Guided by Voices

"Moses on a snail" Robert Pollard (2010:Guided By Voices Inc.)

Producer, Engineer, Mixed , Bass, Drums, Guitar, Keyboards : Todd Tobias
Written-By, Vocals:Robert Pollard
Cello : Chris George on 1

 甘く内省的なソロ・アルバム。サウンドはがっつり賑やかだけど。

 2010年7月9日のライブで一回だけ、アルバムの曲順通りに全曲が演奏された。少なくともGbVdb上では、この後一度もライブで取り上げられた様子は無い。なおこのライブではビーチ・ボーイズ"God only knows"のカバーも演奏したらしい。音源も映像も残ってるらしいが、見てみたいものだ。

 Boston Spaceshipと決別し、GbV再結成に向かう。そんな場所に位置する、一里塚のアルバム。実際、収録12曲のうち10曲はたった一日で作曲されたらしい。前ソロ"We All Got Out Of The Army"は2月で、本盤が6月の発売。4ヵ月の間しか置いていない。

 メロウさが前面に出て、どこか大味なロックが詰まった。トッド・トバイアスのアレンジでピンとこないように誤魔化されてるが、サイケな投げっぱなしの感じは薄く、どの曲も練られてるのに。
 演奏は全てトバイアスの多重録音な、いつものスタイル。(1)でだけ、チェロにクリス・ジョージが起用された。

<全曲感想>

1.   The Weekly Crow 

 ギターが拍頭を4拍子できっちりストロークし、合間をチェロが縫う甘やかな音像が気持ちいい、ミドルテンポの曲。アルバムの幕開けにしては地味だ。掛け合いのようにボーカルが重なり、二番目の声はちょっとひしゃげた重さも加える。
 最初のフレーズから譜割が増え、畳み掛けるメロディの美しさったらない。

 サビに向かってじわじわと積み上がるメロディ。最後の1拍を全休符にして、寂しさを強調するアレンジも素晴らしい。
 チェロはかなりローファイな音色で録音され、ぎちぎちと空間を埋めた。みっちりと分厚く迫る、ベタッとした響きのサウンドがサイケ・ポップらしくて良いなあ。

2.   A Constant Strangle 

 トバイアスのひとりバンドのグルーヴが炸裂した。ドタバタするドラムを、手馴れたギターのリフががっちり支えてアンサンブルを固めた。
 サビ前でちょっと調子っぱずれに揺れるとこも含めて、ボブは寂しげに歌い上げる。

 ギター・ロックに仕上げたアレンジは、グルーヴィだが前のめりの勢いはない。むしろノリをグッと係留する重たさがあり。
 けれどもボブの歌声がまっすぐ前に連れて行ってくれる。終盤の繰り返しの前、すっと声を置くような瞬間がカッコいい。

3.   Arrows And Balloons 

 アコギ数本のストロークで爽やかに始まり、シンセの長いフレーズが甘酸っぱさを強調した。跳ねるボブの歌声は平歌で短くシャキッと旋律を切り、サビでの畳み掛けを引きたてた。
 ここではドラムが無骨ながらカッチリ刻んで、ノリを崩さない。アンサンブル全体で拍頭を叩き、軽やかな雰囲気を演出した。フェイドアウト前の多重録音なボーカルもソフト・ロックな涼しげだ。

4.   Lie Like A Dog

 重たいムードだが、ボブのボーカルはどっか軽やか。エイト・ビートで刻むドラムへ、無造作に絡むギター。アイディア一発っぽいシンプルなアレンジだが、メロディは凝っている。
 シンプルに幾つかのフレーズを繰り返すだけだが、フレーズのアクセントやタイミングを微妙にずらしながら歌うことで、単調さを丁寧に回避した。曲調は単調だが、ボブの歌声で飽きさせない。
 
5.   Ice Cold War

 3拍目の頭を消して跳ねたビートが延々と曲を引きずる。平歌からサビへ高らかに跳躍する魅力的なメロディなのに。アレンジが中途半端に固まってしまい、ミニマルな要素が強まってしまった。トバイアスのアレンジはたいがい、ボブの曲をさらに魅力的に仕上げるが、この楽曲のアレンジはいただけない。
 ボブがせっかく平歌をのびのび歌って、サビでポオンとメロディを空へ投げるのに。
 
6.   Each Is Good In His Own House 

 (4)〜(6)まで三曲続けてギターの音色が似かよってる。この曲でシンセが前に出て、ちょっとムード変えるけど。ボブのメロディが色々変わってるわりに、アレンジがどうもシンプルすぎる。
 この曲でボブは着地を見せぬ旋律の一筆書きっぷりを、華麗に魅せた。かっちりしたアレンジで、それと感じさせないが。リバーブ効かせて華やかに盛り上げも可能なはずだが、あえてドライにボブは喉を震わせた。

 平歌でのドラムはチョッと前に出過ぎだが。間奏では音色同じで、急にドライに響いた。

7.   How I've Been In Trouble 

 ギター・トリオの諦観を感じさせるアレンジが無念。ただし演奏は抜群。8小節ひとまとまりの5小節目で、ドラムが手数増やしベースとギターが絡む。この瞬間のバンドっぽさにはやられた。絶妙なアンサンブルだ。
 メロディは一筆書きっぽい浮遊性もあるが、緩やかに滑らかな空気を漂わせる。たぶんギターの弾き語りでも成立するが、敢えてトバイアスはバンドにしたかったんだろう。
 どこか暗いムードの曲だが、演奏とボーカルのハマりっぷりは凄まじい。 

8.   It's News 

 ニューウェーブ風に尖ったムードを出した。ひきつるギター数本と、煽るドラムにベース。これまでの甘さをそぎ落とし、クールにボブは歌ってく。
 アルバムでもちょっと新鮮な響きだが、ギターの音色やサウンドの耳ざわりに共通性あるため、はみ出さない。
 ボブのでもがどうなってたかは知らないが、きれいに風景を変えてみせるトバイアスの実力を見せつけた。終盤でサックス風に鳴るシンセの単音も効果的だ。

9.   It's A Pleasure Being You 

 一転して甘酸っぱい小品。ギター数本をダビングして広がりを出し、途中からバンド・サウンドで色合いを変えるアレンジだが。むしろ過剰な気も。たぶんこの曲、シンプルな弾き語りだと、ボブの変てこな跳ねあがりが強調されて面白かったろう。
 ほとんどフレーズを変えず、繰り返してくだけ。けれども歌い方で説得力を持たせる。
所々で、いきなりグッと柔らかく響く和音進行も抜群だ。これはボブとトバイアス、どっちの手柄だろう。
 終盤でボブは喉をちょいとヒネってメロディをフェイクさせる。上手いなあ。

10.  Big Time Wrestling 

 これも(8)同様のニューウェーブ風。だがベースとドラムをちょっと重たく配置して、味わいを変えた。トバイアスのセンスが光るアレンジだ。
 メロディは同じフレーズの繰り返し。ミニマルな投げっぱなしのロックンロール。けれどもこの曲は、トバイアスのおかげで魅力を保った。
 ドライなバンド・アンサンブルが、カッチリはまったグルーヴを作り出す。まいどのことながら多重録音と思えないノリだ。
 
11.  Teardrop Paintballs

 メカニカルなループをしばらく流し、アコギの弾き語り風に曲は始まった。一筆書きっぽいが丁寧に展開するメロディ。ギターは歌の譜割にアクセントを併せて、ぴたりと吸い付く緊密度で、甘い空気を強調した。
 歌そのものは、大サビまで展開しないで終わってしまう。メロディの核だけをギュッと握ったボブらしい小品。しかし前後のループやアコギのダビングで、さりげないドラマティックさを演出した。これはトバイアスのアレンジ・センスの勝利。
 
12.  Moses On A Snail

 タイトルは再び、重たいロック。こうして聴いても、乾いたニューウェーブ的なアップ・テンポは有っても、アルバム全体から伝わるのは内省的なムードが勝つ。
 この曲はいくつかのメロディを組み合わせたかのよう。ブロックごとに強調する楽器を変え、サビでは強力にギターとドラムを叩きつけ強さを演出した。
 寂しげなメロディが全編を覆うが、バンド・サウンドの力でセンチメンタルに雪崩れない。

 本盤唯一の5分越え。ボブにしては大曲と言っても良い。歌声は安定せず、そこかしこでぐらぐら揺れる。ボブは別にコントロールされた歌声が売りではない。むしろ不安定なほう。でも、この曲での揺れはバンド活動での悩みを吐き出すかのよう。ボストンから新生GbVへ。暴れる創作力と、バンド活動の対比がもたらす苛立ちを込めた歌に聴こえてしまう。
 曲そのものが長いのは、トバイアスによる長尺ギター・ソロのせいではあるのだが。

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