Guided by Voices

"Mouseman Cloud" Robert Pollard (2012:Guided By Voices Inc.)

Producer, Engineer, Mixed By, Bass, Drums, Guitar, Keyboards - Todd Tobias
Written-By, Vocals, Guitar, Artwork [Collages], Layout - Robert Pollard

 今度は小品連発な構成の盤。33分で17曲詰まってる。
 ボブは小品山積みと数分の曲を並べるアルバム、趣向を使い分け交互にリリースする手法を取っている。楽想はそこまで極端に分かれず、どちらにも超ポップと実験的な曲が混在するけれど。

 GbVのリリース・ラッシュの狭間で、本盤は発表された。
12/01/01 "Let's Go Eat The Factory"
12/04/13 "Mouseman Cloud" 【本盤】
12/06/12 "Class Clown Spots A UFO"
 GbVDBによれば、これでもリリース時期は気を使ってたらしい。本来は3/20に発売予定が、"Let's Go Eat The Factory"の公表を受けて一か月ほど本盤の発表が延期とある。

 とはいえ直後、12/9/18に続くソロ"Jack Sells The Cow"をボブはリリース。出しまくりは変わらない。この年は6月に"Class Clown Spots A UFO"発表後、ツアーが9月末まで続いた。
 つまりソロ"Jack Sells The Cow"はツアー終了を待たずに出たことになる。なんともはや。
 続くGbVのアルバム"The Bears For Lunch"同年11/13。ツアー挟みながら数か月おきに、ボブはソロとGbVを出し続けてたことになる。なんともはや。
 
 ソロとGbVの違いはなんだろう。本盤はトッド・トバイアスの多重録音にボブが歌を載せる、ソロではすっかり定番な録音形態だ。
 確かに楽想的に、本盤はロック的なダイナミズムが薄めではある。だがあまり差は無い。バンド的な面白さと、楽曲の作りこみの差か。(7)みたいにカウントで始まる"一人多重録音"な曲もあるのが奇妙なところ。
 なお本盤収録曲は、GbVdbで見る限りはライブ演奏の記録は無い。

 くわえたばこでうつむき加減、白黒ポートレートの渋いアルバム・ジャケットだ。内省的なムードを伺わせ、とっ散らかったロックをさりげなく聴かせる。

<全曲感想>

1. Obvious #1

 畳みかける曲。明るくてキャッチー、シンプルなギターリフも繰り返すサビのフレーズもキュートだ。これもライブで映えそうだが。あっさりとこのアルバムで発表にとどまった。
 一人多重でバンドっぽいダイナミズムを上手く出す、トッドの手腕が光った。カウンター的に動くベース・ラインがきれい。

2. Picnic Drums

 どたどたと繰り返されるドラムがイントロ。デモでボブはけっこう曲を作りこむときもあるが、このドラムはボブとトッドどちらのアイディアだろう。
 ギターにひたすらリフを弾かせ、ベースがユニゾンとオブリを使い分ける。シンプルなドラムを目立たせた曲かと思わせて、ベースに気配りしてる。サビでちょっと入るシンセも効果的。アレンジ練ってるなあ。3分半と異例の長尺(?)で演奏された。

3. Mouseman Cloud

 せわしなく初めて、サビでじっくり。緩急効かせた。数曲を強引に一曲へまとめたかのよう。ドラマティックな展開だが一分半であっさり終わってしまう。
 その割に色々場面展開あり、意外と長く聴こえるのだが。

4. Dr. Time

 一分間の小品。かっこいいロックなのにもったいない。ギター数本のバンド・アレンジで小気味よくまとめられた。平歌からサビに向かい、ダブル・トラックのメロディもキャッチーだ。
 "Bye-Bye"と言ってそのまま終わってしまうが、これはもったいない。埋もれさすには惜しい佳曲。

5. Lizard Ladder

 重たいサイケな楽曲。二音を上下するリフが不穏だ。
 がっつりバンド的なうねりを持った演奏。メロディは地を這うとこからじわじわ上がり、ときどきぴょこっと高く跳ねる。煮え切らずもやもやしたまま曲が終わった。
 
6. Human Zoo

 一分足らずの小品。甘酸っぱさが一通り時間たち、酸っぱくなりかけたメロディ。こういうさりげない曲に、ボブはキャッチーなメロディを放り込む。別の曲と合わせて一曲に仕立てたらと思うが、歌詞でメロディを固定させてるのかな。
 数本のギターが掛け合い気味にストロークでスピード感を出した。

7. Bats Flew Up

 正統派のブルージーなリフをもとに、少しばかり調子っぱずれなメロディを歌う。和音とメロディが合ってないと思われる。軽くブレイクを挟みながら着々と進行する曲。シンプルだがライブ映えしそう。サビでくしゃっとモヤけて盛り上がるさまも決まってる。
 まさにバンド・タイプの曲。なぜこれをGbV本体へ投入しない。

8. Mother's Milk And Magnets

 アルペジオとストローク。ギターを上手く混ぜてサイケな雰囲気だした。この辺はトッドの手柄か。シンプルなフレーズで効果的なロックを作る。
 メロディはサビの華やかな浮かびっぷりがボブっぽい。と思いきや、中盤でザクッとした別な雰囲気に向かう。ここでは組曲風に作って、3分程度の曲にまとめた。(6)とこの曲で、作曲手法は何が違うのやら。
 なお中盤からのフレーズは酩酊気味のシンプルなフレーズを繰り返すだけ。終盤のバンド・サウンドに変わって、テンションを盛り返した。それでもあの中間部分を省かないとこが、ボブの選択肢か。

9. Continue To Break

 これも数本のギターでシンプルなパターンを合わせ、奥行きを出すきれいなアレンジだ。わずかに切なさをまとったボブ節が冴える。サビのキャッチーな前のめり感もいい。これも本体GbVに投入して、もっと育てて欲しかった。
 いくぶんサビが繰り返され続けるところが、くどい。シンセのパッドの透明感付与でアレンジの変化をつけてるけれど。

10. I Was Silence

 威勢のいいロックで本体GbVに似合いそう。こればっかりだが、本当にソロ・アルバムで、それっきりに至る今がもったいない。特に復活GbVはソロやコンビの詰め合わせって感じで、バンド的な弾け方が物足りなかっただけに、なおさら。
 メロディは断片の積み重ねっぽい。極小のイメージがつながり、一曲に仕上がる。ただしキャッチー。

11. Smacks Of Euphoria

 つんのめるリズム・パターンで、ギターの他に鍵盤も足してドラマティックさを強調した。特に盛り上がらず、淡々と曲が進んでいく。2拍目の裏で踏まれるバスドラが妙に気になる。一瞬とまどうが、アレンジは考えられてる。

12. Science Magazine

 乾いたハイハットと鈍く響くスネアのドラム。チープなリズムの音色がまず耳に残る。
 メロディはほんのり甘酸っぱい。明るいミドル・テンポだが派手にライブで盛り上げる曲でないのは、ギターが大人しいからか。間奏のシンセもさりげなく綺麗だ。
 緩やかなコード・チェンジが気持ちいい、キュートな曲。最後はリタルダンドで終わるとこが、ちょっと寂しげ。

13. No Tools

 ほんのり内省的なイメージ。ギターが粘っこくイントロ長めに、つぶやくようなボーカルが入る。ギターとベースを同じ4分音符で頭打ちの刻みに徹し、スペース大きな1番の平歌。そしてオルガンも足して厚み増したサビへ展開させるアレンジが面白い。そのあとはドラムが軽くリフを入れて、賑やかさをちらつかせる。
 曲が一筆書きな分、演奏の変化で聴かせた。

14. Aspirin Moon

 アップテンポのロック。こういう賑やかでアグレッシブな曲はGbVに・・・もう、いいか。これもキャッチーなメロディが良い。ベースが表、ギターが裏で掛け合うアレンジが、いい感じで躍動感を出した。派手にシンバル叩いて暴れるドラムが、ひときわバンドっぽい。
 コーダで余韻をぐうっと数秒も残して寂しげな風景だすのは演出?

15. Half-Strained

 ピッチをゆらゆらベンドする鍵盤が左右からまず入り、ギターの刻みで背筋伸ばさせるサイケなロック。イントロだけで尺の半分を使う74秒の小品。イントロはどの辺までボブのアイディアだろう。
 ようやく歌い始めと思ったら、あっというまにメロディがゆらゆら揺れて終わってしまう。ちょっと気だるげなミドル・テンポに仕上がったかもしれないのに。溢れるアイディアを無駄遣い。

16. Zen Mother Hen

 アコギのかき鳴らしとドラム。和音の跳ね方が唐突で、メロディの生き生きさが強調された。落ち着かない印象で歌がひょこっと弾んだ。和音もメロディも予測しづらい着地を繰り返す。
 こういう曲は逆にスタジオでソロ向き。しゃくしゃくとギターが刻んで、すぐに終わった。

17. Chief Meteorologist

 ストリングス風のパッド・シンセにギターのイントロ。ドラムとベースが加わり、しとやかにボブが歌いだす。3分かけてじっくり展開するバラード気味の曲。リズムがキッチリとビート刻むけれど、かなり雄大な曲に仕上がったはず。変な和音感でシンプルに処理してしまうが。あえてセンチメンタルさを避けたか。

 何だかんだアイディア満載で駆け抜けた本盤を、じっくりしめるにはちょうどいいかも。
 

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