利かすメリハリあるミックスで派手に聴かせる。テンポは緩やかだがだんだん積み上がるサビのメロディが好き。
ドラムは一発取りでなく、シンバルやスネアを幾度もダビングしたように聴こえる。つまりバンドっぽいアレンジだが、細部まで丁寧に作った。
ブレイクでもギター・ミュートから炸裂する展開へ、ドラムの抜き出しも含めて演奏だけでなく卓の操作でダイナミズムを強調した。
11.Stunted
ボブのソロ色強い一曲。イントロの明るいギター数本からしてもう、ボストンのとっ散らかりとは異なる。ただし。注意すべきはバック・トラックの録音にボブは絡んで無さそうなクレジットなこと。つまりボストンのメンバー自体がボブのソロに寄り添えるサウンドを作れた、とも言える。
これはどういうことだろう。やはりボストンがバンドとスタジオ寄り、どちらに立つか録音しながら試行錯誤か?
ブレイク入りのメリハリ効いた曲構造は、ライブが似合いそう。埋もれてしまうには惜しい。ちょっとテンポアップした方が映える。
12.Bombadine
これも佳曲。ボストン風のドタバタしたドラムにうねるベースがお似合いだ。ホーンを足してちょっと豪華にアレンジするセンスがイマイチながら。
ふわりと浮かぶメロディは起伏が少ないのに、耳に入ってくる。音程を変えながら繰り返される"Bombadine"って言葉が、ポップな執拗さを持つ。ライブでハマりそう。
13.Airwaves
ギターの弾き語り曲を、強引にバンド風に仕立てた。かっちり構成されたアレンジで、メロディにまとわりつくさまざまなオカズが楽曲を丁寧に飾った。どこまでもボブのソロっぽい感じで、バンドらしさとは少々違う。
ディストーション効いたエレキギター・ソロはQuasiのSam
Coomesがゲスト参加した。アコギとサムのエレキ・ギターが絡まるエンディングに、ダブル・トラックのボーカルが絡むさまは、サイケで面白い。
14.Dunkirk Is Frozen
アコギ [Finger
Tap]でボブがクレジットあり。ぱっと聴きでは目立たない。イントロのカチカチした音かな?
賑やかなバンド・サウンドだ。夢見心地のボーカル・ミックスも良い。
イントロも取ってつけたようだし、終盤で唐突に鍵盤主体のバスキングっぽい音で終わる。ちぐはぐなアレンジだが、肝心の曲そのものはボブ節の伸びやかなロック。メロディアスなベースも効果的だ。これはボストンの音。
15.King
Green Stamp
ロバートの投げっぱなし作曲っぽい。瑞々しいメロディは魅力的だが、着地点に収まらないまま、どんどんと曲が進んでいく。いちおうリズムもダビングしたが、エレキギターの弾き語りでも成立したはず。
メロディ・ラインは素晴らしい。ミドル・テンポでのびのび歌う旋律は、隅々まできれいだ。まとまり無いけど、聴かせる。ボブの真骨頂がこういう曲。
16.In The Bathroom (Up 1/2 The Night)
ジョン・モーエンがドラムだけでなく、サックスまで吹いた。3分かけてじっくり演奏のこの曲は、ばっちりボストンの演奏なのに。やたらテンポ・チェンジやブレイクが多い。そのたびにノリが分断され残念。溌剌と弾む楽曲優先のアレンジかも。
ベースが力強く弾み、ドラムがどっしり打ちのめす。サックスはオマケのリフ。ギターでなくサックスを敢えてダビングのところが、モーエンの拘りか。この曲もライブで魅力増しそうなロックだ。