Guided by Voices
"Normal Happiness" Robert Pollard (2006:Merge Records)
Producer : Todd Tobias
Instrumentals : Todd Tobias
G,Vo
: Robert Pollard
肩の力が抜けた爽やかな良盤。前作"From A Compound Eye"は歌もアレンジも力がこもった傑作だが、本盤はもう少し気軽な印象あり。曲も粒がそろってる。
前作から半年後と、短いペースで発表された。35分程度と少々物足りないボリュームだが、ただし16曲もの収録。EPとは言えぬ十分な曲数であり、繰り返しを増やせばすぐさま時間は伸ばせる。
さらりと一筆書きを良しとする、ボブらしい作品だ。
年に数枚もの怒涛なソロ・リリースが始まった時期の盤。
アルバムごとのコンセプトは希薄で、たまったら出すって感じだ。本盤で言うと、06年ツアーで演奏された曲が中心で、前作に続く"名刺代わり"のソロ第二弾ってとこか。ライブで練られたあとに録音となる。
"Merge"レーベルの初回盤には40分にわたるCD"Moon"が付属らしい。中身は06年6/24の音源を中心した、ボブのソロ・ライブを収録。Amazon経由で買ったCDにはついておらず。後でこの盤の存在を知り、残念がったのを思い出した。未だに"Moon"を聴いたこと無い。
だがMP3なら今でもMergeのサイトで本盤単独の購入が可能。
Wikiで引用された当時のインタビューによると、47曲もの楽曲を書きレコーディングへ臨んだという。アルバムを作った後にメロウさを感じ、"Normal Happiness"という過度に重くも軽くもない印象な言葉をタイトルにしたという。
<全曲紹介>
1. Accidental Texas
Who
オープニングにぴったりな威勢のいい作品。
もとは"スーツケース2"で"Cowboy
Zoo"とし弾き語りのテイクをリリース済の曲。"スーツケース2"でのバンド名を曲名に変え、きっちりスタジオ再録音でリリースされた。キャッチーなメロディを切れの良いバンド・スタイルで演奏する。
しかも"スーツケース2"での2分弱から、さらに10秒ほど時間を縮めてきた。
2. Whispering Whip
面白い。英国風味の上品なヘンテコさを強調した。トビン・スプラウトの楽曲だとありそうだが、ボブには意外と無いタイプ。
繰り返される冒頭のリフは、テープ・ループみたいに聞こえる。いきなりメロディが始まり、そのまま切れ目なく唐突に盛り上がる。シンセ交じりの捻くれたポップスはXTC辺りを連想した。ギターの畳み掛けるあたりが、特に。
3. Supernatural Car Lover
爽快な楽想だ。06年ツアーでも演奏されていた。アルバム・タイトルが歌詞に織り込まれた。妙に歌声がヘナチョコだが、軽やかにドラム・キットの音色を調節したロック。ドライな音像だがニューウェーブってわけじゃない。
最後で少々テンポアップする気がしたが、多分気のせい。そもそもトッドの多重録音で、そこまで細かい録音は困難だろう。
4. Boxing About
キラキラとキュートなアレンジが施された。バンド編成だが、ギターのデモを素直に膨らませたような、手作りで個人的な感じがする。
ミドルテンポの柔らかい楽曲で、06年ライブにて演奏されたものの、その後は取り上げられていない。他の楽曲にも言えるが、もったいない。ボブはどんどん楽曲を新しく入れ替えてしまう。
ボブのダブルとシングルを入れ替える歌い方が効果を上げた。バックは基本、リフを刻みシンセがオブリを当てる格好。アコギのネックを指が滑り軋む音もいくつか聴こえ、生っぽさを強調した。
5. Serious Bird Woman (You Turn Me On)
無伴奏で歌い出し、バンドで盛り上がる。イントロでバンド風のSEまで入り、ライブで映えそうな曲なのに。
妙にダルい雰囲気なせいか、ライブ演奏は06年2/25に一回だけ、とGbVDVに記載あり。セットリスト未記載な場所ありとしたって、他の本盤収録曲に比べ少ない回数だ。
引きずるような引っかかりは、主にボブの歌い方。これをもっとシャープにしたら、キャッチーさが増す。本盤でのボブは前作と異なり、ずいぶん寛いだラフな歌声だ。
6. Get A Faceful
ここからしばらく2分前後の短い曲が続く、アイディア満載コーナー。
裏拍で叩かれる、ガラス瓶みたいなパーカッションが素朴な味わいを付け加えた。伴奏のビート感の、半分のテンポでギターが伸びやかなオブリを入れて広がりを表現した。
むずむずと甘さを漂わす、メロディの味わいも良い。着地点がありそうで、なかなか舞い降りない。
7. Towers And Landslides
普通に聴こえるが、サビ前でちょっと引っかかるようなフレーズが入る。ギター・リフや構成に軸足が置かれ、ボブの歌はむしろアレンジの一部だ。声質も少々ラフに加工されている。
シンバルが少々トロくて、バタつくリズムを表現した。しかしトッドは楽曲によってドラムの切れ味が全く違う。器用なのか、下手なのか。
8.
I Feel Gone Again
リバーブをたっぷり効かせた穏やかな曲。サビあとの余韻が素晴らしく、さらにその余韻が繰り返される。
小品だが愛おしさが滲む。複数のギターを重ねたアレンジも見事。
9. Gasoline Ragtime
大好きな曲。06年ツアーで演奏履歴は無く、本盤用に書き下ろしかも。小品コーナーで無く、もっと盛り上げて欲しかった。
最初はエレキギターの弾き語り路線かと思わせる。バンドが加わっても「性急なタッチ」かな、と普通に聴き進めるが。
サビでのシャウトが素晴らしい。キラキラと金属質なパーカッションが盛り上げる。一気に高らかに舞う、スケール大きな視点変更の妙味が聴きものだ。
さらにエンディングでは寂しく着地する。一曲の中でムードがクルクル変わっていく、コンパクトで雄大な傑作。
10. Rhoda Rhoda
逆にこっちはギター・バンドでライブ映えはしそうだが、楽想はシンプル。淡々と流れる時間が少々物足りない。
サビでコードを変え、小刻みなフレーズを混ぜるなど、作曲/アレンジ双方に工夫はあるけれど。
11. Give Up The
Grape
小品コーナー終わりの楽曲は、ざくざくっと粗削りな耳ざわり。2分弱の曲だが、妙に時間長く感じさせる。本盤の他楽曲と異なり、重厚に刻みを入れる。サビでの音数減らしたアレンジから、低い声でじわじわ迫る迫力がポイント。
12. Pegasus Glue Factory
サビ前で軽く放る不安定さと、サビでしっかり固める二面性を持った。背後のシンセが揺れる雰囲気を表現する。ひとつながりにサビへ行くため、少しつかみどころが無い。
さらに大サビで荒々しくザラついた味わいも足す。エンディングではグランジ風の混沌も付け加えた。
楽想は3つのアイディアを素直に足しこんだ感じ。アレンジで工夫。
13. Top Of My Game
中盤で室内楽っぽい弦の音色が入ることもあり、意外に英国風ムード漂う一曲。
ギターのアルペジオをベースが少ない音で支えるアンサンブルは、ドラムが加わってもシンプルに響く。
ところがメロディが一巡のあと鍵盤やギターが足され、しだいに楽想がドラマティックに誘われる。
全体で見たらとっ散らかったわけだが、聴いてるときは自然な展開へ普通に引っ張られた。
14. Tomorrow Will Not Be Another Day
じわじわくる佳曲。
GbVやボブのギター・リフはストロークを生かしたものが多く、この曲みたいにフレーズのイントロって新鮮だ。サビでダブル・ボーカルになる、初期ビートルズを連想させる曲。
メロディもきれいだ。ドラムは定常的に叩いてるが、不思議と目立たない。シンバルの高音ばかりが賑やかに鳴る。
サビからエンディングまで、しだいに上昇するムードが良い。
15. Join The Eagles
鍵盤やリズムで上手いことまとまってるが、基本は一筆書きの呟きな、ボブ流の楽曲。着地点や構成を匂わせず、ふわふわとメロディが動いてく。
いちおうサビや繰り返しはあるが、聴いてるとドリーミーなムードに幻惑されてしまう。
ポップに纏まった楽曲が多めの本盤で、ふと挿入されるボブの風流な楽曲が聴けてうれしい。最後のおまけみたいなベースの一音で、トッドは存在感を出した。
16. Full Sun (Dig The Slowness)
サビの倍テンでスピードを上げる。シンプルなギター・ロックだが低音やディストーションをあまり強調せず、サクサクと軽やかなアレンジ。
中盤でベースとギターのリフが続くとこも、スムーズに仕立てた。アルバムの締めにしては、重心が高い。シンセのソロが入ったり、ひときわバンド風に盛り上げで落としどころを作ったか。
たしかに大団円っぽいムードとも、取れる。